忍者ブログ
同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.04.30,Tue
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by tafuto - 2008.03.23,Sun


IF  ED後 
アッシュがルークと自分自身を産み直したという話  親と子の再生の話


アッシュ女体化、妊婦、出産。 ・・・しかしアッシュ受けでは無いと言い張る。

生々しいが、色物ではない。 シリアスだが、暗くはない。 カップリングは無いが、愛はある。
例によって同行者の扱いはあまり良くは無い。

私の中のアッシュ像的に齟齬は来たさないのですが、ダメそうな方は読むのを止めておいてください
格好良いアッシュではありません。

う~ん・・・身体と心の再生の話? 突然、無性に書きたくなったのです。


あらすじ

ED後、戻っても喜ばれないと感じたアッシュは初めはわりと自暴自棄だった。
ルークさえ戻せば自分はどうなっても良いや。お前らはそれが望みだろ?って感じ。
アッシュはローレライにルークを宿してもらう。身体も女性に変化した。
具合が悪い所をローズに助けられ、エンゲーブで暮らす。
妊娠が進むにつれてルークを受け入れるアッシュ。
親の血肉を分けて子が出来る、なんだレプリカだって同じじゃないか、と。
出産の時は母上に感謝。
ルークを育てていくうちに愛する事、愛される事を知る。
しかしガイ達に見つかってルークはバチカルに連れて行かれる。
ファブレ夫妻は我が子たちに対する態度を凄く後悔していたから、アッシュの幸せを考えて行動する。

 

 

 

 『 Birth 』

 

タタル渓谷に焔は帰還した。
・・・たった一人で。

焔は、アッシュと名乗った。

「ルークは・・・ルークはどうしたの?」
震える声でティアが訊ねる。ガイが掴みかからんばかりにアッシュに詰め寄った。
ジェイドが眼鏡を押さえながら大爆発の説明を語る。
ナタリアが複雑な表情で俯き、アニスが涙を落とした。

「ルークを、取り戻したいか?」

無表情に佇んでいた焔が誰に言うとも無しに呟く。

「当たり前だ!」
「そんな方法があるのですか」
一斉に声を上げる一同に背を向け、焔は歩き出した。

「いずれお前たちの元へルークは戻してやる。・・・・・・それには時間が必要だ」

「待てよアッシュ! 詳しく話を聞かせろ」
ガイが掴もうとした手を、アッシュは振り払った。
「俺に触るな。・・・ルークを取り戻したかったら俺の後を追うな。捜索隊など出されたら、ルークは二度と戻らないと思え。」

言葉を失った一同をその場に残し、焔は夜の闇に消えて行った。

 

「何故! 何故ですの? お父様や叔父様にも伝えてはならないなんて!」
「ナタリア・・・ キムラスカに伝えれば、必ず捜索隊が出されるでしょう。ルークが戻らなくても良いの?」
「まったくも~、アッシュってば意地っ張りなんだから!」
「私も大爆発について色々訊いて見たかったのですが、強引に今捕まえても機嫌を損ねてしまうでしょう? 今はそっとしておきましょう」
「アッシュの奴、ルークがもどる手立てがあるならさっさと俺達に協力すればいいのに!」
憮然とし、呆れる皆の顔を見て、ナタリアは呟いた。
「・・・でもわたくし、まだ言っていなかったのですわ。・・・おかえりなさいませ、と」
「なんだぁ? そんな事で拗ねちまったのか。アッシュの奴、相変わらずだな!」

そして皆は気付く。 誰一人、アッシュの帰還を喜ぶ言葉を口にしなかった事を。
しかし、いずれルークに会えると言う喜びがその気まずさを打ち払った。
アッシュの帰還を誰にも話さない事を誓い、一同はセレニアの野を後にした。

 

