ラジエイトゲートとアブソーブゲートはセルパーティクルの起点と終点に当たり、起点を操作したらすぐ終点を操作するのが望ましかった。ゆえにアッシュとルークは別行動する必要がある。
問題は戦力だった。アッシュとシリウスは頭を悩ませる。
「多分、アブソーブゲートにヴァンの野郎は居ると思う。そこで最終決戦になるはずだ」
「そうだな・・・ヴァンが居るなら、俺が行きたい所なんだけど。アクゼリュスの礼もしたいしね」
「それはそうだが、ルゥにまだ暗示が残ってないとも限らない・・・お前にはルゥを守って欲しい」
「うん、それはもちろん。しかしそっちの戦力が・・・」
「兄さんは、私が止めるわ!」
ティアが思いつめたように口を挟んだ。シリウスはじっとティアを見詰める。
「実の兄を殺せるかい? 彼はもう、止まらないよ」
「殺せるわ!」
しばらく考え込む一同に、シリウスが提案した。
「解った。じゃあ、俺とルゥ、それにアリエッタでラジエイトゲートに行こう。あそこは短いから何とかなるだろう。アリエッタをヴァンに会わせるのは可哀想だ。 ・・・アリエッタ、手伝ってくれるかい?」
「解りました、です」
「あとは人海戦術だ、これだけ居れば何とかなるだろう。一つ言っておくけど、必ずヴァンに止めを刺してくれ」
「解っている」
アッシュが頷いた。
外殻大地降下作戦は、大詰めに差しかかっていた。
アブソーブゲートは長大なダンジョンを誇る。しかし一行は、確実に最深部へと距離を詰めていった。
そしてパッセージリングが姿を現したその場所に、ヴァンは居た。
「やはりお前が来たか、アッシュ。今一度言う、私と来い」
「断る! てめぇのやり方には、ついていけねぇ!」
「メシュティアリカ、預言などに頼った人類には、未来など無いと何故わからん」
「兄さんもう止めて!」
「ヴァン! ここでてめぇを倒す!」
死闘は激しかった。ヴァンは強大な力を持ち、皆を圧倒した。
「ちっ、腐っても主席総長だね!」
シンクが切られた頬を拭いながら吐き捨てる。
「前衛!波状攻撃をかけろ! ヴァンに奥義を使わせるな!」
アッシュの指示にアスラン、ジョゼット、ガイがヴァンを囲み、ナタリアが弓を射る。剣戟の中、シンクが飛び込みアカシック・トーメントが炸裂した。間をおかずジェイドのミスティック・ケージがヴァンを捉える。堪らずよろめいたヴァンにアッシュが絞牙鳴衝斬を放った。
「う・・・ぐっ・・・ここまでか・・・・」
瀕死のヴァンがふらつきながら一歩、二歩とパッセージリングの端に近づいてゆく。
アッシュが止めを刺そうと飛び出したとき、ティアがアッシュの腕を掴んで引き止めた。
「待って! 兄さんにもう戦う力は残っていないわ!」
「は・・・放せ!」
シンクやアスランがヴァンに向かおうとしたその時、ヴァンは地核に落ちていった。
「何故止めた! 止めを刺せと言われていただろう!」
座り込んだティアにアッシュは怒鳴りつけた。
「もう勝負はついていたじゃない!それに地核に落ちて生きているはず無いわ・・・」
「アッシュ、ティアの気持ちもわかってやれよ」
「そうですわ、言いすぎです。ヴァン謡将は地核に落ちて死んだのですから、よろしいではありませんの」
泣き出したティアを、ガイやナタリアが口々に慰める。
アスランやシンクたち、正規の軍人は、その言葉に眉を顰めた。敵の生死の確認は最も初歩的なことだったからだ。
「ちっ、しょうがねぇ。今は大地を降下させることが先だ。ティア、ユリア式封咒を解け」
「アッシュ、女の子を少しは労わったらどうだい」
「ガイは黙ってろ!時間がねぇんだよ」
アッシュはラジエイトゲートに到達していたルークに連絡を入れた。
(アッシュ! こっちは書き換えがすんでる。そっちは大丈夫だった?)
(ヴァンは倒したが、止めをさす前に地核に落ちやがった。あのクソ女・・・!)
