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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by tafuto - 2009.04.21,Tue

MIA もし様の所のリクエスト企画で頂きましたv

頂いたのが奇しくも私の誕生日でして・・・ 大変素敵なプレゼントに感涙いたしました。
掲載が遅れて申し訳ありませんでした。 ブログってどうしても頂いた時のままの状態で表示できません。
どうやったものか悩んでしまった。 改行場所やフォントや字のサイズが違ってしまう・・・ 

なお、このお話はアシュルクではありません。 もし様のサイトはアッシュ受けサイト様です。


私のリクエストは 
『ピオニーにだけは虚勢を張らずに笑えるアッシュ。
そんな二人を偶然見て、自分の気持ちを自覚して悔やむジェイドと自覚のないままに嫉妬するガイ』
というものでした。

もし様、大変素晴らしい作品をありがとうございました。 


以下はコピー&ペーストで貼らせて頂いています。





 

注釈:ED後、(ルークは出て来ませんが)赤毛はW生存設定。
片思いが多すぎるので、苦手な方は注意。
書いている人間の捏造設定が暴発している。
……細かいことは気にしてはいけないということです。

 

 

繊細な赤の熟し方



自室は蛻の殻だった。
ブウサギも残らずいない辺り、側近候補のあの青年貴族が丸ごと連れ出しているのだろう。
しかし、部屋の主がそれに付随しているわけではないのだから行方は果たしてどこなのか。

誰もいない皇帝の私室でジェイドはため息を洩らした。
机に目を向けるとやりかけの書類が放置してある。
ただ、珍しいと感じたのは処理済の分量のほうが多いということ。
比率にして3対1。
仕事量の管理はジェイドの管轄外だが、尻を叩く役割は任されているだけにこの異様な状況が気になった。

極秘(個人的な意味で)の案件とあわせて、これについて伺いを立てようと思うのはこれからの傾向と対策のため。

「ピオニー陛下はただいまどちらへ?」

側仕えのメイドに声を掛ける。皇帝の私室へフリーパスのジェイドが彼女らへ声を掛ける機会に『取次ぎ』という内容はごく稀である。それだけ、ジェイドが皇帝と個人的に親しいという事をメイドも知っている。

「陛下でしたら、先ほど地下書庫に向かわれました」

赤い唇のメイドが愛想よく笑いながら答えたのに、ジェイドもやんわりと微笑んで返す。

「ありがとうございます」

軽く頭を下げるジェイドに深々とメイドは頭を下げ、体を起こして後姿を見送ろうとした。しかし、背後の衝撃が彼女にそれを許さなかった。

「痛っ!」

思わず悲鳴を上げる。
何事かと振り返れば彼女の先輩であるメイドが立っていた。

「馬鹿ね、陛下はよほどの急用でない限り誰にも自分の行き先を告げないように、とおっしゃっていたじゃない」

周りに聞こえないようにと小声で話す内容に、それでも行き先を教えてしまったメイドは顔を蒼くした。小事であろうと、命令は命令。例えカーティス将軍でも例外ではない。せめて用件を聞いておくのだったと両手で顔を覆った。

あまりのうろたえ様に気の毒になった先輩メイドが今度は優しく彼女の肩を叩く。

「陛下は寛大な方だからこの程度のことで処罰は無いでしょう。おまけに相手がカーティス将軍でもあるのだから、貴方の判断は無理も無いことです。けれど、次からは気をつけなさい」

廊下を通り、階段を下りていったジェイドの姿はもう見えない。
メイドに与えられた命令は『居場所を伝えないこと』であって、『皇帝への面会人を遠ざけること』ではないのだから、ジェイドを引き止めることは権限外だ。もとより、彼は皇帝へアポイント無しに面会できる権限を皇帝本人から与えられている。その命令と、権利のどちらが優先事項なのかはっきりしていないのだけれど、換えの効かない軍人であるジェイドと代わりなどいくらでもいるメイドの権限のどちらが上かと聞かれれば答えはきまっているのだから。

***

地下書庫の入り口に立つ兵士が一礼してジェイドを迎え入れた。
この国の皇帝がこの城のあらゆるところに出没するのはいつものことだし、それを追ってこの軍属が現れるのもいつものことであったから彼はさして気にも留めなかった。
実際、この程度のことはこの城ではどうでもいいことに分類される。