アッシュはタタル渓谷のセフィロトに来ていた。
眼を閉じ、祈りを捧げる。
やがて朱金の光がその場に満ちた。
(焔よ・・・心は決まったか)
「・・・・・・ああ」
(・・・自暴自棄になっても、もう一人の焔は喜ばんぞ?)
「俺の身体が役に立つんなら使えば良いと思ってるだけだ。さっさとやれ」

すべてを拒絶したように無表情に言葉を発するアッシュの様子に溜息をつくと、ローレライはアッシュの音素に干渉を始めた。
光がアッシュを取り巻き、内部へと浸透する。身体を作り変えていく。
熱さえ感じる一際強い光がアッシュの下腹に宿った。

光が消え、アッシュは膝を付いた。吐き気に口元を押さえた手が細い事に気付く。
柔らかな、女性の身体になった自分がそこに居た。
無感情に口元を歪め、そっと下腹部に手をやる。
「・・・・・・ルーク、ここに居るのか? 面倒だ、さっさと生まれて来い」

 

夕方、村に着いた辻馬車屋から、ローズは相談を受けた。
街道をふらふら歩いている女を乗せてきたが、具合が悪そうでどうしたら良いか、と。
さすがに無一文でも具合の悪い女一人を街道に残しては置けなかったらしい。
馬車に寄りかかるように休んでいる女を一目見てローズは眼を見張った。
赤い髪に翠の眼。・・・世界を救って消えてしまったルークに、そっくりだった。

女を自分の家に案内しながら、ローズは訊ねた。
「どこか具合が悪いのかい? あんた、ルークさんにそっくりだけど何か縁が有るのかい?」
気分が悪そうに口を押さえていた女は、その言葉にローズをじっと見た。
「ルークを知っているのか? 俺・・・私の事は誰にも知らせないで欲しい。私はアッシュと言う」
女はそう言うと下腹に手をやった。
「・・・あいつは此処に居る。」       


眼を見張ったローズは突然叫んだ。
「まあまあ! あんた子供がいるのかい? 無茶してまったく、何かあったらどうするんだい!身体を冷やしちゃダメだろう? つわりかい、スープは飲めるかねぇ・・・」
甲斐甲斐しくアッシュを毛布で包み温かいスープを渡したローズは、アッシュの前に座り静かに目を合わせた。アッシュの凍りついた目が揺らぐ。
「・・・何かつらい事が有ったんだろう? あんたが訊いて欲しくないなら何も訊かないよ。子供が生まれるまで、いいや、いつまででも此処にいて良いんだよ」
そっと髪を撫でる優しい手に、アッシュの眼の奥が熱くなった。
「・・・・・・ありがとう・・・」
俯くアッシュを、ローズは優しく抱きしめた。
こんな、壊れそうになるほど傷ついた人を放っては置けなかった。

 


変わってしまった身体も日に日に膨れていく腹も、気味が悪くて仕方が無かった。
あいつらが望む『ルーク』を帰してやりさえすれば、自分なんてどうなっても良いと思っていた。
死にぞこなってしまった自分自身に価値など無いと思い込んでいた。

しかしローズは、村の人達は子供の成長を祝ってくれる。自分が元気になった事を喜んでくれる。
ちょっとした仕事の手伝いでも、笑顔でありがとうと言ってくれる。
暖かな祝福に包まれて過ごしたアッシュは、自分が酷く安らいでいるのを感じていた。
そして安らぐ事も無いまま消えてしまった半身の事を想う。


せり出て来た腹の奥に、ルークの小さな命が息づいているのが分かる。

・・・・・・今、動いた。

「ルーク・・・此処に居るのか・・・・・・」

一度目にこの言葉を言った時は、早く任務を終了したいという義務感で一杯だった。
しかし今は心から望んでいる。
あの眩しい焔の光に、早く会いたかった。そしてこの気持ちを伝えたい。
愛おしいのだと。

「早く、生まれて来い・・・・・・」

両腕で優しく腹を抱きしめそっと囁くアッシュの声を、ルークだけが聞いていた。

 

