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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.04.30,Tue
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Posted by tafuto - 2008.07.02,Wed

この話は自殺願望アッシュ(NEVER MORE)のその後のIFです。 セルフ三次創作小説(?)になります。
本編をお読みでないとわけがわからないと思われます。本編のラストで語った救済ネタのお話です。
本編はあれで完結しているので、あくまでもこれは「もしこんなだったら良いよね・・・」のノリで書いています。
それでもよろしかったらどうぞ。
あ、・・・・・・死にネタです。




※外見年齢 アッシュ24歳 ルーク17歳 オリジナルルーク少年10歳  ルーク王20歳くらいから
オリジナルルーク少年はいわゆる仔アシュとは少々性格が異なります。
責任を投げ出して死を選んでしまった自責の念から少々卑屈です。んでスレる前に死んだのでわりと素直です。

 

 

 


『片羽の蝶々』

 


ふわふわと心地よい柔らかさに包まれて、小さな『ルーク』はなかなか目を開けることが出来なかった。
物心ついてから、初めてこんな安らかな気持ちで眠りにつけたのだ。

 

頑張って、頑張って頑張ってがんばって。
それでも世界は冷たく辛いばかりで、痛くて苦しくて・・・寂しくて。
『ルーク』はずっとだれかに「もう良いんだ」と抱きしめてもらいたかった。


父上も、母上も、王様も科学者たちも。
誰も『ルーク』の辛さを認めてはくれなかった。 もう良いとは言ってくれなかった。


あの日、俺によく似た人が言ってくれるまで。
・・・・・・俺の望みをかなえてくれるまで。

 


微睡む『ルーク』の耳に微かな泣き声が聞こえてきた。
覚醒とともにその声は鮮明になっていく。


「ばかばかばか! アッシュの大馬鹿野郎! 何でなんだよ! ・・・せっかくおまえは戻れたのに!」
「・・・お前のいない世界に、存在していく事は出来なかった」
「だからって! みんなを殺すなんて!」
「お前だけに罪を背負わせ、償いと称してお前を見殺しにしたあいつらを許せなかった。 ・・・・・・すまない」
「こ・・・こんな小さな『ルーク』まで手にかけるなんて・・・・・・」
「・・・・・・・・・すまない」
「なんでお前は、幸せになってくれなかったんだよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

言葉にならない嗚咽が辺りを震わせる。
『ルーク』はうっすらと目を開いた。


座り込んだ深紅の髪の男に朱金の髪の年若い青年が縋りつき、その胸を拳で殴りつけながら泣きじゃくっている。
男は瞳をを閉じて、ただその身体を抱きしめていた。

自分を解放してくれたあの男だ。
ただ一人、自分を理解してくれた。 心の奥底に深く隠していた本当の望みを叶えてくてた人だった。

ゆっくりと体を起こすと『ルーク』は二人に近付いていった。

 


「あまりそいつを責めないでくれ。・・・そいつは、俺の望みを叶えてくれただけだ」


弾かれたように朱金の髪の青年が振り返り、深紅の髪の男が静かに目をあけ『ルーク』を見た。

「逃げ出したかった、ずっと死にたかった。 ・・・責められるのは『聖なる焔の光』である事から逃げ出した卑怯者の俺だ。 ・・・自分で死ぬ事も出来なかった臆病者だ」

両のこぶしをきつく握りながら俯き、それでも絞り出すように言葉を紡ぐ小さな少年を瞠目して眺めていた青年は、そっと立ち上がると項垂れた少年を抱きしめた。
紅い髪の男がゆっくりと近づいてくると、『ルーク』の頭に手を乗せて呟いた。

「すまなかった・・・ お前が自分の人生を選び取る機会を奪ってしまったな・・・・・・」


あの時のように、大きな掌が優しく頭を撫でる。
「あなたの所為じゃない。俺があなたに殺されることを選んだんだから。 ・・・あの時、『俺はお前だ』とあなたは俺に言った。あなたはあそこで死ねなかった俺なんだろう? そして俺の代わりにすべてを引き受けてくれた」
「・・・・・・ああ」
「俺は、嬉しかったんだ。・・・・・・だから、良いんだ」


