同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by tafuto - 2007.11.05,Mon
私の心の神であるサイト様の120000HITを踏んで頂きましたv
世界の中心で吐血するほど嬉しかったです!
当サイトに来られている方はもうご存知でしょうが、とても素敵なアシュルクサイト様です。
”君色の空の下で。”の雛樹さま、ありがとうございましたvv
掲載を快く承諾してくださって、こんな嬉しい事はありません!
皆様も、燦然と輝く素敵作品をどうぞ味わってくださいませvv
ひとりぼっちと冷たさが支配するくらやみのなかで子供がこえもなく泣いていた
「なんつーか…強めの台風とか来たら助からねー感じ?」
日記を広げて寝そべっていたルークは、曇った窓の外を眺めつつぽつりと呟いた。
古ぼけた音素灯のシェードから降るぼやけた光が、室内を照らす。壁には小さなシミがいくつもあり、カーテンも日にやけて斑にブラウンがかっているし、小さなテーブルもやたら年季が入っている。風が強いわけでもないのに、窓枠や遠くの繋がった壁からはずっと、ぴしぴしと不快な音が微かに鳴っている。
それもこれも、安宿と思えば仕方ないといえばないのだが。
加えて。
……ざざあ、ざあ。
反対側の風呂場からは、ずっと水音が聞こえる。
この部屋で、もう一人これから共に眠る人が、身を清めている音。
安宿だからか、それとも滅多にない二人きりという場面のせいか、音がやたら漏れるように思う。鍛えることで、苛め抜くことで七年の生を刻んだルークよりも逞しい身体を、降り注ぐ細かな湯がさあさあと伝い流れてゆく。彼の本質そのもののような、苛烈でありながら高貴なピジョンブラッドの絹が、ウンディーネの御手に梳かれ艶を増して---
そんな見えもしない光景に行き当たって、
(……うっわ、俺なに考えてんだっつーの)
ほんのり赤面しつつルークは寝たまま移動して、日記をベッド横に置いてあった荷物入れにしまった。
仲間と一緒なら、あるいは彼が見ていれば不精だと言われそうだが、いまこの部屋にルークの行動を見ている者はない。
こうして偶然出会う度、話があるからなどと理由をつけては攫ってくれるアッシュが好きだった。
いま共にいる仲間たちは、こんな罪にまみれた自分でも連れて行ってくれたとても優しい仲間だけれど。
それでもやはり、半身と共に過ごす温もりは特別なものだったから。
やがて水音は消え。
仕切りのカーテンを開ける、軽やかな響きがくぐもって届く。
(上がったのかな)
そこでルークは、次に入る自分が替えの服を出していなかったのを思い出した。
どうして日記を入れるときに気づかないかな、と自分を軽く叱咤する。
準備をしようと、今度はベッドから降りて、口を閉じてしまった荷物入れに手を伸ばして---
その視界が、一転、黒一色に閉ざされた。
「えっ」
思わず短く声を上げ、ルークは見えない周りを見回した。
それからすぐに、下の階や廊下のほうから慌てたような声がして、ルークはそれで原因に何となく予測がついた。以前、ケセドニアで似たようなことがあったのだ。やがて闇に慣れてきた眼で窓の外を見れば、曇り空の夜、窓の外の街は、ついさっき見た景色と寸分違わず、小さな明かりがちらほらと灯っていた。
「この宿だけか…よく解んねえけど、配線とかが飛んだのかな」
どうやら、何らかの原因で宿の照明ー第五音素の供給が止まったようだ。
思えば玄関口の照明からしてかなり古い型であったようだし(ガイがいればどのくらい古いかもわかっただろうが、素人の自分が見ても相当古かった)他の安普請ぶりを思えば供給系が急にいかれてもおかしくはないのかもしれない。客商売としては、こうした設備の不良は実際謝罪ものだろうが。
暗がりの中何回か空振りしながら服を出し、ベッドサイドの明かりを何度か試してみたが、復旧する気配はない。
入り口にあるスイッチも試そうかと歩き出したとき、
「そうだ……アッシュ?」
横切った、風呂場の扉に眼がいった。同時に、この部屋のもう一人の存在を思い出す。
立ち止まってそう呼びかけるが返事はなく、ルークは首を傾げた。
宿の風呂には窓がないので、明かりがつかなければ昼でも真っ暗だ。髪を乾かす温風機も動かないはずなので、復旧を待つなら出て来たほうがいいはずだ。そう思い、アッシュ、ともう一度呼ぶが、やはり返事はない。