(そうか・・・ヴァン師匠・・・)
(今は大地の降下だ。同調させろ。・・・行くぞ!)
大地の両極で、アッシュとルークの両手から光が迸った。
各地のパッセージリングは同調しながら支えあい、ゆっくりと降下していった。
「や・・・やったのか・・・」
振動が止み、アッシュとルークが同時に倒れこんだ。
あわてて回りの者が、抱え起こす。
(アッシュ! やったな!)
(ああ、終わったな。・・・お前はバチカルに戻って陛下に報告しろ。こっちはグランコクマに寄ってからそっちに向かう)
(わかった。早く会いたいな)
(・・・・・・・・・切るぞ)
「・・・燃え滓。なんか顔赤いんだけど。脳内ラブコールもいい加減にしてよね」
「う・・・うるせぇ!」
帰ろうと身を返した瞬間、強い頭痛がアッシュを襲った。
(我は・・・レライ・・・栄光を・・か・者が・・・我を・・・・しようと・・・ている・・・・・・焔よ・・・ライの宝珠と・・・を送る。我を開放し・・・くれ)
「くっ・・・これは、ローレライか・・・?」
膝を突いたアッシュの手に光が集まり、一本の剣が残された。
同じ頃、頭痛に座り込んだルークの手が光り、光はルークの身体に吸い込まれていった。
心配したクリフォトの瘴気も、うまくディバイングラインが大地の下に押し込め、オールドラントは平和を取り戻した。
戦いを共にした者達は、それぞれの国へと戻っていった。
アリエッタとシンクは裁かれる為にダアトに護送されたが、ヴァンに離反した事と降下作戦に協力した功績でたいした罪にはならないだろうという事だった。
両国に報告を済ませた二人はファブレ邸に戻っていた。もちろんシリウスも共にいる。
アッシュはためらったが、ルークに引っ張っていかれたのだ。
ファブレ邸の応接室で3人は話している。
「あの声、お前にも聞こえたか?」
「余り良く聞き取れなかった。なんか送るから、開放してくれって言ってた?」
「あの声はローレライだと思うんだが、あの声と共に、この剣が現れた。お前もなんか受け取ったか?」
「何か光ったんだけど、何も持ってなかった」
「ルゥの中に光が吸い込まれたように見えたよ。もしかしてコンタミネーションが起きてしまったかな?」
「コンタミ・・・ってジェイドの槍? ・・・・・・また俺、失敗しちゃったのかなぁ」
落ち込むルークをシリウスは苦笑して慰めた。
「まあ、失くしたわけじゃないし。受け取りすぎただけだろう? あとで見てみよう」
「ローレライが何かあって開放しろといってる、って事か。栄光の何とかってのは何なんだろうな」
「うーん・・・ヴァンデスデルカは『栄光をつかむ者』って意味だけどね・・・そういえば、ヴァンには止めを刺したかい?」
「・・・・・・すまん。ティアに邪魔されて、地核に落ちてしまった。瀕死だったんだが、止めは刺してない」
並んで落ち込んでいる赤毛たちに、シリウスは苦笑した。
「まあ、なんにせよお疲れ様。良かったよ無事で。ここで落ち込んでも仕方ない。少し事態が動かないと何も解らないし、気を抜かないようにしようよ」
「そうだな」
「うん」
そこにファブレ夫妻が入ってきた。
立ち上がって両親を迎える二人に、シュザンヌが近寄ってくる。
その頬には涙の筋が見えた。
「ルーク・・・! 良くぞ無事に帰ってきてくれました。そしてルーク、あなたは7年前に居なくなったルークなのですね。ひどい親だと思った事でしょう。許してちょうだい・・・」
二人を抱きしめて泣き崩れるシュザンヌにアッシュはそっと言葉をかけた。
「母上、私の母は母上だけです。 ・・・しかし私はもうルークではありません。アッシュと名乗っております。どうかアッシュとお呼び下さい」
「母上。父上も聞いてください。俺はアッシュから作られたレプリカです。アクゼリュスを落とした大罪人でもあります。俺はここから出て行ってもいいから、どうかアッシュを・・・!」
