アッシュとルーク、シリウスはベルケンドに来ていた。
コンタミネーションを起こしたかもしれないルークの検査をしに来たのだ。
ついでに3人とも健康診断をして貰う。
「ルーク様は確かに、膨大な量の第七音素が身体に内包していますね。シリウス殿は心配された瘴気も、ほとんど体から排出されています。アッシュ殿は、・・・僅かですが前のときより音素が乱れているようです。原因は分かりませんが、体力が無くなったと言う様な症状はありませんか?」
「いや、特には・・・少し疲れやすくなったか?」
心配そうに擦り寄ってきたルークの頭を一つ叩く。
「てめぇは、人の心配してる暇があんなら、さっさと『それ』を身体から出せるようにしやがれ! 大方てめぇに引きずられたかなんかだろう。・・・心配いらねぇよ」
バチカルに戻ったルークは、シリウスにつききりでフォニムのコントロールを教えられた。(もちろん他の勉強も続けている)2週間をかけ、ついに宝珠が姿を現した。
「やっ・・・たぁ~!! ついに出来たぁ! あ、アッシュ、見てくれよ。こんなの出てきたぜ!」
宝珠を振り回しながら通りがかったアッシュに飛びついていく。
「あぶねえ、離れろ! ・・・多分それがローレライの宝珠だ。俺の方に来た剣とくっつけるとローレライの鍵になるらしい」
アッシュはこの2週間、ダアトやマルクトに連絡を取って、ローレライの鍵のことや世界に異常が起きていないかなどを調べていた。
その中には、アブソーブゲートに残されていたヴァンの剣が無くなっていると言う気になる情報もあった。残りの六神将の消息も不明だ。
・・・何かが起こりそうな嫌な予感がしていた。
ダアトで、数名の信者失踪事件が立て続けに起こり、警戒を強めていた矢先の事だった。
朝食を揃って取っていたファブレ邸の食堂に、一人の白光騎士が駆け込んできた。
「報告します! ダアトにて預言保守派のモースが、賛同する者と新生ローレライ教団を立ち上げ、導師イオンを拉致したもようです。その中に、元六神将のラルゴ、リグレットの姿を見た者もいます」
「なんだと!」
「父上、母上、すぐに行ってまいります」
「気をつけてね、アッシュ、ルゥ」
食堂を飛び出した二人は、シリウスとシンク、アリエッタを連れてダアトに急行した。
アルビオールはキムラスカが和平のしるしにマルクトに貸し出していたので、各首都に一台づつ常在していたのだ。
マルクトからは、アスランとジェイドがきていた。
ダアトは混乱に包まれていた。モースは教団の奥に立てこもり、周りをヴァンに付いて行った兵が固めている。その中に、うつろな表情で歩き回る者達がいた。数名はここ数日の間に急死した人物と同じ顔をしていた。
「モースはヴァンの一味と組んで、レプリカを作っているのか? 何故そんな事を」
トリトハイムが来て、説明を始めた。
「預言が無くなる事に不安を抱いたものが、モース達に協力したのです。モースは新生ローレライ教団を名乗り、ダアトの奥にイオン様を監禁しています。 ・・・ザレッホ火山の奥には、第七譜石があるのです。惑星預言など詠んだら、イオン様の御身体は・・・!」
ふらつくトリトハイムの身体を支えながら、ルークが叫んだ。
「火口の上から入れないか、やってみよう! アリエッタ、お友達借りていいかな」
「良い考えだ。シンク、アリエッタ、シリウス、行くぞ。アスランは混乱を収めてくれ」
5人はグリフォンに乗り、火口から第七譜石を目指した。
どこまでも灼熱地獄が続いている。
景色が揺らめくほどの高温に曝されながら、こんな所で僕の兄弟達は殺されたのか、とイオンは妙な感慨に耽っていた。
ふらつくイオンの手を取り、前へ進む者がいる。アニスだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、イオン様。こうしないとパパやママが!」
涙ながらに話す声は、もうほとんど意味を成さない。
ただ静かな諦観の中にイオンは居た。
「知っていました、アニス。もういいんです。ここで僕の兄弟は火口に落とされました。兄弟達の所にいけるなら、いいんです」