黙ってそれを聞いていた朱金の髪の青年が少年をぎゅっと抱きしめ、アッシュと呼ばれた男は無言で静かに少年を撫で続けた。


音譜帯で、三人が暮らし始めた日の出来事だった。

 

 

柔らかな光に包まれて目覚めると、たいがい少年はルークという青年に抱きしめられている。
ふわふわの雲の上で三人で寄り添い合うように眠っているからだ。

時にはアッシュの腕の中のルークに抱きしめられていて、一塊りになって寝ている姿に笑いが漏れる。
かつて一度も経験したことのない暖かさに包まれて、少年は安らいでいた。
まるで父と母に抱きしめられているように感じられる。


ルークは包み込むように柔らかく笑い、寡黙なアッシュは静かに自分たちを見守り続ける。
そして『ルーク』はここではただの子供でいられた。


時々ローレライと呼ばれる光のかたまりが来て、アッシュやルークと話していく。
ルークが戻れなかった世界のその後の事や、アッシュが消えてからの世界の事を教えてくれる。
ローレライは水溜りのような鏡を作り出し、アッシュたちが世界を覗けるようにしてくれた。


頬杖をつき飽きずに自分が後にしてきた世界を眺める少年に、アッシュはぽつりぽつりと少年が死んでからの出来事を話してくれた。
そして自分たちの辿ってきた人生の事も。


『聖なる焔の光』の辿ってきた壮絶な人生を聞くと身体が竦む気がする。
しかしすべてを乗り越えて手を取り合う二人の姿を見ると羨ましいとも思う。


「すまない・・・俺はお前の半身を救うためにお前を見殺しにしたんだ。 大爆発を、起こさないために」

哀しげなアッシュの言葉に首を振る。
「俺があなたみたいに耐えられたかどうか分らないよ。・・・でも俺の半身に、ちょっと会いたかったな」

 

水鏡には自分が後にしてきた世界で王として立派に施政を続けている『聖なる焔の光』の姿が映っている。
少年は、己の半身であるはずだった存在を水鏡から見続けた。
・・・後悔と、憧れを込めて。

 

 

若くして王位を継いだルーク王は、がむしゃらと言えるほど精力的に施政を続けていた。
睡眠もろくにとらず食事さえ忘れるほどの頑張りに周囲の者は心配したが、にっこりと笑って『大丈夫だよ』と言われては強く進言するわけにもいかない。
人材のいないキムラスカの情勢はまだまだ厳しいのだ。やることはいくらでもある。

ついにある日、ルーク王は体調を崩して倒れた。

 

「俺の所為か・・・俺があいつに良い王になれなどと言ったから・・・・・・」

心配そうに水鏡から見守っていたアッシュがひどく後悔した口調で呟いた。
祝福のつもりで言った言葉が呪縛のように彼を縛ってしまったに違いない。

「少し力を抜くように言ってあげないと、このままじゃ体を壊して潰れちゃうよ」
「・・・そうだな」
ルークも心配そうにアッシュに言う。二人で相談しているところにローレライが現れた。

(あの焔は、アッシュ、お前の音素の指輪を持っている。焔にだけはお前たちの姿が見えるであろう。
・・・我があの場に送ってやっても良いぞ)
「そうか、それなら頼む。俺があいつにもう少し休むよう言ってこよう」


アッシュの言葉に、それまで黙って皆の会話を聞いていた少年が口を挟んだ。

「待って! お願い、俺に行かせて!」

必死な様子で縋りつく少年に、アッシュとルークは顔を見合わせる。
「俺も役に立ちたい。 ・・・あいつは俺の半身なんだから!」


しばらく少年を見ていたアッシュは、やがてふっと微笑って少年の頭を優しく撫でた。
「・・・そうか、なら今度はお前があいつを守ってやれ。 ・・・あまり気負うなと、お前は良くやっていると伝えてくれ」
「わかった」