いよいよ産み月が近づいたアッシュの為に、ローズは産婆を呼びに行かせた。
不安げな表情のアッシュに優しく微笑みかける。
「さあさあ、お母さんがそんな顔してちゃダメだよ! 子が生まれるのはめでたい事なんだから。・・・しっかり頑張るんだよ」
頷くアッシュに、最初の陣痛が襲った。

だんだん間隔が狭まっていった陣痛が、いよいよ数分おきになった。
アッシュはタオルを握りしめてその痛みに耐える。
声を抑えきれない、眼も眩む痛みにアッシュは思う。
(あの身体の弱い母上が、この痛みに耐えたのか・・・ 俺もこうして、生まれてきたのか・・・)

ひときわ強い痛みが下腹部を襲った。張り裂けそうな激痛に叫ぶ。
「う、うあぁぁ! ・・・母上ぇっ!」

薄れていた意識のなかに、赤子の泣き声が響いた。
おぎゃあおぎゃあと、精一杯の力で泣き叫んでいる。

生きたいのだと、ここに生きているのだと。


親の血肉を分けて子が出来る。皆、精一杯生きたいのだと叫んでいる。
・・・なんだレプリカだって人間だって同じじゃないか。

「おめでとう、五体満足の元気な男の赤ちゃんですよ」

いまだ濡れそぼったままの赤子がアッシュの腕に渡された。
真っ赤な、くしゃくしゃの顔をして泣き喚いている。
柔らかな、暖かい重さが胸の上に感じられた。


(・・・これが、命か・・・・・・)

アッシュの頬を、涙が伝う。それは止め処なく溢れ、流れていった。

「・・・おかえり・・・・・・ルーク ・・・生まれて来てくれて、ありがとう」


アッシュはその柔らかな頬に、心から祝福の口付けを送った。

 


洗濯物を干していると、ルークの泣き声が聞こえてくる。
ローズに色々教わって、子供を育てるのも随分慣れた。

まったく、少しも一人になりたくないみたいだ。
微笑むアッシュの乳がツンと張ってくる。
「何だ、もう腹が減ったのか?」
ルークを抱き上げ、胸をはだけると白い乳が溢れてきた。
こうして乳を含ませ、んくんくと無心に乳を吸うルークを抱いていると、言い知れぬ感情が沸き起こる。
この小さな命は、全身でアッシュを信頼している。アッシュが自分を愛していると感じている。

ずっと裏切られ続けてきたアッシュは、今まで人を信じる事も信頼される事もなかった。
愛するという事、愛されるという事が分からなかった。
この小さな光はそれをいとも簡単にやってのける。

・・・それではこの胸に湧き上がる感情が、愛するという事なのか。この暖かさが、愛されるという事なのか。


柔らかな日差しの中、温かな重みを腕に抱きながら、アッシュは確かに幸せだった。

 


ルークが生まれて2年半ほど経った頃、アッシュはルークをローズに預けて作物を荒らす魔物を狩りに行っていた。
正式に剣を習っていたアッシュは、女の身体になっても村の誰よりも剣を使えたからだ。
動きやすいように男装し、胸にさらしを巻く。
厚手のマントをつけたアッシュは、一見、以前と変わらないように見えた。
「悪いねぇ、アッシュ。女の人にこんな事させて。ルー坊はしっかり見ているから、安心しておくれよ」
「気にしないでくれ。いつも世話になっているのにこんな事くらいでしか返せないんだから、やらせて欲しい。・・・ルーク、大人しくしてるんだぞ」
「や~! るくもー行くー!」
とてとて走ってしがみ付いてくるルークをひょいと抱き上げるとローズに渡す。
柔らかな頬をむにゅっと引っ張ってから音を立てて口付けをしてやるとルークはご機嫌になった。
「あしゅ~、はやくねー!」
「ああ、行ってくる」
微笑んで歩き出したアッシュは、いつまでもこの幸せな日が続くと思っていた。