小声で呟いた言葉を聞き取ったアニスが立ち竦む。
舌打ちしたモースがアニスの手からイオンをもぎ放し、第七譜石の前に連れて行った。
「さあ! 預言を詠むのだ。お前はそのために作ったのだからな!」
イオンが譜石に手を向けたその時、上空から何かが降ってきた。
モースを蹴り飛ばし、イオンを支える。
「なに大人しく言いなりになってんのさ! 楽しい事をいっしょに探すっていったのは誰だよ!」
「イオンさま!」
「あ・・・シンク、アリエッタ。 ・・・・・・ごめんなさい、僕は、人形のまま死のうとした・・・!」
目に映る二人の顔に、イオンは涙がこぼれた。
「モース、許しません!」
アリエッタがオーバーリミッツで向かっていく。
シンクからイオンを受け取ったシリウスが、回復をかけながらいい笑顔でGOサインを出すと、指を鳴らしながらシンクは駆け出していった。
「うわっ、何こいつ。化けやがった!」
2、3発殴ったとき、急にモースの身体がボコボコと膨らみ始め、瞬く間に化け物のような姿になってしまったのだ。
「ふーん・・・じゃぁ、遠慮はいらないね!」
「叩きのめす、です」
より闘志をかきたてられた二人が、タコ殴りにすべく向って行った。
「なんか・・・手助けいらない感じ?」
「邪魔すんなってか? 俺もあいつにゃ恨みがあんだよ。オイ、参加させろ!」
アッシュが嬉々として飛び込んでいった。
唖然とするルークに声がかかる。回復したイオンを渡しながら、シリウスは言った。
「俺もあの糸目狸野郎に一発食らわせたいんだけど、いいかな?」
「・・・・・・がんばってね」
アカシック・トーメント、ビッグバン、絞牙鳴衝斬、イノセントシャイン!
秘奥義を叫ぶ声がこだまする。
モースの成れの果てがどんな目に遭ったのかは、ちょっと言いたくない。
「イオン、大丈夫か?」
「ルゥ・・・ありがとうございます」
辺りが静かになると、いい笑顔の四人が戻ってきた。ハイタッチをかましている。
「さあ、帰ろうよイオン。こんなとこにいつまでも居ないでさ」
「はい!」
グリフォンに乗り込んだ六人に、声がかかった。
「あ・・・あたし・・・イオン様・・・パパとママが・・・」
真っ青で震えていたアニスが、ふらふらと近づいてくる。
「モースのスパイが今さら何の用? 裏切り者」
イオンと相乗りしたシンクが威嚇する。イオンが悲しそうに目を逸らした。
「さっさと戻れば? 終点には兵がいるだろうけど。あ、今の時間は溶岩で通れないかもね」
「い・・・嫌ぁ、置いていかないで!」
恐怖に駆られたアニスが叫び、飛び立とうとする一行に縋り付いて来る。
アリエッタのグリフォンがアニスの手を掴み、吊り上げた。悲鳴が上がる。
「動くと落ちる、です」
蒼白なアニスにグリフォンを寄せると、シリウスは囁いた。
「守るべき主より大切なもののある奴が、守護役なんて名乗るな」
アニスは深く後悔し、自分の行いに絶望した。
教会前にトリトハイムが待っていた。イオンを見て、安堵に胸を撫で下ろす。
「モースは・・・預言は詠まれたのですか?」
「いえ、すんでのところを助けられました。モースは化け物のような姿に変わり、彼らに倒されました」
その言葉に、見守っていた信者達がざわめく。
奥に立てこもっていた兵士達も、モースが導師を殺そうと謀り、化け物になって倒されたと聞くと、戸惑いながら出てきた。
イオンは兵士達に問いかける。
「預言は絶対な物ではない。強い意志があれば変えられるのです。もう預言は外れてしまったのですよ。これからどんどん預言の未来とは離れていくのにいつまで預言にしがみ付いているのです」
それを聞き顔を見合わせた兵士達は、俯きながら武装解除を始めた。
「トリトハイム師、導師が落ち着くまでは当家でお預かり致しましょうか。良い医師もいます」
しばらく躊躇ったトリトハイムは、やがてアッシュの言葉に頷いた。
「宜しくお願いいたします。指示を仰ぎたいときは伝令を飛ばします」
「アリエッタのお友達通信をおいておくよ」
アニスをトリトハイムに引き渡すと、一行はバチカルに戻っていった。