ただ、このことでこの兵士にとっても、メイドにとっても知らぬ場所で『ちょっとした波乱』が起きてしまうということを彼らは知らなかった。

それは彼らにとってはかかわりの無い内容であり、知る必要も意味も存在しない。
それは当人たちを除けば本当に、『ちょっとした波乱』にすぎないことだった。


収蔵物の管理が行き届いていないわけではないが地下特有のこもった空気が鼻につく。明かりは書籍の保護のために薄くしか点いていない。

書物を読むのには少し足りない明るさに、ジェイドは明かりのある場所がピオニーの居場所と心得た。何を好んでこんな場所に来たのかはわからないが、書架に来る目的で一番考えられるものは間違いなく『本』だろう。

列になった書架の左右を覘きつつ、奥に進む。整理が行き届いているため、先の見通しがつくここは捜索をしやすかったが如何せん場所が広い。そのため、すぐに見つかるだろうかと思案したがどうやらその心配は杞憂だったようだ。

奥のほうでくすくすと笑い声が聞こえる。複数人のもののようだった。その中にはピオニーのものも混じっている。その声を探るように奥に奥にと進んでいくと、ぼんやりと明かりがある一角から洩れているのがわかった。そこに近づくのに自然と足音が潜んだものになってしまうのはいつもピオニーを追い掛け回す中の一人に数えられているジェイドにとっては当然のこと。

一体、誰と話し込んでいるやら。あまり興味は無いが、ピオニーがここに連れ込んだ人物が何物なのか知っておく必要はあると、彼らを視界に入れることが出来る書架と書架の間へと身を進めた。

中には二人の人の姿。
一人は言わずもがなピオニーのもの。
もう一人は腰にまで届きそうな長く赤い髪の人物。
二人そろって音素灯を床に置き、同じく床に置かれた一つの本を一緒になって見て笑っているのは、まるで宝の地図でも見つけてはしゃぐ子どものようだと感じた。

なるほど、『彼ららしい』

と、思ったところでジェイドは違和感に気が付いた。

ピオニーはともかく、もう一方の。

彼だったら、白やそれを基調とした服を好んで着る。
しかし、目の前の赤い人物が着ているのは黒い服だ。

彼だったら、笑うときにもっと口を大きく開けて笑う。
けれど目の前の赤毛の人物は口の開き方が小さい。
『ルーク』よりも笑い方に品がある。

つまり、目の前でピオニーと一緒に笑う人物は『ルーク』では無い、ということ。
その事実がジェイドを驚かせた。

同じ髪、同じ背格好。
同じ顔。
ならば目の前の人間が誰かなど考えるまでも無い。
ルークの完全同位体である『アッシュ』以外にいるはずが無い。

けれど目の前で笑う人物が『アッシュ』であるということがジェイドにとっては一番の違和感だった。

ジェイドの知っているアッシュはこんなふうに、笑うはずも無いのだ。確かにアッシュだって笑うことがあるのは知っている。けれど、それは相手を見下す嘲笑であったり、苦笑であったりする記憶が多くて、頑ななこの人物が『自然』に笑っているのを見たのは多分これが初めてだ。

記憶とも想像とも該当する表情が無いアッシュのそれにジェイドは息を詰まらせた。

「誰だ!?」

気配が張り詰めたせいだろうか、空気が緊張したものへと変化する。奥のピオニーを庇うように『部外者』と彼の間にアッシュが身を滑り込ませた。本を読めるようにと明かりを点しているため、相対的に暗い位置に立つジェイドの姿を視認することが出来ないのだろう。けれど、ジェイドからは明るい場所にいる彼らの表情をつぶさに読み取ることが出来た。アッシュの表情は完全に柔らかさを無くしている。ジェイドの知る、『常のアッシュ』そのものだ。

