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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by tafuto - 2007.10.09,Tue

                 
       『貴方に守り慈しむ存在があれば、世界はどのように変わっただろうか』
.

 

 

 

「うわああ!!」
「ルーク様!」

一瞬の出来事だった。
ルークが屋敷から飛ばされてから、こんな大きな魔物を見たのは初めてだった。
気付いたときにはもう避け様の無い位置で、月明かりに鋭く光る爪が振りかぶられるのを動くこともできずに見ていた。爪が真っ直ぐにルークの首に向かって振り下ろされる。
そのとき、轟音とともに魔物の身体が吹き飛んだ。
へなへなと崩れ落ちるルークの身体をしっかりと抱きとめる腕があった。

「良くぞご無事で・・・! ルーク様。良かった」
「あ・・・お前は?」

緊張で上手く動かない顔をやっと上げると、紺色の髪と赤い目の青年が心配そうに見ていた。
細身だがしなやかで力強い筋肉を纏った身体が、危なげなくルークを抱き上げ木陰へと移動させる。

「私は白光騎士団副団長、シリウス・ブレイズと申します。休暇中でケセドニアに居ました。ルーク様が屋敷から消えたと鳩により知らされ、第七音素の異常な収束がこのあたりに感じられたので、急ぎ駆けつけたのです。ご無事で何よりです。いったい何があったのですか?」
「俺にもわかんヌぇーよ。変な女が屋敷に入ってきて、ヴァン師匠に切りかかろうとしやがったから、木刀で受け止めたら光って・・・ 気が付いたらあのへんに居た」

ルークは頭を振りながら、不機嫌そうに言い放ち、背後の暗闇にかすかに見える山を指差した。
「白い花が咲いてるところで眼が覚めた。近くに襲撃犯が倒れてたけど、危ないと思ってそっと逃げてきた」
「タタル渓谷ですね。第七音素が反応し擬似超振動が起きて飛ばされたのでしょう。 ・・・夜は魔物も多うございます。ご無事で本当に良かった」
自分を見つめて優しく微笑む騎士に、ルークは少し赤くなりながらそっぽを向いた。
「せぶんすなんとかってのはわかんねーけど。あれくらいなんともねーっての。 ・・・さんきゅー、助けてくれて」
 

「ルーク様、動けますか? 少し移動しましょう。血の臭いのする所に何時までも居ると、魔物が寄ってきます。少し先に水辺がありましたから、そこまで参りましょう」
「一人で歩けるっつーの!」
抱き上げようとする腕を振り払い立ち上がるが、よろめいてしまったルークにシリウスは笑って手を貸した。
「命の危険から助かって、ほっとしたときに力が抜けてしまうのは、当然のことです。ましてルーク様は初めて外に御出になられたのですから」
「そういう・・・もんなのか? お前も?」
「ええ、初めてのときは腰を抜かしました。何度も危ない目にあっていると、危険を回避する為に身体が動くようになります」
談笑しながら素直に手を取られて歩き出す。繋がれた手はとても暖かかった。
 

水辺に着くと野営の準備をしながらシリウスは自分のマントを差し出した。
「もうすぐ夜明けです。少しでも睡眠をおとり下さい。ここまでは騎獣を駆って来たのですが、先程の騒ぎで逃げられてしまいました。明日はケセドニアまで歩かなければなりません。幸いなことに荷物は持っていたので野営は出来るのですが、しばらくの間ご不自由をお掛け致します。申し訳ありません」
心底すまなそうに膝を突き頭を下げるシリウスに、あわててルークは言った。
「い・・・いいよそんなの。顔上げろよ。俺、不謹慎かもしんねぇけど、こういうの初めてだからちょっとだけわくわくしてる。外ってずっと見たかったんだ」
「ありがとうございます。ルーク様はお優しいですね。見たことの無い物も沢山有るでしょうね。ルーク様がお知りになりたいことで、私が知っていることは何でもお教えいたしますよ。
そして、この命に代えましてもルーク様に傷一つ付けさせません。必ずお守りいたします」
「ああ。・・・・・・でも、お前も怪我とかすんなよ」
やがてマントを被って丸まるルークの寝息が聞こえてくる。シリウスは剣を抱きあたりの気配を窺いながら静かに身体を休めていた。
 
 
煩いほど鳴き交わす小鳥の声と、顔を照らす光にルークは目を覚ました。
「ルーク様、もう少し御休みになっていてもいいですよ。まだ夜が明けたばかりです」
「ん・・・」
目を擦りながら身体を起こしたルークは目前の景色に瞠目した。

「な・・・んだよ、これ。どこまで続いてるんだ・・・なあ、あの光ってるのは、なんだ?」

そこには一面に続く草原と所々に林があり遠くに小高い山、そして上り始めた朝日にきらきら光る海と朝焼けのグラデーションを纏ったラベンダー色の空に白く浮かぶ雲があった。
シリウスにとっては日常である風景に呆然と見蕩れるルークのその様子に、初めてシリウスはルークの境遇がどんな物であるか思い至った。この何も知ることを許されなかった子供に、今だけでも出来るだけ沢山の物を見せてあげたいと、そう思った。

「あれは海ですよ、朝焼けに照らされてとても綺麗ですね。遠くに見えるのがローテルロー橋、そこを越えてずっと行くとエンゲーブ、マルクト有数の穀倉地帯です。そしてこっちの街道を行くとケセドニア。キムラスカとマルクトの国境があります」
ぼうっと聞いていたルークは、その言葉に吃驚して振り返った。
「ええっ? てことはここマルクトかよ!」