夕方、魔物をしとめたアッシュは村に帰っていった。
広場でほかの子と遊んでいたルークが目敏くアッシュを見つけ走ってくる。
「あしゅー! おかえりー!」
「転ぶぞ、ルーク」

 

「アッシュ! ルークなの?」

ルークを抱き止めようと伸ばした手が、ビクリと止まった。
通りの向こうでガイとティアが驚愕したようにこちらを見ている。
「アッシュ! ルークが戻ったなら早く知らせてくれれば良いじゃないか!」
「・・・ルーク! お帰りなさい!」
二人はルークに駆け寄り、ティアが震えながらルークを抱きしめた。


アッシュは凍りついたようにそれを眺めていた。 
困惑したようなルークがアッシュに手を伸ばす。しかし動けなかった。
(そうだ・・・ 俺は、あいつらにルークを返すのだと約束した・・・・・・)
初めて自分に訪れた幸せな日々に、もう少し、もう少しだけと先延ばしにし、考えないようにしていた。

アッシュはその場から逃げるように駆け出した。置いていかれて泣き出したルークの声が背後に聞こえてくる。
ガイ達に見つからないようにローズ婦人の家に飛び込む。
「ローズさん・・・匿って下さい。誰も居ないって言って!」
アッシュの取り乱した様子に驚いたローズは、アッシュを奥の部屋に連れて行った。

玄関先でローズの話す声が聞こえる。ルークの泣きじゃくる、アッシュを呼ぶ声が聞こえてくる。
(ルークは、返さなくてはならないんだ)
アッシュは眼を硬く瞑り、両手で耳を塞いだ。

 

部屋の隅で蹲っていたアッシュの肩に優しく手が掛けられた。
顔を上げたアッシュの両目からは涙が滴っている。
「・・・良いのかい? あの人たち、ルークさんの仲間だろう? ルークちゃんを連れて行っちゃったけど、あんたはそれで良かったのかい?」
ローズの言葉に、更に涙が溢れ出す。
「私は・・・ルークを返すとあいつらに約束した。・・・初めから期限付きだったんだ」
「だってあの子はあんたの産んだ子じゃないか!」

「ルークは・・・あいつらの仲間のルークなんだ。 消えたルークを取り戻す為に俺の身体に宿した。・・・俺は、元は男の身体で、その為に女になったんだ。俺たちはエルドラントで死に、俺だけが生き返ったから・・・!」
部屋の隅に蹲り、泣きながら途切れ途切れに告白するアッシュを、ローズは優しく抱きしめた。
「・・・それでも、あんたはあの子の母親だよ」


しばらくして泣き止んだアッシュは、ローズに向かって言った。
「俺は此処には居られない。あいつらに見つかりたくない。・・・この身体を見られたくないんだ。今まで世話になった。感謝する」
出て行こうとしたアッシュをローズは慌てて引き止める。初めて会った時の様な凍った眼をした、こんな状態のこの子を一人で行かせる訳にはいかなかった。
「まあ、待ちなよ。見つかりたくないならいい場所があるから。誰にも教えない、秘密は守るよ」


ローズはアッシュを北の森に程近い、使われていない小屋に案内した。
「ここは魔物が増えた時に猟師が使う小屋だよ。ちょうど良い、あんたはここで魔物が増えすぎないように時々狩りをしてくれれば助かるよ。食べ物は村から運ばせるから」
「・・・・・・すまない。感謝する」
「何言ってんだい! あんたはもうあたしの娘だよ。ゆっくりとここで休んで、早く元気になっておくれ」
「ありがとう・・・・・・」
自分をぎゅっと抱きしめたローズに、アッシュはかすかに微笑んだ。

 

