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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.04.30,Tue
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Posted by tafuto - 2007.10.12,Fri

 

 
バチカルに戻ると、シリウスはクリムゾンに頼み事をした。
「このくらいの出来るだけ硬くて透明な丸い宝石を二つ下さいませんか? 呪具にしたいのです」
指で2cmほどの円を作る。
「わしに出来ることなら、協力しよう。何でも言ってくれ。・・・すまんな。いつもお前に助けられてばかりだな」
「私がしたいから、しているのです。今回の事も私の我侭ではありませんか。・・・そう言って下さるなら、もう二つばかり。しばらく御子息の護衛につけません。それと、ベルケンドの別荘を貸してください。屋敷で行うには剣呑な事をしなくてはなりませんから」
「うむ、許可する。 ・・・お前も、身体を気遣えよ」

シリウスは笑って、答えなかった。
これからやろうとする事で、命を大幅に縮めるのは分かっていたからだ。
 
 

宝石が手に入ると、シリウスはベルケンドに篭った。譜術の本を見て、譜陣を練っている。
シリウスに協力する為、白光騎士が数名着いて来ていた。
ルークやアッシュも、護衛にシンクを連れて顔を出している。

 
ルークたちが帰った夜半、騎士達に離れるよう言い置き、シリウスは別荘の中庭に譜陣を書いた。
両の掌を深く傷つけ、宝石を一つ組み合わせた手の中に握ると、譜陣の中に立ち詠唱を始めた。
ぽたり、ぽたりと血が滴り落ちているのが見える。
騎士たちは離れた所から護衛しながら、息を呑んでそれを見守っていた。

詠唱は一晩続き夜が明けるころに止まった。
2、3歩あるき倒れこんだシリウスを、あわてて介抱する。
グミを含ませるとシリウスは眼を開いた。
「・・・ああ、ありがとう・・・・・・良かった、成功した」

握りしめられた宝石は、真紅に色づき、譜陣が浮かび上がっていた。
「シリウス殿、こんなになるまで・・・! ゆっくり休んでください」
「そうも言ってられないんだ・・・ でも、今日は寝かせておいてね」
気絶するように眠り込んだシリウスを抱えあげると、騎士はそっと運んで行った。
 
 
一昼夜眠り込み、シリウスは眼を覚ました。食事を取って体力の回復を図る。
頑張って食事を作った騎士が、心配そうに声をかける。
「手は大丈夫ですか?」
「ああ、場所考えて切ってるから。グミ食べさせてもらったから、平気。今日はミックスグミ2、3個くれるかな」
「またあのような事をされるのですか! 少しは体を考えてください」
「今頑張らなくて、いつ頑張るんだよ。俺は二人を助けるためなら何でもやると誓った。大丈夫、死なないから」
軽く笑って、その晩もシリウスは命を注いだ宝珠を作り上げた。
騎士たちは、言葉も無く見守り続けた。
 

 
出血の為に青ざめ眠るシリウスを、アッシュとルークが見舞った。
泣きそうな顔で覗き込むルークを包帯の巻かれた手で撫で、笑った。
 
「ちょうど良い、二人に渡す物があるんだ。 ・・・これはフォニム収束の呪具、こっちはコントロールの呪具。二人にあげるよ。ペンダントにでもして身に着けて。
普段はコントロールをルークが、収束をアッシュが身に着けると良い。瘴気中和のときは、反対にコントロールの優れたアッシュがさらにコントロールを高め、フォニムに親和性のあるレプリカのルゥが収束を持つ事で身体のフォニムの拡散を防げるはずだ」

真紅の宝珠を二人に渡す。
「ジェイドに来てもらえるよう、手配してくれないか? 彼に協力を仰ぎたい事があるんだ」
二人が承諾すると、シリウスはまた眠り込んだ。

 
何故これほど消耗しているのか、騎士達から話しを聞いた二人は、唇を噛んだ。
「あいつ・・・無茶しやがって!」
「アッシュ、シリウスの頑張りが無駄にならないように、絶対成功させような!」
「当たり前だ」
 