ぼんやりと景色に見蕩れていたルークが自分の言葉を理解していたことにむしろ驚いてシリウスは答えた。
「はい、そうです。ですから、あまり騒ぎを起こすわけには参りません。旅券はあなたの分も私が預かっていますが、その御髪を隠さねばなりませんね」
「何で?」
「赤い髪と翡翠の瞳はキムラスカ王家の象徴です。王家の者だと大声で触れ回っているようなものです。マルクトでなくても王家やファブレ家に恨みを持つ者やテロの標的になることを防ぐ為に、出来るだけその髪は隠された方がいい」
「ふうん、そういうもんなのか」
「あなたの髪はあの夜明けの太陽の様に綺麗な焔の色で、隠してしまうのはちょっと残念なんですけどね」
微笑むシリウスの言葉に、ルークは真っ赤になりながら照れたように笑った。虚勢を取り払ったそれは、とても子供らしい笑顔だった。
 

携帯食料で朝食を済ませると、二人はケセドニアに向けて歩き出した。旅慣れないルークに合わせてゆっくりと歩を進める。「なあなあ、あれ何だ?」と無邪気に聞いてくるルークに丁寧に答えながら、地形の特色や土地にまつわる歴史を面白おかしく話してやると、ルークは目を輝かせた。

「シリウスの話はおもしれーな! 俺、今まで『そんな事も知らないのか』とか『そんな事知らなくていい』しか言われたこと無いぜ。屋敷の教師の話もそんなふうに面白けりゃよかったのに。皆、昔のあなたはこれ位覚えていたって、ちんぷんかんぷんな事覚えろって言うばっかでさ。昔どんだけ優秀だったかなんて、知んぬぇーっての」
自分の言葉に傷ついたように俯いてしまう。

「・・・あなたは優秀ですよ? 私が言った事はすぐ理解するし、覚えもとても良い。ただ、記憶を失ったあなたに勉強が苦痛であると思わせてしまった周囲の態度が原因です。屋敷に戻ったら、ルーク様付きになれるか、公爵様にお願いして見ます。あなたに知識を得る楽しさを知って頂きたくなりました。ルーク様はお嫌でしょうか」
「そんな事ねえ! すっげえ嬉しい! ホントにそうなるといいな!」
 

ケセドニアに着くまでに、何度か魔物と戦闘になった。
シリウスは素早く双剣を振り魔物を弾き飛ばすと、群れごと纏めて譜術で吹き飛ばす。
その鮮やかな手並みにルークは見惚れた。
「すっげえ!強いな! 早くて見えなかったぜ。あの吹き飛ばした奴、なんなんだ? 俺も早く強くなりたいな。今度俺も戦ってみたい! 教えてくれよ」
「木刀で魔物を倒すのは難しいです。それに剣の流派が違いすぎて、せっかくグランツ殿に習った剣筋が乱れてしまいますよ? 私に教えられるのは、気配を読む事、敵の動きを知り、急所を突く事、それと心構えでしょうか。ルーク様、見て下さい。私たちが生き残るために殺した敵の姿を」

その言葉にルークは辺りを見回し、屍骸と血の散らばる様子に愕然とした。
「あ・・・俺・・・戦うって・・・死ぬ事、殺すってこと分かってなかった・・・!」
「生き残る為に戦うことは、生物として当然の本能です。その結果相手が死んだとしても、命を懸けて相対しこちらが勝ち残っただけの事。
しかし相手も命あるものだと忘れてはなりません。たとえあなたが直接手を下さなくとも、あなたのために散った兵士や倒された敵の上にあなたの命がある。それをしっかりと胸に入れて生き抜くことが、あなたのすべき事です」
「うん・・・ごめん」

消沈してしまったルークを宥める様に背中を撫でると、シリウスは言った。
「謝る必要はありません。これは兵士や人の上に立つ者が目を逸らしてはならない事。此処で御教え出来て良かった。 ・・・それじゃあ、今日は譜術についてお話しましょうか」
「うん!」
 

ケセドニアに着き無事国境も越えると、シリウスはルークをアスターの屋敷に連れて行った。
旅の疲れからか、ルークが熱を出してしまったからだ。
「アスター殿、旅券や騎獣をありがとうございました。騎獣は逸れてしまい、申し訳ありませんでした。こちらがルーク様です。警備のしっかりした所で休息していただきたいのですが、こちらに滞在させていただけないでしょうか」
「いえいえ、ご無事で何よりです。騎獣は戻ってまいりました。何かあったかと心配しておりましたよ。どうぞ何時までもご滞在下さい、ヒッヒッヒ」

癖のある笑い声にビクッとなるルークに笑いながら話しかける。
「(大丈夫ですよ、アスター殿は見掛けに寄らず大変良い方です)ルーク様、私はあなたのご無事を鳩で知らせて参ります。しばらくこちらでご滞在下さい」
「(シリウスも悪人ヅラって言ってるようなもんだろ)分かった。あの、さ。俺は無事だったんだから、騎士やメイドたちを・・・その、父上に言ってさ」
「分かりました、皆喜ぶでしょう。ルーク様は本当にお優しい方だ。アスター殿、しばらくお頼みいたします」

 

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