 

ローレライに送られて、小さな焔はふわりふわりとバチカルに降りて行った。
城の最上階の、居心地良く整えられた王の寝室にするりと入りこむ。
広いベッドには朱金の髪の若き王が青白い顔をして眠っていた。

ふわふわと浮かんで半身の姿をじっと観察する。 ふと、その眼が開いた。
宙に浮かぶ少年をびっくりしたように見たルーク王は、ふいににっこりと微笑んだ。

「やあ、君は誰なんだい? ご先祖様の幽霊なのかな?」 


「俺の名はル・・・」
言いかけた少年は言葉を止めた。

音譜帯ではほとんど精神で話しているようなものなので、名を呼ばなくても誰を指しているのか理解できるのだ。
少年は『小さな焔』というイメージで優しく呼びかけられていた。


この世界の『聖なる焔の光』は俺じゃない・・・
すべてを投げ出してしまった自分には、もう『ルーク』という名は相応しくない。


「俺には・・・名前はないんだ」

悲しげに項垂れた少年に、あわててルーク王は身体を起こした。顔を覗き込むように微笑みかける。
人ならざる存在のこの少年に、不思議と恐れは抱かなかった。ただ言い知れぬ愛しさがこみ上げてくる。

「じ、じゃぁ俺が名前を付けてあげるよ! ・・・『ホムラ』、はどうかな? 綺麗な紅い髪だね」

きょとん、とルーク王を見下ろした少年は、くしゃりと顔を歪めて俯いた。

・・・こいつは、何も知らないのに俺を『焔』と呼んでくれるのか。


「ごめん、嫌だったかい?」

心配そうに覗き込むルーク王に、少年は泣き笑いの顔を上げた。
「嫌じゃない。 ・・・・・・嬉しい」

小さな声で呟く少年の頬に涙がひとしずく零れた。

そっと手を伸ばすルーク王の右手の指輪がちらちらと光った。少年の頬に触れ、その涙をぬぐい取る。
「あ・・・さわれる」


己の半身に初めて触れられて、少年の鼓動は早くなった。
赤くなる顔を取り繕うように話をはじめる。
「その指輪のせいだろう。それは第七音素で作った指輪だからな。・・・それを作ったやつから伝言だ。 『あまり気負うな、お前は良くやっている』 だそうだ」


少年のその言葉に瞠目したルークは少し哀しげに微笑んだ。空に消えて行ってしまったあのひとのことを想う。

「あのひとを、知っているの?」
「・・・・・・ああ。 あいつの代わりに、お前が無茶しないよう見張るために来たんだ」

あの人に良く似た少年が、真っ直ぐに自分を見つめてくる。
いつもどこか遠くを見ていたあの人の代わりに、自分だけを見つめている。
ルークは、そっと少年を抱きしめた。

「そう・・・よろしくね、ホムラ」


長い朱金の髪が頬を掠め、肩に落ち、己の髪と重なり合った。
美しい炎のような髪に胸が高鳴る。
硬直した少年は熱くなる頬をおさえてぎくしゃくと身体を離した。
赤い顔で睨みつけるようにルーク王を見るとビシッと指を突きつけた。

「ち、ちゃんと休むんだぞ! ・・・・・・また見に来てやる」


慌てたような少年がすうっと消えてしまうのを、ルーク王は微笑みながら見ていた。
この小さな優しい幽霊と共にいる“あの人”は、きっと天国に行けたんだなと思いながら。

 


ルーク王が食事を抜いたり明け方まで机に向かっていたりすると、どこからともなくちょっと怒ったような子供の声が掛かる。
それは何度も繰り返され、いつしかルーク王は少年に会えるのを楽しみに待つようになった。

その日も苦笑しながら振り向くと、赤い髪の少年が腰に手を当てて呆れたようにこっちを睨んでいる。


「お前はっ! ちゃんと食事を取れと言っただろう? お前が倒れたらなんにもならないんだからな!」
「ごめんごめん、ホムラ。わかったよ、休憩にして食べるものを持ってきてもらうから」