「わたしですよ、アッシュ」

アッシュの緊張を解くために間の抜けたような声でジェイドが彼らに呼びかけると、すぐさま相手を認識したアッシュが警戒態勢を解き、体をずらす様にしてピオニーへの道を明ける。書架の間を通ってジェイドは二人に近づいた。緊張状態こそないものの、アッシュの表情は先ほどの和やかな雰囲気さえ醸し出していたものに戻らない。分かってはいたことだが、それがジェイドにとって少し不満だった。『違和感』だと思っていたにも拘らず、不満を抱く理由をジェイドは量りかねたが、答えはこれから探ればいいだけのこと、と感情を胸の内に沈ませた。

「お楽しみのところお邪魔しますよー、陛下」
「邪魔だって分かってるなら他に言葉があるだろ」

アッシュの空けた空間のおかげで奥にいるピオニーの不貞腐れた表情がジェイドにもよく分かる。アッシュの空けた道を通らずに、アッシュを挟んでピオニーの反対側の位置でジェイドが立ち止まると、遠慮したのだろうアッシュが書架へと背を押し当ててジェイドが通りやすいようにとさらに道を空けた。しかし、アッシュに出て行ってもらう必要性はないとジェイドは手振りでそれを『不要』と伝ると、アッシュは力を抜く。

「申し訳ありません陛下、奏上いたしたい件がございましたので、……客人とご一緒とは知らず失礼いたしました」
「他に言葉はって言ったがよぉ、堅苦しいのはいらないぜ」

ジェイドの言葉にうんざりするようにピオニーが返すとジェイドの付近の空気がほんの少し、また和らいだ。ちらりと少しだけ目を『其処』へと泳がせると柔らかく弧を描く口元が其処にあった。ほんの僅かな表情の変化。けれどジェイドは気にならずにはいられなかった。先ほどまでのやり取りでは起こらなかった変化にジェイドは僅かに目元を釣りあがらせた。本当に僅かな変化。それを察したのはジェイドばかりではないようで、奥のピオニーもそれに『応える』ように口端を上げていた。

「それにしても、お二人とも、ずいぶん仲がよろしいようで」

原因は多分、とジェイドはピオニーのほうに改めて向き直った。アッシュの表情はもう先ほどの柔らかさが消えている。続けざまにジェイドがアッシュに視線を向ければ、今度はその視線を受け止められ、睨み返された。自分のときとピオニーとではまるで態度が違う。けれど『仲がいい』という自分の言葉をアッシュは否定しなかった。普段のアッシュの性質を考えれば照れ隠しのためにムキになって否定の言葉を言い出しそうなものを、それが無かったということは、アッシュ自身の口から『否定』の言葉を出したくなかったことの証明だろうか。考えながらも、ジェイドはいつもどおりの笑みを崩さなかった。一瞬置いて、アッシュの視線がはずされる。

「こいつに用があるんだろ、こんなところまで足を運ぶってことはそれなりに時間も必要な用件だろ。消えて欲しいならさっさと消えてやる」
「そういうつもりで言ったわけではないのですがねぇ」
「俺のは野暮用だ。優先はそっちだろ」

きつい言葉ではあるが、アッシュなりの配慮なのだということは分かる。帰り道を塞ぐ形となったジェイドの体を押しのけるようにしてアッシュは反対側の、帰り道へと体を運んだ。ジェイドと位置を入れ替える形になったアッシュへと、ピオニーが座ったまま視線を送る。

「済まんな、アッシュ。俺としてはお前との用事も大切なんだが」
「いや、取り繕う必要はねぇよ。また来る」
「そっか、悪いな」

ピオニーがひらりと手を軽く振ったのを確認したアッシュが同じくピオニー同様に手を振って無言で本の谷間の外へと出て行った。自分には何の暇乞いも無し。先ほどの『優先事項』の旨を『別れの言葉』ととったとしても、あまりの態度の差にジェイドは笑いさえこみ上げてきそうだった。

「可愛くないですねぇ」
「残念だが、お前の可愛くなさとあいつの可愛さじゃ勝負にならないぜ」

アッシュの気配が書庫から確実に消えたのを皮切りにジェイドが苦笑しつつ口を開けば、ピオニーは面白くなさそうに不満を洩らす。自分とピオニーとでは表情も態度もまるで違うのだから評価が分かれるのは当然であろうに。