……否、
かり…かり、かり。
「……何だ?」
耳にそろりと入り込むような、低い音。
それは木製のドアの内側、下の方から聞こえていた。
かり、かりかり。
木目のこまかな段差を、薄くかたい物で引っ掻いたような音。
ルークには。
それが、まるで、なぜか、
悲鳴になり損なった、だれかの、声にならない声のように聞こえた。
「まさか、鍵壊れたのか?」
いい知れない焦燥を振り払うように、ルークの手がノブを掴み、捻りながら思い切り引く。
一瞬、壁のようにさえ思えた木の扉は。
蝶番…扉の仕組みに従って、軽くすんなりと開いた。
「なんだよ、びっくりさせんな----」
ルークが苦笑しながら息を吐いたのと、
ごとり。
紅の軌跡を従えたなにかが、風呂場前の床に転がったのは同時だった。
「……え?」
ちょうど自分の足元に落ちた、それは。
替えの黒い服を軽く羽織り、首にタオルを掛けた姿で崩れていた。深紅の長い髪は濡れたままで、蜘蛛の糸のようにばらりと広がり、乾いたカーペットやルークの服の裾に冷たい斑点が飛ぶ。
指はなにかを引っ掻くように、がりがりとカーペットをかき毟っている。
そして、闇の中でもしろい、薄く開いた唇をもつ横顔には表情というものがなかった。
「……アッ、シュ?」
いつも強い意志を湛えている眼は……そこだけぽっかりと、彼の体と外界のあいだに開いた空洞のように、真っ暗だった。
「アッシュっ!」
弾かれたように戻った全身の感覚を動員して、ルークは床に転がる上体を抱え上げた。まだほんのりと水気を含んだ身体は冷えて、まるで体温が失われたようだと---嫌な想像を、名を繰り返し呼ぶことで振り切る。
カーペットを毟る手を取り、それでも暴れる指も含めて包みこんだとき、
暗く沈んでいた眼が、すとんと落ちてきたように、光を取り戻した。
暴れていた指が、手の中で止まる。
眼がぱちぱちと瞬きをして、上体を抱きかかえられている自分の格好を、脱衣所に半分入ったまま投げ出された脚を訝しげに眺めている。ルークが再び、アッシュ、と遠慮がちに名を呼ぶと、ようやく視線が同じ色の瞳を捉えた。
そんな場合でないと思いながらも、降りた前髪の切れ間からのぞく澄んだ緑が、綺麗だ、と思って。
息の掛かる距離で、唇が動いた。
「…………なにそんなに慌ててるんだ、お前」
「へ?」
開口一番そう言われ、ルークはつい間抜けな声を出しながら、彼を見下ろした。
先程の、糸が切れた人形のような姿が嘘のように、アッシュは未だ水滴のしたたる自分の髪を一房つまんで、何やら不思議そうに見つめている。
「だ、だってお前…明かり切れちまったのにいつまでも出てこないから……なんか内側からかりかり引っ掻く音がして、てっきり鍵でも壊れたのかと思って開けてみたんだけど……。そしたら、アッシュがそこから転がり出てきて……」
抱えたまま、ルークは混乱する自分に向かっても言うかのように、しどろもどろに答えた。
すると、
ふたつの緑が見開かれて、
「……っち」
腕の中、舌打ちが聞こえた。
それは苛立ちや諦めの類ではなく、むしろ……自嘲の。
「…………駄目なんだよ。昔から」
未だ明かりの戻らない室内。
一つしかないベットへと移動し、枕をどかして並んで座りながら聞いた話を、ルークは頭の中で繰り返していた。
アッシュの身に起こる、無意識の反応。
それは、狭くて明かりのないところに行くと意識が飛んでしまう、というものだった。
「原因はよく解らねえんだがな」
アッシュはそう言って笑ったが、
(違う)
つまり。
共にいる元使用人の青年と同じ状況なのだと、ルークは行き着いていた。
解らないのではない。
原因に辿り着かないように。
こわれてしまわないように。
頭の中で、無意識に道を閉ざしているのだ。
以前……
互いに想いを通じあえたあとでアッシュから聞いた、彼の過去。
彼はかつて、国のためにと後ろ暗い研究に捧げられてきた。
ベルケンドの研究施設を思い出す。
薬っぽい室内に置かれた、人を縛り付ける椅子やベッドを思い浮かべたとき、そこに、会ったこともない紅い髪の子供が泣きながら研究者たちに押さえつけられている光景が過ぎり、瞼をぎゅっと閉じた。
ダアトに連れ去られてからは、ヴァンによって手駒として閉じこめられ思考を歪められ---
縛され。
閉ざされ。
押さえられ。
