瘴気中和決行の日となった。
フェレス島の近海にはキムラスカの陸艦が海上停泊して控えている。
なんと、ファブレ公爵自身が乗りこんでいた。
シンクは来たがったが、レプリカである身に危険である為留守番を言いわたされた。
アルビオールで島に降り立ったジェイド、ガイ、アスラン、ティア、ナタリアは、まず島の魔物の掃射を図った。中和中に襲われるのを防ぐ為である。
アッシュとルークは体力の温存の為、アルビオールに残った。
シリウスは、戦闘に参加出来る状態ではなかった。部屋の隅で咳き込み、血を吐いているのを目ざとく見つけたジェイドが、ドクターストップをかけた。
島に繁殖した魔物は強く、一行は手を焼いた。疲れたナタリアが愚痴をこぼす。
「シリウス、あんなに強いのですから手伝ってくれればよろしいのに」
「そうだなぁ、あのすごい譜術で吹き飛ばしてくれれば楽なのに。幾らルークの護衛って言ったって、少しぐらい手伝ってもいいよな」
ガイが笑いながら便乗する。
笑いあう二人に、硬い顔のティアが口をはさんだ。
「あなたたち、何故そんな事がいえるの? 彼がどんなに身を削っていたか、知ろうともしなかった癖に」
ティアは二人の軽口が許せなかった。
身体中ボロボロになるまで、二人を生き延びさせる為に尽くしているシリウス。
自分はそんな事も理解しようとせず、傲慢な言葉を吐き続けていた。
自分はあのときの自分が許せない、しかし彼は笑って許してくれたのだ!
「ティ・・・ティア?」
ティアの剣幕に、二人が驚いたように声をかける。
「彼はこの10日、それこそ命を削っていたのですよ。彼の身体は今、戦闘が出来る状態ではありません。それともあなた達は、自分が楽をしたいから死に掛けのシリウスを使おうと言うのですか? それほどルーク達の為に働くのが嫌なら、帰ってもらって構いません」
表情をけしたジェイドが続ける。アスランも不快気に見ている。
「・・・ごめんなさい」
口々に謝った二人は、言葉少なに魔物の掃射にかかった。
やがて魔物の殲滅も終わり、3人は島に降り立った。
入れ違いに他の者がアルビオールに乗り込んでゆく。
「死なないで下さい」
ジェイドが一声かけて行った。
アリエッタが上空にグリフォンで待機している。
ローレライの宝珠は、クリムゾンに預けてある。
アッシュとルークは、シリウスが作ってくれたお互いのペンダントを交換した。
「第七音素を呼び込みやすくするため、これから大譜歌を謡う。終わりそうになったら、始めて」
島の中央の広場になったところに三人は向かい合って立った。
「超振動を使い出したら、眼を閉じて。終わるまで開いてはダメだよ」
そう言うと、一つ深呼吸した後にシリウスは大譜歌を謡いだした。
澄んだ声に聞き惚れていたルークは、自分の手をきつく握ったアッシュにハッとした。
フェレス島のフォニムが大譜歌に引かれてざわめいている。
二人できつく握りしめたローレライの剣を、歌の終了と同時に大地に突き立てた。
溢れた光が、縒り合わさるように上空に立ち昇っていく。
シリウスは譜歌を、フォニムの収束を司るものに変えた。
フェレス島が端から光になって分解されてゆく。それを引き込み、纏め上げ、ローレライの剣に流してアッシュの負担を減らす。
同時に、拡散しようとするルークのフォニムを全力で引きとめた。
全身が引き千切られる様に痛む。背中の譜陣が裂け、滴る血液が足を濡らした。
右の譜眼が、負荷に耐えられず破裂した。それにも構わず、謡い続けた。
喉元に込み上がって来た血に、譜歌が途切れる。咳き込んでシリウスは多量の血を吐き出した。
霞む片目で空を見上げる。