「貴方にとってはそうでしょうね、……ところでその本は?」
「ああ、これか」

別れが惜しかったのだろう、残された床に広げられたままの本をピオニーが一枚、二枚とページをめくるのにそんな気持ちが垣間見えた気がする。興味本位で尋ねてみるとぱたりと豪華な装丁の本は音をたてて閉じられ、替わりにその表紙が示された。

「ウィリアム=トレイルのレシピ集。……の発禁版、だ」
「なるほど、……それにしても」

実際に本人に確かめたことは無いが、アッシュが料理に精通しているのは確かで、旅の中でも味の微細な違いに気を使っていた記憶がある。アッシュの気を引きそうな本だ。

けれど、たかがレシピ集ごときがアッシュの表情をああも変化させる理由のはずは無い。確かな理由は目の前の男が握っている。

「陛下はどうやってアッシュを口説き落としたのか、お聞かせ願えませんか」
「お前、用件はどうした?」

いつものように人好きのする笑みを浮かべた幼馴染を睨みつつ、ピオニーは手元の本のページを繰る。ジェイドの言う『用』のために『野暮用』と言ったアッシュが帰ってしまったのに、実際の用が野暮用どころか与太話では話にならない。

当然、それをジェイドも心得ていた。

「エンゲーブ南方でとれる希少品種からなるワイン、約束どおり探しておきましたが」

ジェイドの言葉にピオニーが手元を止める。本のページには晩餐の様子の挿絵が印刷されていた。

ウィリアム=トレイルのレシピ集には料理と相性のいいワインの種が記載されている。ここで彼に取り上げられた銘柄は洩れなく当時最高の評価を獲得したということをジェイドも知っていた。ピオニーに探せと言われたワインも間違いなくこの中に載っているだろうという事も。

「やっぱりお前、可愛くないな」

ため息をついてピオニーは手元の分厚いそれを手近な書架に押し込めた。

「口説くも何も、押しの一手だよ。時間をかけて、色々とな」
「『色々と』、ですか。アッシュと親しくなったそもそもの経緯も含めて具体的に御願いします」

言葉を濁したピオニーを咎めるようにジェイドは続きを促す。再びピオニーが溜息をついて、何かを思案するように上へと視線を泳がせた。

「きっかけはレプリカ政策についての手記を押し付けたことだったな。あいつにとっては命をかけた懇願だろう? ルークや、お前らには何かしらしてやったが、あいつには何もしてやれなかった。だから、あいつが一番しなくてはならないだろうと思うことを替わりにやってやろうと思っていたわけだ。その経緯と経過を知ってほしくてな。
 その次は、手記には無い、俺の個人的な感情やら考えを手紙に書いて送った。それだけじゃつまらんからグランコクマの様子も含めてな。お前のことやガイラルディアのことも書いた」

とはいってもたいしたことは書いていないが、と付けたしピオニーはアッシュに話したそれ以上の内容の言及を避ける。

「時間は毎日10分って決めてな。そのかわり、毎日絶対10分書いて、毎日ダアトに送った」
「それでですか、日に一度ほど嫌にそわそわしている時間帯があるのは」
「まぁ、手紙を書いたら返事が来るのが普通だしな。俺も大概だと思うが、しっかり毎回返事を書くアッシュもアッシュだぞ」

 まめだなぁ、とぼやくピオニーだが、ジェイドからすればピオニーが毎日手紙を欠かさず書いていたほうが驚きだった。筆まめ以前に、ピオニーの行動は大雑把な部分が多い。10分とはいえ、毎日誰かに手紙を書くピオニーなどジェイドは知らない。ピオニーでなくても、毎日手紙を書き続けることが出来る人間など少ないだろう。多忙な中、それでも書き続ける理由をジェイドは分からなかった。

「何でそんな手間がかかることを、陛下らしくもない」

呆れ混じりにジェイドが問えば、ピオニーはにやりと口端を上げてジェイドにちらりと視線を寄越す。

「なんでって、お前とサフィールが俺を置いていっちまった時に、俺が一番して欲しかったことをあいつにしてやろうと思っただけだ」

カーティス家へ養子に入ったジェイドは軍に所属したあと研究に没頭し、妹にも幼馴染にも便り一つ寄越すことは無かった。そのことを恨んでいるわけでもなければ、悲しいと思ったことも無いが、何かしら連絡を入れて欲しいという気持ちがあった。それと、こちらの心配を察して欲しかったということ。