ペンを置いたルーク王が背伸びを一つして呼び鈴を鳴らす。
ホッとしたような召使が消化の良い夜食を並べて去ってゆくと、ルーク王はホムラに話しかけた。
「ホムラも食べられればいいのにね」


今まで少年に気付いた者はただの一人もいなかった。
ぶつかりそうになって首を竦めた少年をすり抜けるように歩いて行く召使に、少年がこの世のものでないことを実感させられる。

「お前が食べるのを見てるからいい。 あっちじゃお腹は空かないんだ」
苦笑して言葉を返す少年にふと訊いてみたくなる。
「ホムラはどんな所に居るの? ・・・あのひとは、幸せなのかな・・・?」

少し考えこんだ少年がぽつりぽつりと説明をはじめた。
「・・・ふわふわ光る、雲の上みたいな所だ。小さな池があって、その水にお前が映っている。俺はそこであいつと、あいつの半身といっしょに三人で暮らしているんだ」
「半身? ・・・・・・あのひとは、探していた人に会えたんだね」

 

『俺の光は、あいつだけなんだ』
 
そう言って幸せそうに空に還っていった男の微笑みが、チクリと胸を刺した。

「・・・・・・俺ね、あのひとが初恋だったかも・・・」


情けない表情で苦笑したルーク王の目尻に光った涙の粒を見てホムラは慌てた。
同時にいまだ自分よりルーク王の心をとらえて離さないアッシュに幼い嫉妬心が湧き上がる。

「お前の半身は俺だろ! ・・・お前が呼んだらいつでも来てやるから、そんな顔で笑うな!」

きょとんとしたルーク王が、ふっと笑ってやさしくホムラの髪を撫でた。
「ありがとう。・・・ホムラは優しいね」

慌てていた少年はその言葉に我に返り真っ赤になった。
「べ、べつにお前のためじゃ・・・ 羨ましいなんて思ってないからな!」

拗ねたようにふいと居なくなってしまった少年を微笑みながら見送ったルーク王は、少し冷めてしまったスープを口にはこんだ。
あのひとに良く似た面影を持つ、不器用で優しい子供のはにかんだ笑顔を想い返す。

「・・・ねぇ、ホムラ。 今は君のことが一番大好きだよ」

どうかこの言葉が、あの子のところに届きますように。

 

 

執務室のテラスで小休止を取っていたルーク王の所に、ジョゼットが紅茶を運んできた。
薫り高い紅茶を手ずから淹れるジョゼットに、ルークは思い切って尋ねてみる。
もう、好奇心は抑えることが出来なかった。

「ジョゼット、キムラスカに10歳くらいで亡くなった男の子は居たっけ? 赤い髪に碧の目、俺に良く似た子供なんだけど」


ジョゼットの手から滑り落ちたカップが鋭い音を立てて砕け散った。
驚いたルークがジョゼットを見ると、真っ蒼になって口元を押さえている。
眼を見開き全身を震わせるその様子にルークは直感した。

人払いをして静かに語りかける。
「・・・ジョゼット、何か知っているなら話して。 もしかして、いつか話してくれると言っていた事に係わりがあるのではない?」

無言で首を弱々しく振り続けるジョゼットに、縋るように言葉を重ねた。

「俺以外には誰にも見えない、声も聞こえないその子は・・・ 俺を半身と呼んだよ」


ああ・・・と小さく声を上げたジョゼットは、悲痛な表情で空を仰ぎ目を閉じた。
しばらくの間祈っていたジョゼットは、やがて心を決めたように静かに話しだした。

アッシュと言うあのひとのこと、レプリカという存在の事、そしてルークがレプリカであると言う事。
長い長い話が終わった。

あまりの話に衝撃を受けてぼんやりとしていたルークは不意に気付いた。

「・・・俺がレプリカなら・・・オリジナルはどうしたの? ・・・・・・まさか、あの子が俺の・・・」
「・・・被験者のルーク様がどうなったのか、私は知らないのです。 ・・・しかし、おそらく・・・・・・」

