「ありゃあ、よっぽどヴァンに仕込まれたんだろうぜ!生意気言いやがるが、上玉だ。」
「具合も良いしな!」
下卑た笑い声が聞こえてきた。ノールは振り返ると、男たちが出てきた小部屋を見た。
また誰かマワされたのかと覗き込むと、子供が男たちの精液に塗れて倒れていた。赤い髪の10才ほどの少年だった。
いつの頃からか、ヴァンと共に時々見るようになった少年だった。
抱き起こすと、やせ細った手足に拘束の後が見える。実験されたような火傷や、注射の後も点在している。
小さく呻いて眼を開けた少年は、ノールを見ると目を眇めて睨みつけてきた。
「お前は誰だ。」
こんな目に遭いながらも一歩も引かないその表情に、少しノールは感心すると言葉をかけた。
「ああ、ただの通りすがりだ。立てるか?」
子供はよろよろと立ち上がると服を直し、無言で部屋を出て行こうとする。
「おい、無理すんな。」
かけようとした手をパシンと払われて苦笑した。
「触るな。・・・こんなの慣れてる。」
子供の内からこんな目に遭わされていれば、少なからず精神のどこかを病んでしまうものなのに、
その子供は毅然としていた。
慰安目的に拾われてきた子供にしては、妙に誇り高いその様子が気になって、ノールは注意して見る様になったのだった。
子供は相変わらず時折慰み者にされていたが、日常の大部分を剣を振って過ごしていた。
がむしゃらに強くなろうとする少年を嘲笑する者も痛めつける者も居たが、数人は感心して見ていた。
少年は、いくら打ちのめされても決して諦めずに向かって行った。その眼は気絶するまで闘志を失わなかった。ただひたすらに強さを求めていた。
「よくやるなぁ、あの坊主。・・・おお、だいぶマシになってきたじゃないか。」
同じ特務師団の男が、ノールの横に立って呟いた。
「知ってんのか?」
「ああ、ヴァンに研究所から連れてこられたって聞いたな。あの色、キムラスカ貴族の落とし胤とかじゃねぇの?・・・何でも、えらくえげつない仕込み方されたみたいだぜ。薬使って輪姦すのに参加させられた奴から聞いたんだ。あんなガキに良くやるよ、まったく。」
嫌そうに吐き捨てて去っていく男を見送り、ノールは考え込んだ。何故こんな子供にそこまでするのか、ヴァンの考えがまったく読めない。
暫く前に噂になっていたある事件を思い出す。それは、ファブレ公爵の子息が誘拐され、発見されたというものだった。
(年頃は同じくらいだよな・・・でも本人ならなんで逃げ出さないんだ。)
ある日、剣を抱いて休憩している子供に話しかけてみた。
「お前・・・もしかしてルーク・フォン・ファブレか?」
「・・・何で!」
子供は目を見張ってノールを仰ぎ見た。
「世界情勢くらい、俺だって知ってる。だが、見つかったって言ってたな。・・・替え玉でも戻されたか?」
「・・・・・・」
「あそこへ戻してやろうか?」
俯いていた子供は顔を上げると、真っ直ぐにノールを見返してきた。子供らしからぬ強い視線だった。
「・・・いい。戻ったって、実験動物か人間兵器だ。殺されるだけの為に、あんなとこには帰らねぇ。俺は、自分の力で、ここで俺を認めさせてやる。」
「・・・そうか。」
それからノールは時々剣の修行に付き合うようになった。
気絶するほどに叩きのめしても弱音など口にせず、ギラギラした眼で向ってくる子供に、手加減せず厳しく稽古をつけた。
子供の成長は目覚しく、2年もすると一般兵なら打ち合いで負けないほどになっていた。
相変わらずヴァンには逆らえないようだったが。
ある日、ヴァンが見知らぬ青年を連れて歩いていた。
まだ若い金髪のその男をヴァンは隠すように奥の部屋の前に連れて行った。
妙な様子に物陰に隠れて見ていたノールは、扉が開いた間に響いた声が少年の物だと気付いた。苦痛を耐え切れないような嬌声だった。
(また犯られてんのか・・・)
ノールは思わず眉を顰めたが、次に自分の見たものにあっけに取られた。
若い男が、扉の隙間から少年の犯される様子を見ている。嘲笑いながら、嬉しそうに。
金髪で端正な顔立ちの男の顔が、酷く醜悪に見えた。
(むなくそわりぃ・・・!)