アッシュから引き離されてルークは混乱し、泣きじゃくっていた。
長い髪の女が自分を抱きしめて放そうとしない。金髪の男が宥めるように話しかけてくるが、言っている事が理解できない。
泣き疲れて眠ったルークを前に、ティアとガイは相談を始めた。
「このままバチカルにルークを連れて行くの?」
「それが良いだろう? まだルークは何も思い出していないようだけど、あそこに居たらきっと思い出すんじゃないか? 皆に知らせて来て貰おう」
「・・・そうね、きっと皆で話しかけたら何か思い出すかもしれないわね」

ナタリアやジェイド、アニスに鳩を飛ばした彼らは、思い出せと強要する事がルークにとって以前どれほど負担だったかを忘れていた。 ・・・いや、思いつきもしなかった。


馬車と船を乗り継いでティア達がバチカルに着いた頃には、ジェイドやアニスはもうバチカルに到着していた。
あの旅の仲間達が久しぶりにファブレ邸で顔を会わせる。
「ルーク! うわぁ、ちっちゃくなっちゃって!」
「お帰りなさい、ルーク。まずは健康診断をしなければなりませんね」
「ルーク、わたくし達の事を覚えていまして?」

見知らぬ顔にもみくちゃにされて、小さなルークがべそをかきだす。
そこにシュザンヌとクリムゾンが表れた。
ガイがルークを抱き上げて二人に対面させる。ルークはおっかなびっくり二人を見つめ、シュザンヌの赤い髪にそっと手を伸ばした。アッシュのような髪を今まで見た事が無かったからだ。
「おばちゃん、だれ?」
「私はあなたの母ですよ」
「るくのママは、あしゅだよ」

その言葉に眼を見張ったシュザンヌとクリムゾンは、ティアたちを振り返った。
「アッシュは・・・あの子は生きているのですか?」
「詳しく話を聞かせてもらおう」


応接間に案内された一同は、タタル渓谷での出来事を語った。そしてエンゲーブでルークを発見した後、アッシュは行方をくらませてしまった事も。

「・・・何故、すぐに知らせてくれなかったのです」
「アッシュが後を追うなと。捜索隊を出されたらルークは戻らないと思えと言われましたので・・・」
シュザンヌの言葉にティアが答える。
「私達がそれほど信用できぬか。あの子が探すなと言うなら理由があるのだろう。捜索隊など出しはしなかったものを。・・・・・・いや、信用できぬのも無理はないか、良い親ではなかったからな・・・」
自嘲したようなクリムゾンの言葉に皆が詰まる。後半の呟きはシュザンヌと、シュザンヌに抱かれたルークの他には聞き取れないほど微かなものだった。


「こうしてルークも戻ったのですもの、いずれアッシュも戻ってきますわ!」
ナタリアがその場の雰囲気を変えるように明るい声を出した。それに乗るようにガイも口を挟む。
「そうだな、・・・しかしアッシュが子育てなんて、笑えるなぁ!」
「どんな顔してオムツとか変えてたんだろうね~! 屑が!とか言ってたりして」
「そうね、ルークの為にはいつまでもアッシュには任せて置けないわ」
笑い声の響く中、シュザンヌとクリムゾンが微かに顔色を変えていた。

「さあ、子供が疲れてしまいますから今日は皆様はお引き取りくださいませ。部屋をご用意致しましたわ」
残念そうな一同も、シュザンヌの毅然とした微笑には逆らえなかった。ガイがルークの世話を申し出たが、伯爵にそのような事はさせられないとクリムゾンが断った。
「それではまた明日。・・・ルーク、わたくし達の事、早く思い出してくださいませ」
ナタリアの言葉にクリムゾンが微かな溜息をついた。


ルークを部屋に運びながらシュザンヌが呟く。
「あの方達は、子の前で親を侮辱する事をなんとも思わないのでしょうか・・・」
「アッシュを親と思っていないのだろう。・・・この子はあんなにはっきりと言っていたのにな」
シュザンヌに抱かれてうとうとしているルークにそっと触れながらクリムゾンが呟く。

