大地降下は、最大のセフィロトであるアブソーブゲートから行う事になった。
何度もユリア式封呪を解いているヴァンの身体は、あと一箇所くらいが限界だろう。
ディストが流動化を止める装置をベルケンドやシェリダンと協力して作っているうちに、俺たちは報告の為にグランコクマへと向かった。大地降下の時期などを伝えておく必要が在るからだ。
グランコクマの謁見の間には、イオン一人が俺達を待っていた。・・・あのうるせぇ奴等はどうした。
イオンが俺達を見て笑いかけた。何か吹っ切ったらしいな。
「アニスは導師守護役の実力が有りませんので、罷免してダアトに戻ってもらいました。アリエッタ、これが終わったらしばらくの間守護役をお願いします」
「はい・・・イオンさま」
「ルーク、アッシュ・・・僕も貴方達に協力させて下さい。僕も、自分の為に生きたいんです。貴方達みたいに」
前のイオンともシンクとも違う、優しくて強い微笑だった。
ピオニー陛下とイオンによると、つい先日やっとあいつらがここに現れたそうだ。
「セントビナーが落ちる、戦争が起きるなんて古い話題を得意げに話すから呆れたぜ。ルーク、すまなかったな。あの馬鹿は降格したから勘弁してくれるか?」
ピオニー陛下がルークに頭を下げた。兵士からの報告で、あまりの不敬ぶりに蒼褪めたらしい。その他にも報告の義務を怠った罪で、ジェイドは軍位剥奪処分になったという事だ。
「ここまで遅くなったのは、僕がダアトへ送って欲しいと我侭を言った所為なんですが・・・ ダアトで僕とナタリアがモースに捕まってしまい、ジェイド達は助けてくれたんです」
「それはわかっている。問題なのはジェイドがそれを一切報告しなかった事だ。あいつの情報の隠匿のせいでどれだけ国が混乱した事か・・・」
イオンの言葉にピオニー陛下が苦笑した。
「おまけにナタリア殿下までここに連れてくるし。あいつはそう言う所が気が回らないんだ」
ナタリア姫は国に生存報告もしないでここまで着いてきたらしい。姫も使用人も何やってんだ。
「ナタリアは思い込んだら一直線なんだ。王様に止められたって言うのに勝手に付いて来ちゃうし」
ルークの言葉に俺とピオニーの口がポカンと開いた。それは初耳だった。
・・・・・・それは出奔したってことか? そんで国の一大事を放って他国の問題に口を出しに来たのか。・・・今頃あのお姫様、廃嫡されてるんじゃねぇのか。
「ハァ、良かった・・・さっさと帰して」
ピオニーが溜息をついた。イオンが微笑んで話を続ける。
「モースは、中立であるべきローレライ教団の大詠師が一国に有利な預言を教えた罪で、大詠師位を剥奪しました。今頃はダアトで服役しているでしょう。モースが勝手に罪を許したティアは、ナタリアの護衛の名目でキムラスカに送りました。アクゼリュスまでの不敬罪もありますから、道中の一部始終を書いた書状と共に」
・・・本当に強くなったな、イオン。(よほど腹に据えかねたとも言うかもしれないが)
イオンとピオニーに任せておけば、和平はあっさり締結するんじゃないかと思う。
ディストが装置を載せたタルタロスを地殻に沈めて地核の液状化を止めたあと、いよいよ大地の降下が行われる事になった。
マルクトにもキムラスカにもすでに話は伝わっている。今頃は危険地帯の住民の避難は済んでいるはずだった。
陛下たちが国民に何と説明したかは知らないが、イオンなら上手く預言から外れる道を選んだ事を民に伝えてくれたんじゃないかと思う。
実際、毎日生きる事で精一杯な一般市民に『預言は絶対だ』なんて考える奴は少なかった。
預言を詠んで貰う金もねぇ奴にとって、預言なんて教会に飾ってある綺麗な置物と同じだぜ。
それを解らなかったのは、偉い奴らだけだ。
ヴァンと六神将全員とルークでアブソーブゲートへ向かう。
ルークは俺達総出でしごかれた所為でけっこう強くなった。もう俺と肩を並べて戦えるほどだ。
迷いの無い小気味良い動きで敵に相対する。
自信がついた所為で小生意気にもなったが、うじうじしてるよりずっと良い。