スパイ活動と導師誘拐の罪で、両親共々教団を追放になったアニスは服役する事になった。
ふと気付けば、ファブレ邸はすごい事になっていた。
歳若い同居人が増えて、かつて無いほど活気に溢れている。
シュザンヌは嬉しそうで、以前より元気になってきたし、息子馬鹿(最近囁かれている)のクリムゾンは口喧嘩しながらも楽しそうな息子達にご満悦だ。
中庭でお茶をする面子に(ファブレ邸だけで世界が牛耳れそうだ)と思った事は警備の白光騎士の秘密だ。
体力の回復してきたイオンを交えてお茶をしていた一同は、シリウスの言葉に耳を疑った。
「ローレライの宝珠で、ユリアの最後の預言読めないかな?」
「んなこと出来んのかよ?」
「いや、これも譜石みたいなもんだろうしさ」
驚くルークに宝珠を出してもらうと(コンタミネーションで保管していた)じっと見詰め、額に押し当てる。
「ん~ ・・・この間触った時、なんか伝わってくる気がしてたんだ」
「僕に持たせてください」
「イオン様、危ない、です」
手を出すイオンをアリエッタが止める。
「大丈夫です。危険なようならすぐ止めますから」
宝珠に触れると、イオンは瞠目した。ユリアの声が、クリアに伝わってきたからだ。
差し出していたシリウスにも流れているようで、驚愕している顔が見える。
現象に対しての驚きが一段落すると、今度は内容に驚愕する。
「なっ・・・これは!」
「イオン様、どうしたですか」
イオンはシリウスと目を見交わし、今視た内容を話しだした。
「・・・・・これが、オールドラントの最後である・・・」
「消滅預言・・・?」
静まり返った中で誰かが呟いた。
このことは、各国のトップにのみ、内々に伝えられる事になった。
閑話 パパの好きな煮込み料理 15話と16話の間辺りです
その日ルークは、中庭で午前中の勉強していた。
シリウスの出した問題をうんうん唸りながら解いていると、珍しくクリムゾンがやって来た。
「父上! 珍しいですね、こんな時間にどうしたんですか?」
「うむ、今日は休みなのだ」
そう言ったきり、逡巡しているクリムゾンに、シリウスが助け舟を出す。
「お茶でもいかがですか?」
「いや、茶はいい・・・・・・シリウス、『アレ』を作ってくれんか」
「ああ、『アレ』ですか。では遅めの昼食にお出ししましょう。 ・・・約束は覚えていらっしゃいますか?」
「解っておる」
会話の意味が解らず、頭をひねっているルークに笑いかけるとシリウスは言った。
「勉強はおしまいです。クリムゾン様が剣の稽古を見て下さるそうですよ」
「ええっ、父上が? やった! ・・・でも何で?」
「それは後のお楽しみです」
クリムゾンとルークが剣を合わせているところに、ちょうどやって来たアッシュも加えて三人で代わる代わる剣を交える。警護の騎士たちが、微笑ましそうに見ていた。
2、3時間もやっていると、さすがにばててくる。
「はぁ、疲れた~けど楽しかった!」
座り込むルーク。アッシュも息を吐きながらこころなしか楽しそうだ。
「いきなりどうしたのですか? 父上」
「うむ。いや・・・あれの煮込み料理が、たまに無性に食べたくなってな」
「シリウスの?」
「ああ。だが、腹が減っている時にこそ美味く感じるのだと言って、身体を動かさないと食わせてくれんのだ」
憮然とした父の顔を見て、思わず吹き出すルークに必死で堪えるアッシュ。
「昔、ホド戦に行った時の事だ・・・」
クリムゾンは語り始めた。
.
「初めに言っておきます。俺は慰安兵じゃ有りません。ちょっかい出されたら反撃しますから、その事で兵士が怪我をしても責任は取れません。それでいいですか?」
ホド戦は膠着状態に陥っていた。あちこちで小競り合いは有るが決定打に欠け、ファブレ公爵は長期に戦場に足止めされていた。
そんな中、料理人が急病になってしまった。
別に美味い物を食べたいというわけではなかったが、食事を作ることに兵を割くのが勿体無かったのだ。あいにく、料理の得意な者は別の戦場に出てしまっている。
胃を膨らませるだけのブウサギの餌の様な食事にクリムゾンは頭を抱えた。
・・・これでは兵の士気が下がる!