逃げ場もなく。
そうして子供は、心に傷を負った。
閉ざされた世界を受け入れぬよう みずからを閉ざしてしまうことでしか
子供は
ちいさなこころをまもれなかったのだと
「アッシュ……あの、 「謝るなよ」
「え」
微かな怒気とともに、はさりと舞う、紅。
とうに水気の飛んだ袖と、固い芯を持つ腕と、布を隔てた温もりが身を包む。
肩口で眼をぱちぱちするルークの頭、やわらかな朱色の髪を、剣を握り続けたあつく皮の張る掌がうなじまで沿うように撫でつける。アッシュは呆れかえったように息を吐いた。
「お前の考えの行く先は解ってる。ったく、少しはパターン変えやがれ」
が、その声は怒っているようで、どこか優しかった。
そして、労りに満ちていた。
「なんだよそれ……」
ルークも、困ったように笑いながら、横目でアッシュを見上げふくれてみせた。
が、その声はほんの少し、泣きそうで。
「……何でも自分のせいだと思うな」
「……うん……」
アッシュは。
やがて、抱き締め返してくる背中の、腕の中の温度に身を預けた。
同じ筈のからだは分かたれて。
けれど、こうしてひとたび寄せ合えばまるで互いが最後のピースのように、身体すべてが「ああ、彼だ」と頷いてもっと触れていたいと叫びはじめる。細胞のひとつひとつに至るまで、身体の奥の方からも互いに手を伸ばしてしっかと繋ぎ合っているみたいに離れがたく、触れる全ての部分が一瞬でとろけあって境界は消える。
お伽噺の。
いつまでもいつまでも仲の良いまま、物語の終幕を迎える優しい国のように。
ちいさなふたりだけのくに
「あ……」
そんな単語が脳裏を掠め。
アッシュはふと、その瞳で周りを見た。
安宿の、古く狭い部屋。
外は曇りの夜。
明かりは未だ復旧する気配はなく。
お互いに抱き締め合って腕を回し合い、からだを押しつけあって。
でも、
だけど、
こわく、ない
ヒトリニシナイデ
ひとりじゃない。
「アッシュ?」
「……何でもない」
心にともる灯を、目の前の存在ごと抱きしめて。
紅は静かに眼を閉じて、肩に顔を埋めてそっと微笑んだ。
温もりと愛しさが支配するくらやみのなかに、泣いている子供はもういなかった
ヒトリノ紅と繋ぎの国
世界の中心で吐血するほど嬉しかったです!
当サイトに来られている方はもうご存知でしょうが、とても素敵なアシュルクサイト様です。
”君色の空の下で。”の雛樹さま、ありがとうございましたvv
掲載を快く承諾してくださって、こんな嬉しい事はありません!
皆様も、燦然と輝く素敵作品をどうぞ味わってくださいませvv
ひとりぼっちと冷たさが支配するくらやみのなかで子供がこえもなく泣いていた
「なんつーか…強めの台風とか来たら助からねー感じ?」
日記を広げて寝そべっていたルークは、曇った窓の外を眺めつつぽつりと呟いた。
古ぼけた音素灯のシェードから降るぼやけた光が、室内を照らす。壁には小さなシミがいくつもあり、カーテンも日にやけて斑にブラウンがかっているし、小さなテーブルもやたら年季が入っている。風が強いわけでもないのに、窓枠や遠くの繋がった壁からはずっと、ぴしぴしと不快な音が微かに鳴っている。
それもこれも、安宿と思えば仕方ないといえばないのだが。
加えて。
……ざざあ、ざあ。
反対側の風呂場からは、ずっと水音が聞こえる。
この部屋で、もう一人これから共に眠る人が、身を清めている音。
安宿だからか、それとも滅多にない二人きりという場面のせいか、音がやたら漏れるように思う。鍛えることで、苛め抜くことで七年の生を刻んだルークよりも逞しい身体を、降り注ぐ細かな湯がさあさあと伝い流れてゆく。彼の本質そのもののような、苛烈でありながら高貴なピジョンブラッドの絹が、ウンディーネの御手に梳かれ艶を増して---
そんな見えもしない光景に行き当たって、
(……うっわ、俺なに考えてんだっつーの)
ほんのり赤面しつつルークは寝たまま移動して、日記をベッド横に置いてあった荷物入れにしまった。
仲間と一緒なら、あるいは彼が見ていれば不精だと言われそうだが、いまこの部屋にルークの行動を見ている者はない。
こうして偶然出会う度、話があるからなどと理由をつけては攫ってくれるアッシュが好きだった。
いま共にいる仲間たちは、こんな罪にまみれた自分でも連れて行ってくれたとても優しい仲間だけれど。
それでもやはり、半身と共に過ごす温もりは特別なものだったから。