「誰かのために手紙を書くってことは、その誰かのためだけに時間を割くってことだろ。10分とはいえ、毎日自分のために時間を割いてもらってるのだとしたら、俺は嬉しいと思うから同じことをしてみた」

『あいつも、俺と同じ気持ちに少しはなったんじゃないか?』

心が解けて、自然に笑うのはそれが理由だろうとピオニーは笑った。

「尤も、単なる同情だけじゃ毎日は無理だったろうな。それなりに旨みのある話があいつから零れるから、……下心って奴だ。それが手間のかかることを毎日続けた二つ目の理由な」
「それで、うまい話の一つが先ほどのレシピ本とワインに関連していると?」
「察しがいいじゃねぇか。その通りだよ。お前もいずれ巻き込むつもりだったから話しても、……問題ないだろう」

話に興味を示したジェイドにピオニーは含みのある笑みを返し、続ける。

「しばらく前、アッシュから手紙と一緒に1本ワインが送られてきた。エンゲーブ付近でレプリカたちが作ったものらしい。味は、まぁ、そこそこだった」

『そこそこ』とはいうが、皇帝であるピオニーの舌は肥えている。ワインといってもピンからキリまであるのだからピオニーからその評価を引き出せたというのならばけして悪いものとは言えない程度の質だろう。話はこれからなのだろうとジェイドは黙って先を促した。

「だが、アッシュの知り合いに言わせると2,3年置けば上等な味に変るんだとよ」
「しかし、レプリカたちが作ったものであるということ、無銘である事から値が付かない」
「ああ、不当に買い叩かれちまうんだと。2,3年置こうにも保存費がかかるから不出来のまま売らざるを得ない。おまけに不出来のまま売れば適正な評価は付かなくなっちまう」

 さしはさまれたジェイドの言葉にピオニーが頷く。レプリカを今も爪弾きにしたり、単純な労働力としか見ていない人間は今も多い。けれど、ここ数年でレプリカたちは新しい知識と技術を身につけオリジナルたちに勝るとも劣らぬ才能を発揮しているものも存在する。レプリカたちの作ったワインとレプリカの評価は似たようなものだ。優れていながら、持つ背景のために認められないのだという。

「一度、手に入れた評価の元でぬくぬくとして努力を怠っている奴らがいる傍らで、本来手に入れることが出来る評価を手に入れることが出来ない奴がいるっていうのは、問題だ」

そういう奴が死ぬほど嫌いなんだとアッシュが言っていたといってピオニーがまた笑った。なるほど、ナタリアにしろ、アッシュにしろ王族という立場でありながら何度も悪意という毒を飲んだからこその言葉だとジェイドもつられて笑う。そんなジェイドの様子を見ながら、それから、とピオニーが自身の口元に指を触れさせた。

「お前に頼んだワインな、あれは今でこそ特上の来客への持成しに使うワインとされているが、元々は田舎で日々の他愛の無い食卓で出されるワインだったんだと。……それが、この本に掲載されたことで破格の評価が付いちまった」

 開いた片手で、再び仕舞われた本を書架から引きずり出す。

「あのワインは元々田舎の素朴な料理の共に、と掲載されていたんだがな、早とちり共に過大評価されちまっていまや超高級銘柄の一つだ」

 ピオニーが開いたページはジェイドがそれなりの手間をかけて探し出した『ワインの銘柄』が確かに記載されており、ピオニーが言ったように『田舎』の家庭料理の作り方が側に記載されていた。

「今さっきの『発禁版』はな、後に『訂正版』が発売されている。今も世間に多く広まっているのがこいつで、大抵の評価もこれに由来している。けれど、こいつは自身のコレクションの価値を低下させないために一部の貴族が徒党を組んでトレイル氏に圧力をかけて作らせた内容らしい」

自分たちが所蔵しているワインが『田舎』モノだって、世間に思われるのが嫌だったんだろう、と文字をなぞりながらピオニーが呟いた。高慢な貴族たちが評価を押し曲げた結果に、著者が何を思ったのかなどは知らない。けれど、著者が確かな料理人ならばこれは屈辱以外の何物ではなかっただろうと、思う。