そこでふと思い出した。
数週間前に雇った傭兵部隊では、いつも美味そうな匂いがしていた。
貸し出せる者がいるか聞いてみよう。
そしてやって来たのが、前述の言葉を放った10歳ばかりの少年だった。
まだ幼いが、しなやかに成長している肢体に、整った顔立ち。
少年兵を慰安に使う事は戦場では良くある事だった。それを好んでいる者もいる。
にやにやと値踏みするように眺めてくる男たちに、少年は言い放った。
「俺は『氷華』と『双牙』の息子、シリウス。侮辱するなら手足の1、2本は覚悟してください」
そして2日目にしてそれを証明して見せた。
ボコボコにされた数名の兵士の中に立っていた少年には傷一つ無かった。そしてヒールを唱えると何事も無かったように調理場に戻っていった。
料理は美味かった。百数十名もの食事を鼻歌交じりに作っていく。
少年にちょっかいを出す者はほとんど居なくなった。
ある日の事だ。補給が遅れ、食材が足りなくなった。
そこで少年は、普段は捨てていた家畜の内臓を煮込み料理にした。
「こんなものが食えるか!」
ガシャンと壊れる音と罵声が響いて、クリムゾンは表に出て行った。
配られた食事を手に、困惑する者や怒る者、その中で少年は平然と配膳をしていた。
クリムゾンにも皿に入った煮込みが手渡される。
「これはいつも俺たちが食べているものだ。味には自信がある」
得体の知れないそれを、クリムゾンは一口含んだ。
「・・・・・・美味い」
それを聞いて、固唾を呑んで見守っていた兵士達が、それぞれ食事を口に運び始めた。
「あ、美味い」
「見た目よりあっさりした味付けだが、コクがあって美味いな」
皿を投げ出した兵士は、気まずそうに去っていこうとした。そこに新しい皿が差し出される。
「戦うときに腹が減って動けないようでは、兵士失格だ。食べ物が有る時に食べておいてよ」
ぐっと詰まった兵がしぶしぶ皿を受け取る。
それを口に運び、眼を見張った兵士は小声で少年に謝罪した。
「悪かった・・・」
少年は肩を竦め、笑って去って行った。
クリムゾンは、感嘆してそれを見ていた。
そしてそれから、少年とよく話すようになったのだった。
「・・・という事があってな」
珍しく饒舌なクリムゾンの話を興味深そうに聞いていた二人は、かけられた声にびくりとなった。
「サボっているなら、食事は後にしましょうか」
「い・・・いや、つい先程まで激しく稽古していたのだ」
「そうそう! もう、すっげぇお腹空いたよ!」
「・・・ああ」
確かに、とろりとした煮込み料理はとても美味しかった。
晩餐は和やかな雰囲気で行われた。
昔から屋敷に使える者達は、痛々しいほど頑張っていたあの小さな子供が立派に成長して帰ってきたことに喜び、傍若無人だったルークが素直な笑顔で礼を言うのに驚いた。
レプリカに対して偏見を持っていた者たちも、降下作戦を共にした騎士たちが話すルーク達のことを聞いて偏見を捨てていった。
二人の居室は、元のルークの部屋があった離れを改装して、対象の間取りの部屋が並んだ状態になっていた。
二つの部屋の中央には応接間があり、奥に小さなキッチンと護衛(シリウス)の為の寝室があった。
二つの部屋は応接間を介して繋がっている。
降下作戦時にクリムゾンにアッシュのことを聞いたシュザンヌが、希望を込めて改装したのだ。
役に立ってよかったわ、と嬉しそうなシュザンヌに、二人は気恥ずかしそうに部屋に足を踏み入れた。
「あ、シリウスの部屋もある」
「うん、これは俺にお茶を入れろといっているのかな?」
「茶請けも作れと言ってるに違いないよ、きっと」
ちゃっかりねだるルークの頭を苦笑したシリウスが一つ撫でた。
「ははは・・・でも君たち、どうせどっちかの部屋でくっついて寝るんだから、2つも部屋は要らなかったんじゃないの?」
「何言ってんだ!子守はうんざりだ」
「えーアッシュ一緒に寝ようよ~」
「・・・・・・時々な」
笑ってソファーに座り込んだルークが、不意に黙り込んだ。しゅんとして項垂れてしまう。