やがて水音は消え。
仕切りのカーテンを開ける、軽やかな響きがくぐもって届く。
(上がったのかな)
そこでルークは、次に入る自分が替えの服を出していなかったのを思い出した。
どうして日記を入れるときに気づかないかな、と自分を軽く叱咤する。
準備をしようと、今度はベッドから降りて、口を閉じてしまった荷物入れに手を伸ばして---
その視界が、一転、黒一色に閉ざされた。
「えっ」
思わず短く声を上げ、ルークは見えない周りを見回した。
それからすぐに、下の階や廊下のほうから慌てたような声がして、ルークはそれで原因に何となく予測がついた。以前、ケセドニアで似たようなことがあったのだ。やがて闇に慣れてきた眼で窓の外を見れば、曇り空の夜、窓の外の街は、ついさっき見た景色と寸分違わず、小さな明かりがちらほらと灯っていた。
「この宿だけか…よく解んねえけど、配線とかが飛んだのかな」
どうやら、何らかの原因で宿の照明ー第五音素の供給が止まったようだ。
思えば玄関口の照明からしてかなり古い型であったようだし(ガイがいればどのくらい古いかもわかっただろうが、素人の自分が見ても相当古かった)他の安普請ぶりを思えば供給系が急にいかれてもおかしくはないのかもしれない。客商売としては、こうした設備の不良は実際謝罪ものだろうが。
暗がりの中何回か空振りしながら服を出し、ベッドサイドの明かりを何度か試してみたが、復旧する気配はない。
入り口にあるスイッチも試そうかと歩き出したとき、
「そうだ……アッシュ?」
横切った、風呂場の扉に眼がいった。同時に、この部屋のもう一人の存在を思い出す。
立ち止まってそう呼びかけるが返事はなく、ルークは首を傾げた。
宿の風呂には窓がないので、明かりがつかなければ昼でも真っ暗だ。髪を乾かす温風機も動かないはずなので、復旧を待つなら出て来たほうがいいはずだ。そう思い、アッシュ、ともう一度呼ぶが、やはり返事はない。
……否、
かり…かり、かり。
「……何だ?」
耳にそろりと入り込むような、低い音。
それは木製のドアの内側、下の方から聞こえていた。
かり、かりかり。
木目のこまかな段差を、薄くかたい物で引っ掻いたような音。
ルークには。
それが、まるで、なぜか、
悲鳴になり損なった、だれかの、声にならない声のように聞こえた。
「まさか、鍵壊れたのか?」
いい知れない焦燥を振り払うように、ルークの手がノブを掴み、捻りながら思い切り引く。
一瞬、壁のようにさえ思えた木の扉は。
蝶番…扉の仕組みに従って、軽くすんなりと開いた。
「なんだよ、びっくりさせんな----」
ルークが苦笑しながら息を吐いたのと、
ごとり。
紅の軌跡を従えたなにかが、風呂場前の床に転がったのは同時だった。
「……え?」
ちょうど自分の足元に落ちた、それは。
替えの黒い服を軽く羽織り、首にタオルを掛けた姿で崩れていた。深紅の長い髪は濡れたままで、蜘蛛の糸のようにばらりと広がり、乾いたカーペットやルークの服の裾に冷たい斑点が飛ぶ。
指はなにかを引っ掻くように、がりがりとカーペットをかき毟っている。
そして、闇の中でもしろい、薄く開いた唇をもつ横顔には表情というものがなかった。
「……アッ、シュ?」
いつも強い意志を湛えている眼は……そこだけぽっかりと、彼の体と外界のあいだに開いた空洞のように、真っ暗だった。
「アッシュっ!」
弾かれたように戻った全身の感覚を動員して、ルークは床に転がる上体を抱え上げた。まだほんのりと水気を含んだ身体は冷えて、まるで体温が失われたようだと---嫌な想像を、名を繰り返し呼ぶことで振り切る。
カーペットを毟る手を取り、それでも暴れる指も含めて包みこんだとき、
暗く沈んでいた眼が、すとんと落ちてきたように、光を取り戻した。
暴れていた指が、手の中で止まる。
眼がぱちぱちと瞬きをして、上体を抱きかかえられている自分の格好を、脱衣所に半分入ったまま投げ出された脚を訝しげに眺めている。ルークが再び、アッシュ、と遠慮がちに名を呼ぶと、ようやく視線が同じ色の瞳を捉えた。
そんな場合でないと思いながらも、降りた前髪の切れ間からのぞく澄んだ緑が、綺麗だ、と思って。
息の掛かる距離で、唇が動いた。
「…………なにそんなに慌ててるんだ、お前」
「へ?」
開口一番そう言われ、ルークはつい間抜けな声を出しながら、彼を見下ろした。