「『元』を引っ張り出してきたらあまりにも内容が違うから、二人して笑っちまった。『虚栄』に満ちた『表側』よりも、素朴な『素顔』のほうが好みでな。だから、一緒に『悪巧み』をしようと思ったんだよ。そのための準備だ、今日の話し合いは」

逃げられちまったけれど、と苦笑交じりにピオニーは呟いた。『逃げた』のではなく、アッシュはピオニーに別のことを優先させようとしていただけだろう。もう少し早くこの内容を聞いていれば帰らせずに済んだかもしれないけれど、とジェイドがアッシュが返って言った方向に目をやれば、ピオニーはあまり気にしていないようだった。『また来る』といった言葉は確かなのだろう。それは互いの視線の絡みを見れば部外者のジェイドにも分かることだった。

 溜息をつきながらも、次の『逢瀬』を思うピオニーは楽しげで、それはアッシュにも同じ事が言えるのかもしれない、と『部外者』の視点でジェイドはぼんやりと考える。

「多分、俺の一日10分は一生あいつに捧げられるだろうな。同様にあいつの時間もな。……今日みたいに直接会う日は例外だが。何万文字を交わそうが、直接会って言葉を交わす以上の時間の遣い方は無いからな」

ピオニーの表情から、この『時間の価値』が伺える。

捧げた10分の代償が好意と信頼とあの表情。それを安いと思うか、高いと思うかは人それぞれだろうけれど。

「……」
「嫉妬するか?」
「ええ、残念ながらその様です」

自分の顔を覗き込んでくるピオニーの視線を避けるようにジェイドは目を閉じた。

「素直だな。今日は可愛いじゃねぇか」

それに答えず、代わりにジェイドは瞼の裏に自分の知らないアッシュの表情を過ぎらせる。
一人生き急いで、焦燥しきっていたはずの、手負いの獣のようだった人間が、どうしてあんな顔が出来るようになったのか。

それは乾いた心の隙間に誰かが入り込んだことに他ならない。
乾いた心が潤っていったから、あの表情が自分を満たした人間に向けられているのだろう。

沢山の時間、沢山の言葉、沢山の感情。
寂しい心の隙間にピオニーは真っ先に気が付き、それを満たしたのだ。だから、アッシュはあんなにも満ち足りた顔をピオニーの向ける。

二人きりの密やかな会合は手紙の延長。
お互いを思い、お互いの考えを交わし、お互いの考えを思う。
其処に誰も踏み込ませないからこそ、アッシュは笑える。
密閉された其処は自分のためだけに書かれた手紙の延長上なのだから。

だから、招かれざる客である自分はあんなにも警戒されたのだと、ピオニーと同じ表情を向けられるはずも無いのだと悟った。

満ち足りた世界に異分子は不必要。
乾いた心は満たされれば潤い、何かを欲する事が無くなる。
アッシュの世界はピオニーの手で満たされているのだろう。

その事実を突き立てられて、漸くジェイドは自分自身の感情を自覚した。

どうして真っ先に踏み込まなかったのだろう。
その表情が持つ価値に今更気が付いても遅いというのに。
アッシュを欲していた自分に気が付いていなかったとでも言い訳がしたかったのだろうか。

非凡な才能の持ち主だとは知っていた。
旅の中、アッシュが裏で手を回していたことに助けられたのは数知れず、
その行動と洞察力の確かさに感心していた。
だから、手元に置ければどんなにいいかと思っていたことがあるのは確か。
けれど、実際には手元に置くことも出来ず、
それを育む事も出来ずという中途な立ち居地に自分はいる。

せめて、その欲求にだけでも忠実な言葉が紡げれば、
目の前の幼馴染の立場に自分はいれたのだろうかと考えた。

好意と、信頼。
蓋を開けてみれば、それ以上の物が欲しくて、
けれどそれ以下のものも手に入れることが出来ずにいる自分に奥歯を噛む。

ぎりっ、と小さく響いた音にピオニーは薄く笑った。

「なぁ、ジェイド。あいつは寂しがりな奴なんだよ。多分、俺一人じゃ埋めれる箇所なんて限られてる。なぁ、あの『表情』が欲しいんだろ、お前も」

『かわいそうに、気が付いちまったら捕らえられちまうってのに。
 あの表情にはそれだけの価値がある』

どんなに密閉し、押し隠したところで、馨しい香りと深い色合いは自ずと人をひきつけてしまうものだから。

ジェイドの表情をつぶさに観察しながら、心のうちだけでピオニーは苦笑した。表層には現れない動揺と喜色は予想通りのものだったからだ。

「『欲しいなら』行動を起こせ。ただし二番煎じは通用しない。
もっとも、あの表情はその気になれば誰でも手に入れる可能性はある。お前が欲しいのはもっと別の、感情じゃねぇか?」