「・・・父上、余り嬉しそうじゃなかった。俺、ここに居ていいのかな・・・」
「まだそんな事言ってやがるのか」
シリウスが苦笑する。
「十分嬉しそうだったじゃないか。むしろ、これ以上無いって位だったよ?」
「ええ~?」
「あの方は、目と耳で語る人だからねぇ」
「目は解るが、耳ってなぁなんだよ」
アッシュも怪訝そうに口を挟んだ。
「照れてるときは、耳の先がちょっと赤くなるんだ。嬉しいときは目尻がすこーし下がる」
「すっげぇシリウス! 俺全然わかんなかった。今度じっくり見てみよっと!」
「伊達に白光騎士団副団長はしてないぜ」
3人で笑っている所に、ノックの音が響いた。シリウスがドアを開くと、クリムゾンがワインボトルを手に立っていた。・・・物凄く気まずい。
「ち・・・父上。はは・・・(あ、確かに耳がちょっと赤い!)」
「ど、どうぞ。(・・・聞こえてたか?あ、髪で耳を隠しやがった。)」
「う・・・うむ」
ワインボトルを一礼して受け取ると、シリウスは静かに下がりグラスの準備を始めた。(逃げたとも言う)
ソファーに腰掛け、しばし無言の時間が流れる。
シリウスが三人のグラスにワインを注ぎ、壁際に下がった。
「・・・・・・お前達と、話したいと思ってな。来てみたが、不調法で言葉も浮かばん。すまんな」
「い、いえ」
グラスを開けると、クリムゾンは何かを思い出すようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「シュザンヌはな、子は無理だと言われていた。それが息子を授かり、その小さな体を抱いたとき、この世にこれほどの幸せがあるのかと思った。 ・・・それはすぐ絶望に変わった。預言でキムラスカの贄になる児だと告げられたのだ」
そっと注がれたワインを手に、続ける。
「私は怖かったのだ。・・・キムラスカを、預言を憎んでしまいそうな自分が。いつか死を命じなければならない息子に憎まれるのが。それが私の足をお前達から遠ざけた。・・・・・・無様であろう」
「父上・・・」
「謝罪は世界の為に命をかけたお前達への侮辱となろう。年寄りの懺悔とでも思ってくれれば良い。・・・長居したな。明日は二人とも城に呼ばれている。ゆっくりと休め」
そう言って席を立つクリムゾンにルークは抱きついた。
「ちちうえ・・・!」
自分の胸元を濡らす息子をそっと抱きしめる。近づいてきたアッシュの頭をそっと撫でる。
「ずっと、こうしたいと思っていた。・・・・・・私にはそんな資格などないと思っていたがな。大きくなったな、『ルーク』よ」
アッシュが俯く。涙が一筋流れた。
クリムゾンが退室した後には、目を赤くした赤毛たちが残された。
クリムゾンを見送ったシリウスが2人の頭をくしゃくしゃとかき回す。
「不器用な人だって言ったろ?・・・良かったね」
風呂に追いやられて、着替えさせられた赤毛たちは、その晩寄り添って眠りに着いた。
翌日、2人に登城が命ぜられた。
正装し、そろって優雅に膝を突く朱と紅の堂々とした姿に、周囲の貴族達は感嘆の溜息をついた。
インゴベルトは2人への子爵位の授与とアッシュの王位継承権の復帰を伝えたが、アッシュがそれに難色を示した。
「私は、七年間オラクルの特務師団長、六神将のアッシュとして働いてきました。それを無かった事にはしたくありません。鮮血の二つ名を付けられるほど、裏の汚れ仕事をしてきたのです。そのような者が、キムラスカの王位継承権を持つなど、あってはならない事です。他国にも、自国の民にも侮られましょう。ナタリア王女との婚約も正式に破棄させていただきたい。私は王女には相応しく有りませんので」
その言葉に、インゴベルトの脇に控えていたナタリアが思わず口を挟んだ。
「まあ、何を言いますのアッシュ。あなた以外に誰が私に相応しいと言いますの」
公式の場での無許可の発言に、周りがざわめく。インゴベルトは眉を顰めてナタリアに問うた。
「しかし、ルークはどうなのだ? 七年間婚約者であっただろう」
ナタリアはきょとんとした顔で、答えを返した。