ノールは唾を吐き捨て、その場を後にした。
子供が14になった頃、ヴァンが特務師団に子供を連れてきた。
「これはアッシュという。今日から特務師団長となる。よろしく頼むぞ。」
その言葉に特務師団員達は殺気立つ。ノールの実力は誰よりも上で、団員に慕われていたからだ。
無表情に話を聞いていた子供は、ヴァンが居なくなるとノールに近寄ってきた。
「師団長といっても、名目だけだ。ヴァンは俺を役付きの子飼いにしたいだけだ。・・・後でヴァンから話があるだろう。あんたが実際の団長だ。俺はあんたに従う。」
師団員達はその言葉に殺気を収めたが、少年は微妙な立場におかれる事となった。
自分達の頭であるノールよりも上の地位に付いてしまった子供は、遠巻きにされ、話しかけるものは居なかった。
少年の言ったとおり、ノールはヴァンに呼び出され話を聞くこととなった。
「あれの機嫌をとる為に名目上師団長につけたに過ぎない。いわばお飾りだ。せいぜい面倒な事を押し付けて、死なない程度に放っておけばいい。」
ヴァンの侮蔑の表情に、なぜか不快感を覚えながらノールは思っていた。
(・・・あんまり侮るなよ。あんたが考えるよりあの坊主は上手かもしれないぜ?寝首を掻かれたって同情はしないがな。)
これ幸いにと面倒な報告書を手伝わせながら、ノールはアッシュを鍛え上げていった。
ぶっきら棒ながらがむしゃらに頑張っている子供に、初めは遠巻きだった団員達もだんだんと仲間を見る目つきになってきた。自分の得意分野を少年に教え込む奴まで出始めた。
初めは無表情だった少年もだんだんと表情が出始め、歳の近い奴らと笑い合っているのも見かけるようになった。
一年ほどで、少年は団長補佐が出来るまで実力をつけた。
特務師団の仕事は、いわば表に出す事の出来ない汚れ仕事だ。
教団にとって都合の悪い者の暗殺や預言に従わなかったものの粛清。情報を取る為に売春婦のふりをしてターゲットの寝台に侍る事もある。
特務師団員は、それぞれに特化した能力を持っていた。暗殺の得意な毒薬使いや狙撃手、美しい肢体を利用して情報を取るのが得意なもの、殲滅戦の得意な剣士、爆薬使い。
アッシュはそのどれもに非凡な能力を示した。嬉しい事ではなかったが。
皆に言えることは、それぞれやむにやまれぬ事情があり幸せな人生から遠ざけられてしまったという事だった。売られて来た者もいる、幼いころ誘拐された者も。犯罪を犯し、死罪の代わりにと特務師団に入れられた者もいた。
彼らが仲間と認めるのは、同じ特務師団の者たちだけだった。・・・まるで家族のように。
アッシュはここではじめて仲間と言える者達を持つことが出来た。
命じられるままに村を焼き、罪も無い者を虐殺して、歯を食いしばって黙祷した目を上げれば、自分と同じように赤い目をした仲間がそっと肩を抱いてくれた。
地獄のような生活を共にする、家族だった。
ズタズタに引き裂かれた服の残骸を返り血に染め上げ、足の間からは陵辱の証を滴らせたその姿は、痛々しく哀れで、そして誇り高く美しかった。
血塗れの抜き身の剣を下げ、真っ直ぐに顔を上げノールに歩み寄ってくる。師団員達は言葉も無くそれを眼で追った。
「首尾はどうだ。怪我人は居ないか。」
紅が口を開いた。それに夢から覚めたようにハッとしながら、ノールは答える。
「外部の敵も一人残らず殲滅した。お前が引き付けてくれたおかげで楽に潜入できた。・・・お前は、怪我してねぇか?」
「ふん、こんなモンは怪我の内に入らねぇよ。」
ボロボロの姿でそれでも他の団員を気遣い、傲慢に見えるほど誇り高く笑う子供に、特務師団員達は感嘆し、眼を放す事が出来なかった。
「帰還の号令を。特務師団長殿。」
ノールがスッ、とアッシュに跪礼を取った。次々にそれに倣う隊員達。戸惑うアッシュに向かい、ノールは微笑みかけた。
「お前は自分の力で、その生き様で俺達を従えた。誇れ!特務師団長殿。」
一瞬瞠目したアッシュは、ニヤッと笑うと腹に響くような声で号令をかけた。
「任務完了。これより帰還する!」
先頭を歩き出した子供に、ノールはそっとマントをかけた。
「何だ?ああ、みっともねぇか。」
「お前のその姿は、俺たちの誇りだ。ただ、何も知らねぇ他の奴らに見せたくないだけだ。」
ノールの言葉に他の団員達も笑って頷く。
「靴も無いんだろう?こういう時は団員を使え。俺たちはお前を守る為に居るんだ。」
晴れやかに笑いかけると、ノールはひょいっと片腕でアッシュを抱き上げた。
紅は、自分の力で特務師団を従えた。アッシュが15歳の時の事であった。
それからもヴァンにはお飾りの団長と思わせていたが、特務師団の全てはアッシュの号令の元に動いていた。
そう、アクゼリュスまでは。
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