手に入れることが出来ていない今、あの表情は間違いなく自分だけのものだと釘をさして、ピオニーは挑発する。二人だけの時間の邪魔をして、アッシュの表情を固くさせたのは許しがたいが、親友のよしみで不問としよう。けれど、『努力』をせずに、『あれ』を欲しがるのは分が過ぎると言うもの。


『知るのが遅すぎた』なんて言い訳などされたくは無い。


***


ジェイドが立ち去った後の薄暗い書庫の中で、ピオニーは一人物思いに耽っていた。

思い出すのは先日のダアトでのことだ。

自分ひとりの訪問だと思って無防備な表情を曝したアッシュの『顔』を見てしまった犠牲者が独りいた。
あれは多分、今回のジェイド以上に不幸な事故だろう。
密室にしまってあったはずの、ここに無いはずのものが表にでてきてしまったのだから。

けれど、起こる筈も無い出来事が起きるという事故があって、
彼は自身の胸のうちにあるアッシュの姿と、実際のギャップを垣間見て、酷く動揺しただろう。
本人はきっと無自覚だろうが、突き刺さる視線は嫉妬そのものだった。

アッシュに向けられる視線も変質していた。
憐憫さを誘う壊れ物を見るような視線から、
相手そのものを欲する意が混じる視線へ。

ガイラルディア・ガラン・ガルディオスも、間違いなく自分以外の人間に向けられたあの『表情』に囚われているとピオニーは確信していた。
それでも、『無自覚』の感情を教えてやるつもりは無い。
あの『赤』は、極上だが繊細な生き物だから。

物分りがいいようで、大人になりきれていない彼にはまだ早い。


自分の幼馴染にしても同じことだ。
物分りがいい大人の仮面が邪魔をして、
自分の感情に素直になれないで割を食うことにさえ気が付かないだなんて。


そんな程度の感情で、折角自分が見つけた『赤』を、欲するなどおこがましい。


だから、

大人ぶった軍人が見栄を捨てるのが先か、
大人になりきれない青年が包容力を獲得するのが先か。

特等席で見学させてもらう。
それが、自分に与えられたせめてもの特権。

「俺はお前の味方だよ、アッシュ」

薄暗い地下で、『秘蔵の赤』を思いながらピオニーは薄く笑った。

 

【END】
 




tafuto様リクエストで、
『ピオニーにだけは虚勢を張らずに笑えるアッシュ。
そんな二人を偶然見て、自分の気持ちを自覚して悔やむジェイドと自覚のないままに嫉妬するガイ』

とのことだったのですが、
どうにもこうにもガイ様の出番がおざなりで申し訳ありません。
あと、どうにも薄暗い話でごめんなさい。

薄暗い地下はカーヴ、ワインはアッシュのメタファだと気が付いてくれたらいいなぁと。

カップリングはご自由に、とのことだったのですが、全部片思いになっている気が……。
陛下とアッシュはある意味両思いなのですけれど、
友人の関係に近い、けれどそれ以上に親密な仲だと思ってくだされば。
多分、ナチュラルに同じ布団で寝れる位には仲がいい。

元々のタイトルは「スケルトン・ライアー」というタイトルでした。
透明な壜の内側にある本音、のような
理解者の面をしていながら、独占欲がある、けれど、最後の本音は語れない、
そんな陛下を差してのタイトルだったので、「自分に嘘を付く」陛下の感情を推し量ってみてください。
と、放りっ放しなあとがきでした。


ちなみに、レシピ本の著者は一応実在の人物がモデル。
でも、内容を見たことはないので名前は挙げません。
察したらにやりとしてください。

 

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