「え・・・? ルークはレプリカではありませんか」
謁見の間にいた一同は、その言葉に硬直した。国王がルークを認め、爵位を与えたにもかかわらず、王女が侮辱するなど有り得ない。
ルークが哀しそうに目を伏せ、アッシュの目に怒りが灯った。
そこで一同は、アッシュが婚約を破棄した本当の理由に気が付いたのだった。
インゴベルト王の大きな溜息が謁見の間に響く。
そこに、クリムゾンが進み出てきた。跪礼を取り、発言を求める。そして話し始めた。
「恐れながら、陛下。聖なる焔の光はアクゼリュスで役目を終えたのです。ここにいるのはアッシュとルーシェルです。どうか、我が息子達の願いを聞き届けてやっては下さいませんか」
子息が王位継承権も婚約者の座も放棄する、という事に賛同する公爵に、貴族達は驚愕した。
「・・・そうだな。大地の降下をやり遂げ、民を救ってくれた英雄の言葉、聞かん訳にはいかんな。しかし子爵位だけは受け取ってくれんか。感謝の気持ちだ」
「解りました。お受け致します」
一同は謁見を終え、クリムゾンとアッシュ、ルークは帰路に着いた。
応接間に入ったとたん、憮然としていたアッシュが口を開いた。
「大体『ルーク』は17で死ぬと解っていたのですから、後継者くらい用意しているはずです」
「まあ、そう言うな。いるにはいるのだが、赤毛でないのだ。ちと血が遠くてな」
「父上、外に子でも居ないのですか?」
アッシュのあけすけな言葉に、クリムゾンは微妙な表情になり、ごほんと一つ咳払いをした。
「紅毛緑眼で子を成せるのは、わしだけだからな。王家の血を絶やしたくない輩に、それはもう沢山の女を送り込まれた・・・シュザンヌには内緒だぞ。 だがな、わしは子を贄とする様な罪深い家などわしの代で絶えてしまえばいいと思ったのだ。けして子は作らなかった」
クリムゾンは二人を見ると、珍しく微笑を浮かべた。
「ファブレの名など継いでも継がなくても良い。お前達が我が子である、それだけで良いのだ。
強制はしない。お前達のしたいようにしなさい」
アッシュは表情を和らげると、頭を下げた。
「父上・・・ありがとうございます」
ずっと無言で二人の会話を聞いていたルークが突然口を開いた。
「父上・・・どうやって子を作るんですか?」
「・・・・!」
「・・・・・・・・・」
固まって冷や汗を垂らすクリムゾンが、やがて言葉を搾り出した。
「あーーー・・・。それは、・・・・・・アッシュに聞きなさい」
「!っ父上! 俺に振らないで下さい!」
「兄として、しっかり教育するのだぞ。さて私は用事がっ!」
クリムゾンの撤退は素早かった。敵前逃亡とも言うかも知れない。
キムラスカの盾も、7歳児には勝てなかったようだ。
数日間ゆっくりして身体を休めていた所に、シンクとアリエッタが訪ねて来た。
ダアトでの処分が決定されたのだ。
無罪放免というわけにはいかず、二人は地位剥奪とオラクルからの追放を言い渡された。
つまりは自由になって良いという事だ。(イオンは泣いて引き止めたが。)
「あんた達のお節介が原因なんだから、面倒見てよね」
「お願いする、です」
溜息をついたアッシュはファブレ公と相談し、二人を護衛兼使用人として雇い入れた。
随分と態度のでかい使用人だったが、実力はお墨付きである。
シンクはすぐにアッシュの参謀として実力を発揮し始めたし、アリエッタのお友達は、白光騎士団に重宝された。
初め怯えていた騎士団の面々は、グリフォンやフレスベルグに乗って移動する事を(アッシュに無理やりに)叩き込まれ、その移動速度に目を見張った。なんせ、伝令の鳩より早いのだ。おまけに鷹などにやられる事もなく、直接騎士が文書を渡せその場で返事が聞ける。
『お友達通信』はすぐに無くてはならないものになった。
アリエッタ自身は、女の子が欲しかったシュザンヌに可愛がられ、恥ずかしそうに懐いていた。
※パパは赤毛が幸せなら何でもいいやと思ってる(笑)
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