シュザンヌもクリムゾンも、己が我が子達にしてきた事を酷く悔いていた。
「・・・この子はこの子として成長すれば良いのだ。ナタリア殿下も何故同じ過ちを繰り返すのか」

「ルーク・・・あとであなたの母の事を聞かせて頂戴ね。今日は一緒に寝ましょう」
シュザンヌは自分が腹を痛めて産んだ子の事を想いながら、小さなルークに頬を寄せた。

 

ジェイドの検査によると、ルークはローレライと完全同位体でありながら完全な人間としての肉体を持っていた。小さなルークが語る言葉も母親を慕うものだった。
調べたがるジェイドにその必要はないとはぐらかしながら、クリムゾンとシュザンヌは確信していた。
・・・アッシュがルークを産んだのだと。

捜索隊を出そうとしたインゴベルトとしばらく話し込んでいたクリムゾンは、長期休暇を取って来た。そしてシュザンヌと旅行の準備を始めた。

 

アッシュの捜索もせず、ルークが戻った事を公表もしないというインゴベルトに、ナタリアは詰め寄った。
「何故なのです、お父様! せっかくルークが戻ったのに。いずれきっとルークは全てを思い出して下さいますわ! アッシュだって探せばきっと・・・」
「ナタリアよ・・・お前は『ルーク』の幸せを考えた事があるのか? 我らが何度『聖なる焔の光』を生贄に捧げたのか覚えておるのか? 何故思い出さなければならんのだ。・・・我らにあの子らの行く末をどうこうする資格はもう無いのだと何故解らん」
「・・・でも、わたくしもアッシュと会いたいですわ・・・・・・」
俯くナタリアにインゴベルトの呟きが聞こえる。
「・・・アッシュは、自分の帰還を喜びもしない者と会いたくは無いだろう ・・・・・・それにわしは母親から子を奪うなど、もう二度としたくは無いのだ」
「え?」
「分からないか・・・ ダアトとマルクトにも触れを出した。会いたいのなら彼らが自ら進んでお前たちに会いに来るのを待つが良い。これは勅命である、勝手は許さん」

 


ケセドニアからローテルロー橋を渡り、数人の護衛に守られた大きな馬車が進んでいく。
外見からは分からないように居心地良く整えられた室内にはシュザンヌとクリムゾン、そして小さなルークが居た。 ルークとシュザンヌを気遣い、馬車はゆっくりと進んでいた。

「あのねー、あしゅはいいにおいなの! ぎゅってしてくれるの」
「そう、よかったわね・・・おばあちゃんもぎゅってして良いかしら」
「うん! おじいちゃんも!」
「う、うむ」
「まあ、うふふ・・・ おじいちゃんは照れ屋さんねぇ」

侍女が微笑ましげに見ている。ルークはすっかり打ち解け、母親に会える喜びではしゃいでいた。
やがて馬車はエンゲーブに着き、シュザンヌとクリムゾンはルークを連れて三人だけでローズに会いに行った。


「ろーずおばちゃーん!」
「あれまぁルークちゃん! どうしてここに?」
駆けて来たルークに抱きつかれ、ローズは驚愕に眼を見張った。ルークの背後に、赤い髪の初老の男女が見える。男が進み出た。
「私達はアッシュの父と母だ。この子とアッシュが世話になった、礼を言いたい。・・・・・・あの子の事を、聞かせてくれないだろうか」
「ルークとあの子を引き離す事は出来ません。 ・・・ただ、一目会いたいのです。お願いです」

男女の真摯な瞳に、ローズは心を決めた。
家へ招き入れるとアッシュと初めて会った時からの事を全て話す。あの日アッシュが語った事も全て。

シュザンヌが目頭を押さえた。余りにも惨い運命を背負わせてしまった我が子に詫びたかった。
「私は酷い父親だった・・・・・・それでもあの子に会う資格はあるのだろうか?」
クリムゾンが俯き、声を震わせる。