 
二日後、連絡を受けたジェイドがベルケンドに到着した。
アルビオールを降り、別荘に向って歩いていると、突然ティアに声をかけられた。

「お願い、彼のところに連れて行って欲しいの。彼は私の知らない譜歌を知っている。それを教えてもらいたいのよ。その為なら頭だって下げられるわ!」
(・・・随分傲慢な事だ。 ・・・・・・私も、人のことは言えませんでしたね)
内心で自嘲すると、ジェイドはティアに返した。
「連れて行くのは構いませんが、彼が会うかは分かりませんよ」
 

二人は応接間に通された。玄関先でティアが騎士と押し問答した為、面倒臭くなったシリウスが許可したのだ。
 
部屋に入って来たシリウスにジェイドは息を呑んだ。短い間にげっそりとやつれて青ざめていたからだ。
そんなシリウスの様子にも気付かず、ティアは切り出した。
「あなたの行う譜歌を見せて欲しいの」
「君には見せられない」
「何故! 私はユリアの子孫として、それを知る権利が有るわ!」
「そんなものは無いよ、これは母と祖母が編み出したものだ。教えたとしても君に使えるとは思えない」
「馬鹿にしないで!」

大声を出したティアを拘束しようとした騎士を手で制すると、シリウスは静かに続けた。
「大譜歌が歌えて秘奥義が2、3種類立て続けに使えて、譜眼を入れられたら教えてやっても良い。
それくらいのレベルじゃないと使う事は出来ない。だけどこれは禁呪だ、失敗したら死ぬよ」
言葉に詰まるティアに騎士が退出を促した。
 
 
じっとやり取りを見ていたジェイドが静かに声をかける。
「すみませんでした。そこで会って頼まれたのですが、あなたは彼女には会わないと思っていましたよ」
「押し問答を聞いてる気力がなかったんだ」
「何故それほど消耗しているのですか」
「彼らを生かすために頑張ってるだけだよ。 ・・・ネクロマンサー、世間話をするために呼んだんじゃないんだ。協力してもらいたい事がある。礼に譜眼をみせてやるよ」
「それは興味深いですが、なにに協力したら良いのです」
「此処じゃなんだから、部屋に来てくれ」
 

個室に移動すると、シリウスはシャツを脱いで上半身裸になった。
体中に譜陣を刻んだ痕や刺青があり、ジェイドは絶句した。
無残な傷跡は、しかし奇妙に美しくも見えた。

「詠唱時間がほとんど無いのは身体に譜陣を刻んでるからだよ。 ・・・あんたの事は大嫌いだが、譜術の実力は信用している。この譜陣を背中に焼き付けて欲しい。さすがに真後ろは自分じゃ見えないからな。そこだけスペースが残ってるんだ」
ひらりと譜陣を記した紙を寄こす。
「・・・・・・分かりました。少し時間を下さい。間違えてはことですから」
「頼む。少し休むから、準備が出来たら呼んでくれ」
 

ジェイドが応接間に戻ると、アッシュとルークが来ていた。
もの言いたげにジェイドを見る。
ジェイドはソファーに座ると、疲れたように笑った。
「あれが『冥王』・・・ですか。私は以前、彼の率いた傭兵隊に自分の部隊を完膚なきまでに叩き潰された事があるのですよ。随分前のことですが」
 
「なあ、シリウス何やるつもりなんだ? あんなに疲れてるのに。・・・教えてくれないんだ」
ルークがおずおずと話しかける。
「私の口からは言えません」
「ジェイド!」
「・・・しかし、知る勇気があるなら、今晩中庭を見ていると良いでしょう。ただし、けして回復術を使ってはいけませんよ。さて私はすることが有るので、部屋に引き取らせていただきます」
アッシュとルークは顔を見合わせ、同時に頷いた。
 