お前になら俺の背中を任せても良いぜ。
長いダンジョンを戦いながら進んで行き、ついにパッセージリングにたどり着いた。
ヴァンがユリア式封咒を解いて膝を付いた。リグレットが介抱している。
息が荒い・・・・・・ヴァンは限界に近づいている。失敗できない。
シンクとアリエッタとラルゴに護衛を任せ、ディストが計算をはじめた。
いよいよ俺たちの出番だ。
ルークとぐっと手を握り合った後、二人揃ってパッセージリングに向かって手を翳した。
俺たちの手から光が溢れる。
ディストの指示に従って指示を書き込んで行き、二人で力を注ぎ込んだ。
重い地鳴りが響き渡る。俺たちから凄い勢いで力が抜け出していく。
大地は上手く降下しているのか? 今、空から見たら、どんな風に見えるんだろう・・・
いかん集中しなくては。朦朧としてくる意識を必死で繋ぎとめる。
永劫とも言える時間が過ぎ、地鳴りが止まった。
俺とルークは同時に座り込んだ。
・・・ああ、だりぃ、しばらく動きたくないぜ。
へたり込んだ俺たちに、最後の試練が襲った。
「うっ・・・!」
「いてぇっ!」
二人揃って頭を抱える。頭の中に声が響く。 ・・・これで開放しろだと?
いきなり俺たちの手に光が溢れたと思ったら、剣と宝珠が現れた。
俺はルークと顔を見合わせる。
「なぁ・・・なんつってた?」
「ローレライがこれで解放しろとか何とか・・・」
・・・とりあえず休ませろ。 話はそれからだ。
俺とルークは二人してその場にひっくり返った。
小一時間休んで飯を食ったら、だいぶマシになった。
ローレライ解放についてみんなの意見を聞く。
「・・・いつだっていいんじゃない?」
とシンク。やる気ねぇな、お前。
「ぜひ見てみたいですねぇ!」
とディスト。お前の意見は聞いてねぇ。
「お前たちの好きにしなさい」
とヴァン。・・・顔色悪いな。
「どうすっか、アッシュ」
ルークが宝珠をもてあそびながらこっちを見る。(お前、投げてもいいが、落として割るなよ)
「んじゃ、今やっちまうか。何べんもこんなとこ来んのは面倒で嫌だ」
「ん、わかった」
ルークが投げて寄こした宝珠をパチリと剣に填め込む。
ひょいと立ち上がってパッセージリングの前に来た俺たちは、無造作にローレライの鍵を床に突き立てくるっと廻した。
俺達を中心に、巨大な譜陣が現れた。
「ちょ・・・あんた達、思い切りが良すぎるんじゃない?」
シンクの叫びが聞こえる。ヴァンが唖然とした顔でこっちを見ている。
・・・なんだよお前ら、好きにしろって言ったじゃねぇか。
譜陣から、朱金の焔がぶわりと吹き上がった。首を竦めるが熱くない。
(我はローレライ・・・我が見た未来が少しでも覆された事に驚嘆する・・・・・・)
へぇ、これがローレライか。口も無ぇのに何処からしゃべってんだろう?
(我を地核より解放してくれた事に感謝する・・・礼がしたい、何か望みは有るか)
俺とルークは目を見交わした。・・・・・・同じ事考えてるな。
「ヴァンの瘴気を持っていってくれ」
(たやすい事だ)
朱金の光は一瞬ヴァンを取り巻くと、天に向かって駆け上がっていった。
俺たちはローレライの鍵を引き抜くと、皆の所に戻った。
皆は呆然としている。
「なぜ・・・私の瘴気を・・・」
ヴァンが信じられないように声を出す。
ルークが俺を見て、ニヤッと笑った。
「生きることが預言を覆すことだって、アッシュが言っただろ!」
ヴァンの苦笑は、やがて晴れやかな笑い声に変わった。皆揃って笑い出す。
なあ、預言を覆すなんて、けっこう簡単なことだっただろう?
※あと一話です。どうぞよろしくお付き合いくださいv
当家のPCとセキュリティ
Windows Vista IE8
Norton Internet Security 2009
GENOウィルス対策↓
Adobe Reader 9.4.4
Adobe Flash Player WIN 10,3,181,14
Powered by "Samurai Factory"