「なにいってやが「何を言うのです! 七年間共に過ごした、あなたも私達の大切な息子です。二人とも・・・よく戻ってきてくれました」
二人を抱きしめるシュザンヌに、黙って頷くクリムゾンの目は優しかった。
「父上、母上、それなら俺の事はルーシェルと呼んでくれませんか?」
「まあ、どうしてです」
「アッシュが付けてくれました。俺たちは、二人合わせて『ルーク』なんです! アッシュはルゥって呼んでくれます」
誇らしげなルークの笑顔にシュザンヌとクリムゾンは顔を見合わせたあと、微笑んだ。
「ルゥ、アッシュ、お帰りなさい」
「正式な事は後ほど決める事にしよう。 ・・・よく戻ったな、二人とも。ゆっくり休むがいい」
クリムゾンは、壁際に控えているシリウスに目をやると僅かに目礼した。そして登城するために部屋を後にした。
「アッシューお疲れ! 何処行ってたんだ? そっちのが早かったのに、アッシュだけ居ないから心配した」
ここはケテルブルクホテルのラウンジだ。そわそわしていたルークが正面玄関から入ってきた雪まみれのアッシュに飛びついて行った。
メジオラ高原からたどり着いたばかりのルークは、アッシュの不在を知って心配していたのだ。
「ああ、お前達のが時間がかかるのは解ってたから、ちょっとロニール雪山の様子見てきた」
「ええ~ 危ないから一人で行くなよ」
苦笑したアッシュはルークの頭を軽く叩く。
「入り口を見てきただけだ。・・・ダアト式封咒は残されていたが、途中で壁が崩れていて、何とか入れそうだぞ」
「そっか、じゃあイオンをあんな寒いとこに連れて行かなくてすむね」
「そうだな」
一同は、しばらく身体を休める事にした。極暑から極寒に来た為、身体を慣らす必要があったのだ。
ピオニー陛下が感謝の気持ちと言ってケテルブルクホテルとスパを無料にしてくれた為、一行は費用を気にすることなく短い休暇を楽しんだ。
アッシュがスパに入っていると、シリウスとルークが寄ってきた。
「・・・なんだ」
胡乱な目で見るアッシュに、ルークは満面の笑みで答えた。
「お疲れ様のアッシュに、精一杯サービスしまーす。行くぞ、シリウス!」
「アイアイサー」
アッシュはじたばたしていたが、やがて諦めた。優しく触れてくる手が存外に気持ち良かった所為もある。
髪を洗われ、首や肩をマッサージされ、力が抜ける。
ぶふっと吹き出しながら、イオンとシンクがそれを見ていた。彼らも少し歩み寄ったようだった。
イオンが楽しそうにシンクを振り返る。
「シンク、僕はシリウスの言葉のなかで、忘れられない一言があるんです」
「へえ、奇遇だね、僕もさ」
「・・・・・・」
「・・・・・・せーの」
「「陰毛髭!」」
ぶわっははは! と笑い声があたりに響き渡った。
実は、笑いのツボは似ている二人だった。
スパ上がりに冷たい物を飲んでいるルークのところに、ガイが笑顔でやって来た。
「久しぶりだなールーク。ずっとお前に謝りたかったんだけど、陛下が来させてくれなくてさ。
俺があんな育て方したから、お前は我侭で人の話しを聞かなくなっちまったんだし。今までほっといてごめんな。正直まだわだかまりは有るけど、お前はファブレ家の人間じゃなかったんだし、これからも親友として・・・」
「ガイ! 父上は俺を息子と呼んでくれた。・・・ガイはやっぱり、俺がレプリカだから、って思ってるんだな。俺はガイを親友って思ってた。けど、そう思ってたのは、俺だけだったんだな」
「ル・・・ルーク!」
唇を噛んで涙ぐむルークを、シリウスがそっと促し、二人は立ち去っていった。
「てめぇはホントの馬鹿だな」
冷たい視線をくれてアッシュが後を追う。
残されたガイは、嘲笑の言葉に振り返った。
「あんたさぁ、レプリカを自分の好きに出来る人形とでも思ってんの? 自分が育てたから好きにして良い? ふざけないでよ。あんたが一番ルゥを理解してないんじゃないか」
