超パラレルな短編

パラレル　　　どんだけアッシュに夢見てるんだよ、自分！　というおはなし

かなしい　おとぎばなし

 

 

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　『スワロウテイル･バタフライ』

 

 

かつての大戦で、ローレライ一族は滅び去った
王子をひとり残して
美しい深紅の髪と、焔のような深紅の翼を持つ王子は、その美しさゆえに捕らえられた

りっぱな城のおくの、たかいたかい塔の上で
手足に呪のかかった戒めを付けられ
おおきなおおきな銀細工の鳥篭の中で飼われた
長命なローレライ一族の王子は、何年も、何十年も、百年も飼われ続けた

声を出す事も、振り向く事もせず、ただ籠の隙間から僅かに見える空を見ていた

聖なる焔の光という美しい名前だった王子は
誰も呼ぶもののいないまま、自らを屍の灰と呼んだ

 

美しい深紅に魅せられた時の王は、王子に人形を与えた
いつも冷たく彼方を見ている王子の、微笑む姿を一目見たかったのだ

王子に似せた生き人形は、無邪気に王子に微笑みかける
紛い物など、と初めは辛くあたっていた王子も
ながい孤独をいやす微笑みにだんだんと笑顔を見せるようになっていった

 

王子のかすかな微笑みに有頂天になった時の王は、伝える事ができなかった
生き人形はすぐに壊れてしまう事を

 

自分を膝に乗せてゆっくりと撫でていた王子に、不意に人形はありったけの笑顔を見せた
王子をぎゅうっと抱きしめてふんわり笑った
そしてはらりはらりと光の粒になって消えていった

 

悲しむ王子の嘆きの歌は、遠くまで響いた
哀しく美しいその歌声は、時の王の心をとりこにした

ひとり、消えるとまたひとり
何体も何体も、人形を贈り続けた
嘆きの歌を、聴くために

孤独をいやす術を知ってしまった王子は、泣きながら人形を愛した
･･････愛し続けた
人形が消えてしまうたびに、嘆きの歌は美しくなっていった

 

何十人目かの人形がつれて来られたとき、王子は時の王に話しかけた

 

わたしの孤独をいやしてくれてありがとう
貴方のために歌いたいから、わたしを塔のてっぺんに連れて行ってくれないか
わたしの翼はながく飛ぶ事は出来ないから
けして逃げられぬ、たかいたかい塔のてっぺんに

 

王は王子の願いを聞きとどけた
だれにも懐かぬ美しい小鳥を、ついに手懐けたと鼻高々だった
王子の愛する人形をちいさな籠に閉じ込め、屈強な兵士に抱えさせると
王子を塔のてっぺんに連れ出した

 

王子はふるいふるい言葉でうたった
王には理解できぬそのうたは、死出の旅路にうたう歌だった

 

その歌をきいた籠の中の幼い人形は、にっこりと笑うと王子に手を差し伸べた
そして光の粒になってふわりふわりと消えていった

王子は人形にやさしく微笑むと、ゆっくりと翼をひろげた
人形の光のさいごのひとつぶを
そっと胸にだきしめる

そして空にむかって舞い上がった
萎えたつばさは痛み、戒めの呪で手足は朱に染まった

 

あわてる王の声が小さく聞こえる
王子は高く高く、天へと羽ばたいていった

 

 

たかいたかい塔のある

おおきなおおきなお城のそばの

ふかいふかい谷底に

 

 

その日

まっかなまっかな

 

はながさきました

 

 

 

※スワロウテイル･バタフライ＝絶滅危惧種の美しい蝶　「世界でただ一人残されたもの」と言う意味で付けました。同名の映画、歌とは関係ありません。（見てないんです。）