IF アッシュが大爆発の真相を知っていたら。
レムの塔で アシュルク
大爆発を間近に控えたアッシュが瘴気中和する。
ルークがやると乖離して何もなくなるから、アッシュは自分の中にルークの記憶を残したかった。
という設定。大爆発捏造。
前半アシュルクラブ。後半ルークの記憶を見たアッシュが同行者を嫌って仲が悪い、という話。
最終的にはハッピーエンド。(アシュルク的に) シンク贔屓。
『ただ、あふれていた』
「俺がやる」
教会を出て行こうとしたアッシュに、ルークは駆け寄った。
「だめだアッシュ!レプリカの俺がやる。お前は生きて欲しいんだよ!」
アッシュは足を止めると、振り返った。
「これは俺の我侭だ。許せルーク」
名を呼ばれて、謝罪されて。
戸惑ったルークはアッシュを見つめた。
アッシュはじっとルークの目を見返し、言葉を搾り出した。
「俺がやっても、お前がやっても、消えるのはお前なんだ。・・・大爆発は、もう目前だ。俺の身体はもうもたない。あと数日で全て乖離してしまうだろう。そしてお前の身体を乗っ取って融合する。・・・お前は、記憶だけしか残らない」
その言葉の意味を理解したルークは、愕然としながら叫んだ。
「なら、大爆発の前に俺が消えれば良いじゃないか!」
「大爆発が不完全に終われば俺の体力は戻らないだろう。この弱りきった身体ではヴァンを倒す事などできず、無駄死にになる。・・・それに、ローレライを解放したらどっちにしろ死ぬ」
「でも!」
「おれは嫌だ。お前が何も残さず消えてしまうのは。・・・俺がやれば、お前は記憶だけは俺の中に残る。・・・・・・嫌か?ルーク」
ルークがはじめて見る、穏やかで哀しげなアッシュの眼差し。そっと頬にアッシュの指先が触れた。随分細くなってしまった指。肉の落ちた頤。
微かに繋がった回線から、悔しい、哀しい気持ちが伝わってくる。
(このひと月、ぼろぼろになりながら駆けずり回っていたけど、策は見つからなかった。
・・・もう、間に合わない)
ああ、自分は愛されていたんだ。俺の被験者、俺の半身に。
「・・・嫌じゃない。嬉しいよ、アッシュ」
見つめ合って指先を握り、微笑んだ。涙が頬を伝った。
レプリカであるルークは、レムの塔に登ることは許されなかった。
アッシュはルークに触れるだけの口付けをそっと落とすと、振り返らずに塔に登っていった。
ルークは遠くに塔を望む丘に立って、その時を待った。
やがて、塔から光が立ち昇る。
朱金の光が、優しく自分を包み込むのが嬉しかった。
そっと、両手を差し伸べて、幸せそうに微笑んだ。
アッシュは手の中の剣を高く差し上げると、力を解放した。
光が溢れ、周りのレプリカたちが一人、また一人と光になって消えていく。
それをジェイド達はじっと見守っていた。
ここまで女性陣は悲しみながらも諦め、ガイは納得できないとアッシュに食って掛かり、ジェイドは淡々と準備を進めていた。
数分間続いた光は渦を巻いて高く立ち昇り、光が消えた後には青空が現れた。
アッシュは差し上げた剣をゆっくり降ろした。
手から落ちた剣が、音を立てて滑って行く。
「アッシュ! 死ななかったのですね」
俯くアッシュにナタリアが駆け寄ろうとする。その足が止まった。
アッシュの目がふっと閉じられると、カクン、と膝が崩れる。
その身体から、朱金の光が舞い散った。まるで焔の翼を広げるように、光は拡散していく。
さらさらとこぼれる光は、寄り集まるように縺れるとどこかを目指して流れていった。
・・・あとには剣と、アッシュの服だけが残された。
一行は声も無くそれを見つめていた。
やがてジェイドが無表情に踵を返し、ガイがそれに続いた。『ルーク』の所に向かったのだ。
朱金の光に包まれたルークは、アッシュの記憶が流れ込んでくるのを感じとった。
過酷な実験に曝された少年時代。ヴァンを信じた事。ダアトでの辛い暮らし。自分への憎しみと執着、そして深い愛情。血を吐くような慟哭。
自分が曖昧になり、混ざっていく。どんどんアッシュの存在が大きくなっていく。
とても、嬉しかった。
(あいしてる、あいしてるあっしゅ、このきもちはいつまでものこるといいな)
朱金の光が全て消えたとき、其処には俯いた赤い髪の青年が立っていた。
青年は胸を押さえると、呟いた。
長くなった朱の髪がはらりと顔にかかる。
「ルーク、俺も忘れない。 ・・・・・・愛している」
『ルーク』と『アッシュ』の流した涙が、混ざり合って零れていった。
※多分、ここでお終いにした方が短編としてのまとまりがあります。
後編のがずっと長いのですが、アッシュが同行者を断罪する話になってしまうので・・・
(流血シーンはありません。ただ物凄く仲が悪い)
最終的にはルークが帰還しますが、そこまで読みたい方は続きをどうぞ。
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