それは、青空を取り戻していた。そのままシリウスは意識を失った。
歌が止んで、アッシュとルークは眼を開いた。その目に真っ青な海と空が映った。
フェレス島は中央部分を除いて分解されていた。目を遮るものは無い。
「や、やった! 成功した!」
喜びの声を上げたルークは、足元に倒れるシリウスに息を呑んだ。
身体を血に染め上げ、呼吸も微弱だ。
アッシュが抱き起こし、叫ぶ。
「アリエッタ!すぐ来てくれ! 早く!」
シリウスはグリフォンでキムラスカ艦に運び込まれた。
甲板にはアルビオールも着艦している。
アッシュとルークの姿を見て、喜びに沸いた一同は、続いて降ろされたシリウスの無残な様子に息を呑んだ。
「早く回復術をかけてくれ!」
ナタリアとティアが呼ばれる。リジェネレイトの詠唱が、その場に響いた。
ナタリアは、声が震えてうまく詠唱が紡げなかった。やっとの事でヒールを唱える。
血まみれで片目をなくしたシリウスの姿が目から離れない。
アッシュと協力して必死に指示を出すルークの姿も。
「わたくしは、何も分かって、いえ、分かろうとさえしていなかった・・・なんて愚かだったのでしょう・・・あんなに皆、教えてくれていたのに・・・」
シリウスが運ばれていった後も、ガイは甲板から動く事が出来なかった。
彼がガイに言ってきた事を思い返す。
反発を覚えてきたそれは、守るべき者として当然のことばかりだった。
「俺は何もわかっちゃいなかった・・・守る事、教える事、ルークの事も。ほんとうに馬鹿で情けない男だな、俺は・・・」
振り返ったそこは、綺麗な青空を取り戻していた。
昏睡でベルケンドに運ばれたシリウスは、5日後に意識を取り戻した。体表面の傷は癒えている。
うわーんと泣いてしがみ付くルークの頭をぽんぽん撫でる。
「何でこんなに無理するんだよ!」
「そうだ! てめぇは、心配させるのも大概にしやがれ!」
「いや、まだ死ぬ気は無いし。結果オーライなんだから、いいじゃないか」
そこに、連絡を受けたクリムゾンが入ってきた。
「おお、シリウスよ、目が覚めたか。 ・・・礼を言う。息子達はこのように生き残った。何か礼がしたい、欲しい物は無いか」
「じゃあ、お言葉に甘えて。 ・・・かっこいい眼帯が欲しいです」
にっと笑ってシリウスが答える。
クリムゾンは微妙な顔をしたが、二日後に眼帯は届けられた。
「あ、ホントにかっこいい」
黒地に銀で控えめに模様が入ったそれは、シリウスに良く似合っていた。
嬉々として当ててみている。
(父上自らデザイン、とか言ったら笑うぞ俺は・・・)
(いや、シリウスを知ってるバチカルの職人にわざわざ誂えさせたと言っていた)
「アッシュ、ルーク、あげたのに悪いんだけど、収束の方の石、返してくれるかな?」
すまなそうなシリウスに、アッシュはペンダントを外し、渡した。
「もともとお前んだ、かまわねぇ。もうこんな事は無いだろうしな」
アッシュに笑いかけると、シリウスは石を取り外し、えいっとばかりに右目に押し込んだ。
即座にヒールを唱えると、何事も無かったように眼帯を付け始める。
「おお、海賊みたい?」
肝を潰した二人は、能天気な言葉に我に返った。
「なっ・・・な、なにしやがった、いま!」
叫ぶアッシュに、あわあわするルーク。
「なにって、収束の譜眼の代わりに収束の宝珠入れてみた。これで差し障りは無いはずなんだ。それより、かっこいい?」
ハァ、と深い溜息を吐いた二人は、口々に言った。
「かっこいいよ・・・」
「イカス・・・」
※幻水5のゲオルグさんみたいな眼帯希望v(笑)
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