先程の、糸が切れた人形のような姿が嘘のように、アッシュは未だ水滴のしたたる自分の髪を一房つまんで、何やら不思議そうに見つめている。
「だ、だってお前…明かり切れちまったのにいつまでも出てこないから……なんか内側からかりかり引っ掻く音がして、てっきり鍵でも壊れたのかと思って開けてみたんだけど……。そしたら、アッシュがそこから転がり出てきて……」
抱えたまま、ルークは混乱する自分に向かっても言うかのように、しどろもどろに答えた。
すると、
ふたつの緑が見開かれて、
「……っち」
腕の中、舌打ちが聞こえた。
それは苛立ちや諦めの類ではなく、むしろ……自嘲の。
「…………駄目なんだよ。昔から」
未だ明かりの戻らない室内。
一つしかないベットへと移動し、枕をどかして並んで座りながら聞いた話を、ルークは頭の中で繰り返していた。
アッシュの身に起こる、無意識の反応。
それは、狭くて明かりのないところに行くと意識が飛んでしまう、というものだった。
「原因はよく解らねえんだがな」
アッシュはそう言って笑ったが、
(違う)
つまり。
共にいる元使用人の青年と同じ状況なのだと、ルークは行き着いていた。
解らないのではない。
原因に辿り着かないように。
こわれてしまわないように。
頭の中で、無意識に道を閉ざしているのだ。
以前……
互いに想いを通じあえたあとでアッシュから聞いた、彼の過去。
彼はかつて、国のためにと後ろ暗い研究に捧げられてきた。
ベルケンドの研究施設を思い出す。
薬っぽい室内に置かれた、人を縛り付ける椅子やベッドを思い浮かべたとき、そこに、会ったこともない紅い髪の子供が泣きながら研究者たちに押さえつけられている光景が過ぎり、瞼をぎゅっと閉じた。
ダアトに連れ去られてからは、ヴァンによって手駒として閉じこめられ思考を歪められ---
縛され。
閉ざされ。
押さえられ。
逃げ場もなく。
そうして子供は、心に傷を負った。
閉ざされた世界を受け入れぬよう みずからを閉ざしてしまうことでしか
子供は
ちいさなこころをまもれなかったのだと
「アッシュ……あの、 「謝るなよ」
「え」
微かな怒気とともに、はさりと舞う、紅。
とうに水気の飛んだ袖と、固い芯を持つ腕と、布を隔てた温もりが身を包む。
肩口で眼をぱちぱちするルークの頭、やわらかな朱色の髪を、剣を握り続けたあつく皮の張る掌がうなじまで沿うように撫でつける。アッシュは呆れかえったように息を吐いた。
「お前の考えの行く先は解ってる。ったく、少しはパターン変えやがれ」
が、その声は怒っているようで、どこか優しかった。
そして、労りに満ちていた。
「なんだよそれ……」
ルークも、困ったように笑いながら、横目でアッシュを見上げふくれてみせた。
が、その声はほんの少し、泣きそうで。
「……何でも自分のせいだと思うな」
「……うん……」
アッシュは。
やがて、抱き締め返してくる背中の、腕の中の温度に身を預けた。
同じ筈のからだは分かたれて。
けれど、こうしてひとたび寄せ合えばまるで互いが最後のピースのように、身体すべてが「ああ、彼だ」と頷いてもっと触れていたいと叫びはじめる。細胞のひとつひとつに至るまで、身体の奥の方からも互いに手を伸ばしてしっかと繋ぎ合っているみたいに離れがたく、触れる全ての部分が一瞬でとろけあって境界は消える。
お伽噺の。
いつまでもいつまでも仲の良いまま、物語の終幕を迎える優しい国のように。
ちいさなふたりだけのくに
「あ……」
そんな単語が脳裏を掠め。
アッシュはふと、その瞳で周りを見た。
安宿の、古く狭い部屋。
外は曇りの夜。
明かりは未だ復旧する気配はなく。
お互いに抱き締め合って腕を回し合い、からだを押しつけあって。
でも、
だけど、
こわく、ない
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「……何でもない」
心にともる灯を、目の前の存在ごと抱きしめて。
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自己紹介:
作品は全部書き上げてからUPするので、連載が終わると次の更新まで間が空きます。
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