 
夜、二人は窓からそっと中庭を覗いていた。
下穿き一枚のシリウスが中央に進み出、譜歌を謡いだした。
月明かりに白く裸身が浮かび上がる。全身に刻まれた呪譜に、二人は言葉も無かった。
足元に出現した譜陣が淡く光る。その時、ジェイドがシリウスの背に手を翳した。
髪を高く結い上げ、曝した背中の中程、唯一白く残っている場所に、じゅうっといやな音を立てて新たな呪譜が焼き付けられていった。
顔を歪め、両手を握り締めたシリウスは、それでも動くことなく譜歌を続けた。
アッシュとルークは飛び出していこうとする足を押さえつけ、それを見ていた。
 
 
「・・・終わりました」
譜歌が終わり、ジェイドから声がかかると、シリウスは膝を突いて呻いた。
アッシュとルークは窓から飛び出していった。見守っていた騎士たちがグミを持って走ってくる。
どの顔も泣きそうだった。
 
「なにをしているの、貴方たち!」
庭の隅からティアが飛び出してきた。回復術をかけようと、詠唱を始める。
「止めなさい! ティア!!」
大声を上げるジェイドに吃驚したティアは、詠唱を止めた。

「何故です、大佐! こんな怪我をしてるのに、グミじゃ追いつかないわ!」
「何のために彼がこんな事をしたと思ってるんです! もう一度彼にこの苦痛を味あわせるつもりですか! 
回復術では傷跡が残らないでしょうが!」
「あ・・・!」
青ざめ、口に手をやるティアを、ジェイドはきつく睨んだ。
 

「貴女は彼の消耗に気付きもせず、非礼な言葉で譜歌を強請った。断られたのに忍び込んでまで見ようとした。どこまで傲慢になれば気が済むのです! いい加減自分勝手な常識とやらを振りかざすのは止めなさい!」
「・・・・・・・・・」

青ざめ項垂れるティアを、もう一瞥もせずジェイドはシリウスを抱き起こした。
「しっかりしなさい。グミを」
「アップルグミにしてくれるかな・・・傷が薄くなるとまずい・・・」
騎士が差し出したグミを口に含む。

「さすがに痛てぇ・・・ なぁ、ティア、まだ知りたいか。全身を焼く勇気はあるかい。けど今のレベルじゃ死ぬだけだよ」
声を出す事も出来ず、ティアは俯いた。その顔に涙が滴った。
 
 
ジェイドがシリウスを背負い(シリウスは嫌がったが、無理やり背負った。回りは先程のジェイドの剣幕に戦いて止められなかった)ベッドに運び込んだ。
傷薬を塗りたくり、包帯を巻く。

「大丈夫です、私は医師の資格を持っています。ちゃんと傷も残してあげますよ・・・・・・貴方は馬鹿ですね。この子達をこんなに泣かせて」
眼を真っ赤にしたルークと歯を食いしばっているアッシュの姿を見せる。
「・・・だから見せたくなかったのに」
苦笑するシリウスにアッシュか食ってかかる。
「知らない方が俺は後悔する!」
ルークは枕元で跪いた。
「シリウス、ごめん。 ・・・俺たちのために、ありがとう」
「・・・どういたしまして。頑張ろうね」
シリウスはそっとその髪を撫で、静かに眠りについた。
 
 

翌日、ジェイドとティアが帰国した。
ティアは幾度も謝罪を重ねていた。泣きはらした顔に苦笑してひらひらと手を振る。

ジェイドは帰る前に、じっくりまったりと譜眼を見ていった。
10cmの距離で長々と見つめ合う男たちは、予想通りなんとも言いがたく寒いものがあって、一同は揃って目を逸らした。
 


シリウスたちはバチカルに戻ることにし、ファブレ邸で体力の回復に努めた。
瘴気中和の日はもう、すぐそこまで迫っていた。
 

 

 


閑話  ボケてる人たち

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