 

『俺には・・・名前は無いんだ』


哀しげに俯いた少年の言葉がよみがえる。

「俺は・・・あの子から全てを奪ってしまったの? 名前もその存在も、何もかも全てを!」

悲痛に叫んだルークは顔を覆って崩れ落ちた。 涙が止まらない。
ジョゼットが駆け寄り、自分も嗚咽を漏らしながらルークを抱きしめる。

「ルーク様・・・貴方様の所為では無いのです。 どうか、どうかお苦しみにならないで下さい」

二人は長い間その場を動かず、ただ涙を落とし続けていた。

 


眠れぬ夜が続いたある日、明かりを消した窓辺に佇むルーク王にためらいがちの小さな声がかけられた。
ゆっくりと振り返ったルーク王はじっと少年を見つめ、呼びかけた。

「・・・・・・『ルーク』・・・」


びくりと身体を震わせた少年は、思いを振り切るように強く首を振った。真っ直ぐにルーク王を見つめる。

「俺はもうルークじゃない。その名をお前に奪われたわけでもない。お前ははじめから『ルーク』だし、俺はその名から逃げ出しただけだ」 
「でも・・・俺は偽物だ。君こそが正当な後継者だったのに・・・」
「違う! お前は俺の憧れだった。逃げ出した俺に代わってキムラスカを導いてくれた。 ・・・俺は『ホムラ』だ。 お前が、つけてくれたじゃないか!」


小さな身体がぶつかるように抱きついてくる。
強くしがみつくその肩がしゃくりあげるように震え、王の服が暖かく湿った。

「俺の為に、お前が苦しむことは無いんだ。 だから・・・ちゃんと休んでくれ」


自分を心配して泣いてくれるこの優しい小さな半身。
彼が幼い頃どんな目に遭っていたかは、あの後ジョゼットやラムダスが話してくれた。
全てを恨んでも仕方がないような状況でなお、ルークを半身と呼び涙してくれるこの少年がいとおしい。
抱きしめている所から安らぎが溢れてくるような気がする。


「ありがとう・・・・・・『ホムラ』 ・・・俺の、ただひとりの半身」


顔を上げた少年の、涙に濡れた瞳が嬉しげに細められる。
ルークは膝をつき少年の頬に口づけをするとぎゅっと抱きしめた。

「君の分まで頑張るよ。 ・・・みんなを幸せにできるように、そして俺も幸せになれるように」
「ああ。 ・・・だけど無茶するなよ! ずっとろくに寝てないんだから、まずはゆっくり寝ろ!」


自分の手をぐいぐい引っ張ってベットに向かう少年に微笑みがもれる。
ルーク王を寝かしつけた少年の手を取ると、そのままベッドに引っ張り込んだ。

「眠れないかもしれないから、今日は一緒に寝てくれないかな?」
真っ赤になってわたわたと暴れていた少年がその言葉におとなしくなった。

「・・・ずるいぞ。 まあ、眠れないならしょうがないな、今日は一緒にいてやる」

赤い耳をした少年を、くすりと笑ったルーク王は優しく抱きよせた。

 


温かく抱きしめられて、少年はまどろんでいた。
こうして半身に抱かれていると、何かがぴったりと合わさるように感じられる。
在るべきものが在るべき姿に還るような心地良さ。

あの場所で、半身を抱きしめるアッシュはとても安らかな顔をしていた。
言葉も無く、ただ味わうように寄り添っていたあの二人もこんな気分だったのか。

・・・・・・ただ、満たされる。


すっかり先に寝入ってしまったホムラを、ルーク王は優しく撫で続けていた。
ルークもまた、たとえようもない幸福感を感じていたのだった。

 


