ゆらゆらと世界を揺蕩っていた第七音素は、やがて少しずつ寄り集まり、そこに自我が芽生えた。
生まれたての幼い自我が最初に見たものは、美しい声で歌う女の姿だった。
女は優しくローレライを呼び、ローレライはその声に抗えずにふらふらと近づいていった。
・・・そして捕らわれた。
契約の譜歌で雁字搦めにされたローレライは、女の言うなりに力を使っていった。
体内の第七音素を、小山のような譜石に変え、瘴気に満ちた大地を押し上げる為の力となった。
そして大地を支える為の贄となり、地核の奥に封じられたのだ。
消耗したローレライは長い間眠りについた。その間にも、第七音素は引き出され、使われ続けた。
1000年も経った頃、やっと目覚めたローレライを待っていたものは、長い長い孤独だった。
契約の鎖で封じられたローレライが外界を垣間見られるのは、時折夢のように意識を外に飛ばせる時だけだった。
真っ白い何も無い空間で鎖につながれ、ただ待ち続けた。 ・・・何かを。
涙を落としながら夢を見ていたローレライは、不意に遠くに焔が生まれた事を知った。
(ああ、あれは私と同じ存在。聖なる焔の光が今、誕生した!)
歓喜に包まれたローレライは、その焔を見つめ続けた。
封じられた力で、懸命に声を届けようとする。
(『ルーク』私の半身。どうか答えて・・・)
聖なる焔の光がやっと答えてくれたのは、過酷な実験に疲れ果て、気絶するように眠り込んだ夢の中だった。
聖なる焔は人の世の中で、まるでローレライの様に孤独に雁字搦めにされ、力を搾り取られている。
ローレライは心を痛めた。
夢の中でそっとルークに話しかけ、側に寄り添った。
歯を食いしばって膝を抱え、泣くのを堪えていた小さなルークは、同じ孤独を抱えて寄り添うローレライに抱きしめられ、はじめて涙を落とした。
(泣かないで、『ルーク』私はローレライ、お前と同じ存在だよ。ずっと一緒にいるから、どうか悲しまないで・・・ねぇ、いつか二人で世界を見ようよ。)
ルークの苦痛の悲鳴が聞こえ、ハッと意識を向けたローレライの目前で、美しく輝いていた聖なる焔の光が二つに引き裂かれた。
輝きを濁らせた光と、生まれたばかりの微かな光。
何と言う事を! ローレライは悲鳴を上げた。
おろおろと弱ってしまったルークの意識に寄り添うが、気絶したルークが答える事は無かった。
引き裂かれたままでは、聖なる焔の光がローレライと共に音譜帯に上がることは出来ない!
パニックを起こしたローレライは、ふと小さな光に目を留めた。
そうだ、この光に私が入って、その時が来るまで焔を守り続けよう。いずれ融合して完全な聖なる焔の光に戻った時に、私と共に音譜帯に来てもらえばいい。
ローレライは本体から無理やり意識を切り離し、その生まれたばかりの小さな焔に入り込んだ。
力のほとんどを使えなくなってしまったが、そんな事はどうでも良かった。
聖なる焔の光から分かたれた小さな焔から『ルーク』に話すのは、以前より簡単だった。
安堵したローレライはルークに話しかける。
ルークは暗い部屋に閉じ込められ、薬物を投与され、信頼していた人たちに裏切られたショックでボロボロになっていた。
(ルーク! しっかりして。生きて!)
(・・・ローレライか? お前、どこにいるんだ・・・)
(私は地核に封じられているけど、意識だけ切り離してお前から別れた焔の光に入り込んだ。)
(あのレプリカの身体に入ったのか・・・)
(そうみたい。 ・・・いつかこの身体はお前と融合して、完全な聖なる焔の光に戻るよ。そうしたらずっと一緒にいよう。音譜帯に上がって二人で世界を見ようよ。)
(お前は俺を裏切らないか? ・・・ずっと一緒にいてくれるのか・・・?)
(うん、ずっといっしょだよ。)
ローレライはズタズタに傷ついた精神が壊れてしまわぬよう、ただ寄り添い続けた。
ローレライは手に入れた身体を使おうとしたが、今まで身体など無かったローレライには難しく、動かすのに時間がかかった。
(ごめんねルーク。助けに行きたいのに、上手く体が動かない)
(気にするな、その身体は作られたばかりだ。急に動くわけが無い。それよりこうして話してくれるだけでいい)
(たくさんお話しよう。私の知ってること、なんでも教えてあげるよ。)
数年が経ち、ローレライはファブレ家で『ルーク』として育っていった。
人間としての常識を持たないローレライは、幼児のようにメイドや家庭教師を困らせた。
オールドラントの歴史を習っていたローレライは、自分を閉じ込めたユリアが聖人として称えられているのを聞いてすっかりへそを曲げてしまったのだ。
傍目には傍若無人とも取れる態度に、家庭教師達はきちんとした教育を受けさせる事を諦めた。
父親は、いずれ死んでしまうのだから、とそれを黙認した。
復讐を心に秘めたガイは、『ルーク』が孤立するのを黙って見ていた。社会的常識を教える事も無く、我侭(に聞こえる発言)を何がいけないか教える事も無かった為、ローレライはこれが人の世界の常識なのだと思い込んでしまった。
ダアトでアッシュという名を付けられた『ルーク』は、特務師団として働きながら腕を磨き、ついに六神将に上り詰めた。
ローレライに消滅預言の事を聞いたアッシュは、迷っていた。
人の世は冷たいばかりだったが、滅びを迎えるのは防ぎたかったからだ。
いつかローレライと共に音譜帯に上り、二人でローレライになることに不満は無かったが、存続する世界を見続けたい。その言葉にローレライは笑って頷いた。
融合するのは、世界が存続してルークが満足するまで生きた後で構わないと言った。
預言通りにしていると滅亡してしまう世界を救うには、とりあえず預言を覆そうとしているヴァンに協力した方がいいだろうと、アッシュはファブレ家に帰らず教団で力をつけたのだった。
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