「親と子が会うのに、資格なんて要りませんよ。後悔してるんなら、ぎゅっと抱きしめておやんなさいな」
ローズは優しくルークを抱き上げた。
「さ、ルー坊、お母さんのとこに行こうねぇ」
「うん!」

 

森の外れにその小さな家はあった。
洗濯物を取り込んでいるほっそりとした女性が見えた。深紅の髪が光を弾く。

「あしゅー!」
ローズの腕から降りたルークが駆け出していく。
洗濯籠を取り落として振り返ったアッシュは眼を見張った。
「ルーク!」
地面に膝を突いて手を広げた、その腕の中にルークは飛び込んでいった。


抱き締めあう母子の抱擁を見つめていたクリムゾンの手を、そっとシュザンヌが引いた。
ゆっくりと二人で歩み寄っていく。
足音にアッシュが顔を上げ、目を見開いた。声が震える。
「・・・・・・父上・・・母上・・・」

自分を見上げるアッシュの肩にクリムゾンはそっと手を置き、片膝を付いて眼を合わせた。
「アッシュよ・・・お前を守ってやれなかった不甲斐ない父を許してくれ。 ・・・今まで良くぞ一人で頑張って来たな」
「・・・アッシュ。 良く、良く帰って来てくれましたね」
シュザンヌがルークごとアッシュを抱きしめる。シュザンヌの涙がアッシュの頬に落ちた。

「父上・・・母上・・・・・・私はこんな身体になって、もうお会いする事は無いと思っていました・・・」
「どんなあなたでも、あなたは私達の子供ですよ。・・・ルークを産み落としたあなたを、私は誇りに思います」


アッシュの心の奥底にある、どうしても消す事の出来なかった凍りついたものがふわりと融けていった。
それは温かい水となってアッシュの両眼から流れ出してゆく。
ずっと、ずっと欲しかった言葉が宝石のように心にきらめいた。
自分を認めて欲しかった。ただ、愛して欲しかった。 
幼い頃からアッシュは、ただそれだけを望んでいた。・・・たったそれだけを。
アッシュは初めて、父に、母に抱かれて泣く事が出来たのだった。

「あしゅー、痛いの?」
頬に手を伸ばすルークを見つめてアッシュは微笑む。
「いや、痛い訳じゃない。・・・お前に会えて嬉しいんだ」
「るくもー!」

アッシュに手を貸して立ち上がらせたクリムゾンがアッシュの目を優しく見つめる。
「此処に一人では寂しかろう? ルークと共に村に戻りなさい。・・・これからは幸せに、お前の望むように生きてくれれば良いのだ。」
「父上・・・」
「時々は会いに来てくれると嬉しいわ。・・・ふふ、私達ね、隠居したらコーラル城に住むつもりなのよ」
「母上・・・必ず参ります」


森の入り口で待っていたローズは、一組の家族が寄り添いながら歩いてくるのを見た。
ルークを抱いて微笑むアッシュのその表情に安堵の溜息をつく。

あの凍った眼をした子供はもう居ない。
そこには愛おしげに子に笑いかける母親と輝くような笑顔の子供、そしてそれを優しく見守る両親がいるだけだ。


どこにでも居るような、寄り添い合う家族の姿がそこにあった。

 

それこそがアッシュが、ルークが、心の奥底でずっと望み続けたものだった。

 


END

PR
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
はくしゅ
気に入って下さいましたら、 ぜひぽちっとな
プロフィール
HN:
tafuto
性別:
女性
自己紹介:
作品は全部書き上げてからUPするので、連載が終わると次の更新まで間が空きます。

当家のPCとセキュリティ
Windows Vista  IE8
Norton Internet Security 2009
GENOウィルス対策↓
Adobe Reader 9.4.4
Adobe Flash Player WIN 10,3,181,14
メールフォーム
カウンター
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
忍者ブログ [PR]