月に数度、ルーク王の私室には誰も知らない客人が訪れる。
ルーク王の小さな半身は、ある時は強引に食事をさせ、またある時はふわふわと宙に浮かんでルーク王の悩みの相談を受けた。
もっとも政治に関して経験の足りないホムラには、ただ悩みを聞くことしかできなかったが。

「助言できなくて悪いな・・・俺たちは誰もお前みたいにちゃんとした帝王教育を受けていないんだ。俺もアッシュも10歳までだし、あっちのルークはまともな教育受けてないし・・・」

ふわふわ浮かびながらしょげかえるホムラが微笑ましい。
その手を取り、膝の上に座らせると眼を合わせた。
「いいんだ、ホムラがこうして聞いていてくれるだけで嬉しいよ。皆の為に何が最善か、一緒に考えよう?」
「ああ!」

こうして笑い合えれば、どんな事でも乗り越えられそうな気がした。


聖なる焔の光はもう一人ではなかった。
辛い決断に落ち込んだ時、半身はそっと寄り添い続ける。
眠れぬ夜には傍らのぬくもりが歌う小さな子守唄が心を癒してくれた。

 

そんな生活は数年続いた。
いつしかルーク王はあの時のアッシュの年齢を越えた。
もうルークを「若き王」と言う者はいない。それだけの実績を重ねてきたのだ。

 

富を独占する大貴族が絶えたキムラスカは徐々に共和制に移行していった。
国民全てが預言などに頼らず自らの意思で政治に参加できるよう、ルーク王は力を尽くした。
そして髪や眼の色で王座を決めることなどあってはならないと、妻を娶らず子も作らなかった。


ルーク王の深みを増した微笑に数本の皺が混ざる頃、選挙による初の国民の代表が選ばれた。
改革の王として尊敬を集めていたルーク王は、まだ若いと惜しまれつつ退位する。


ルークには漠然とした予感があった。
レプリカである己の体は、どんなに長くとも父の亡くなった年までは生きることはないだろうと。
そして、その予感は正しかった。

 


ある冬の寒い日、体調を崩したルークは風邪をこじらせ長く寝付くことになった。
小さな半身は、王の枕元に寄り添い続けた。

「ねぇホムラ、俺達はもう十分頑張ったと思わないか?」
「そんなこと言わないでくれ・・・ ずっと、元気でいてほしい」
「でもね、不思議と少しも怖くないんだ。 だって、ホムラと同じところに行けるんだろう?」

痩せてしまった首に縋りつく小さな半身を抱きしめるルークは後悔など一つもない晴れやかな表情で微笑んだ。
やり残したことなど何ひとつ無い。この小さな半身と共に民のために尽くしてきた満足感だけがあった。

 

冬枯れの木立に木の芽が息吹き、小さな花々が蕾をいくつも付けたころ。
人々に見守られながら、ルークは静かに息を引き取った。

美しい聖堂に白い花に埋もれて横たわるルークは、幸せそうな微笑を浮かべていた。

 

悲しむ人々には見えなかった。
ステンドグラスの光に浮かび上がる豪奢な棺の上にふわりと浮かんだ紅い髪の少年が、ルークに向かって手を差し伸べたところを。


(もう、いいのか?)
(うん、もうじゅうぶんだ。 俺を、ホムラの所に連れて行って)


紅い髪の少年に手をひかれて、聖堂に横たわる亡骸から朱金の髪の少年がすうっと立ち上がった。
双子のような少年たちは、無邪気に笑い合いながらしっかりと手を繋いだ。


(ずっと一緒にいようね)
(ああ、今度はもう離れない)

 


優しい風が窓を越え、蒼穹へとかすかに吹き抜けていった。

人々は束の間祈りを止め、柔らかく頬を撫でて行く風を見送った。





嬉しそうに手を取り合い駆け抜ける子供たちの笑い声を聞いた者は、  誰もいない。

 

 

                                                END







悩んでいる時に案を下さった皆様、ありがとうございましたv 
ヒャン様、白夜様、一部設定を取り入れさせていただきました。感謝しています。

 

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