シンクの言葉に、青ざめたガイは長い事その場に立ち竦んでいた。
ロニール雪山には、イオンとアニス、ナタリア以外の全員で向かう事になった。
ぶっちゃけメンバー割が面倒になったのだ。(アッシュが)
イオンは極寒の地に連れて行くのは無理なので、涙ながらに謝ったアニスがイオンを守る事になった。(もちろん兵士も残してあるが)ナタリアは風邪を引いていたので同行を拒否した。
アッシュとシンク、アスランで前衛、その後をルークとジョゼットで守りシリウスとジェイドが中衛、ガイが荷物持ちで最後尾にティアという順番で進んでいった。
ロニール雪山に入ってすぐ、六神将の襲撃があった。ラルゴ、リグレット、アリエッタが張っていたのだ。
リグレットはシンクに目を留めると顔を顰めた。
「シンク、何故そこにいる」
「僕はもうあの髭の言いなりになるのが馬鹿馬鹿しくなったんだよ」
「閣下を裏切る気か!」
「最初からあんな髭、どうでも良かったんだよ。僕らを火口に投げ込んだの、忘れたの?」
そこにアリエッタが必死な様子で言葉を挟んできた。
「シンク! アリエッタのイオン様は何処?」
「・・・・・・アリエッタのイオンは2年前に死んだよ」
「うそ! 信じないもん!」
「だから僕達が作られたんだよ、見てわかんない?」
仮面を外したイオンと同じ顔を見て、アリエッタは立ち竦んだ。
「止めろシンク!」
「あんた達も、いつまで騙してんのさ。言わない方が可哀想だって思わないの?」
「貴様!」
「シンクの馬鹿ぁ! うそつき! なんでライガママの仇と一緒にいるの!」
「敵討ちがしたかったら後で存分にしなよ。今は忙しいんだよ」
戦闘が始まった。
距離をとり譜銃で仕掛けてくるリグレットにシンクが肉薄し、脇からルークが斬りつけた。
シリウスが譜術で援護する。ラルゴはアスランとアッシュ、ジョゼットが防いでいる。
アリエッタはジェイドとティアに襲い掛かり、ガイが前衛を勤めていた。
こちらが押し始めてきた時、アリエッタのビッグバンが炸裂した。
すんでの所で効果範囲から逃げたシリウスが、攻撃しながらリザレクションを発動させる。
ほぼ全回復した前衛たちがすぐさま戦いに戻り、アッシュがラルゴに秘奥義を放った。
ラルゴが膝を突き、リグレットが舌打ちしたその時、低い地鳴りが聞こえてきた。
「雪崩だ! みんな逃げろ!」
ルークが叫ぶ。必死で走る背後から白い壁が迫ってきていた。
「みんなーいるかー?」
「・・・ああ」
「ひどい目にあいましたね」
ラルゴとリグレットの姿は見えず、逃げたか巻き込まれたのだろうという事になった。
アリエッタはシンクが雪の中から助け出した。頬を叩いて目を覚まさせる。
アリエッタはシンクの顔を見て、くしゃりと顔を歪めた。
「ほ・・・ほんとはアリエッタ、知っていた、です。アリエッタのイオン様とにおい、違ってたです。ヴァン総長、アリエッタ騙していた、ですか」
「・・・さあね。教えると後追いしかねないから、って言ってたけどね」
しゃくりあげるアリエッタから目を逸らしながら、シンクは言った。
「僕はもうあいつには付かない。あんたはいつまで髭の言いなりになって、お友達を死なせてるつもりさ」
「あ・・・アリエッタは・・・」
サクサクと近づいてきたシリウスが、アリエッタにヒールをかける。ついでに近くに倒れていたライガにもヒールをかけ、首を持ち上げたライガの鼻筋を撫でてやる。
クゥ、とライガが喉を鳴らした。
「動けるなら、お帰り。ヴァンに協力するのは、最後はアリエッタもお友達も死ぬって事だけど、それを決めるのはアリエッタだから」
「でも・・・その人達、ママの仇です」
アリエッタは困惑して、ぬいぐるみに顔を埋めた。
「憎んでて、良いんだ。でも死を選ぶな。 ・・・ライガは森の生存競争に負けたとき、最後の1頭まで死を選ぶのかい?」
「ちがう森に移動する、です」
「ライガクイーンが死んで、アリエッタが次のクイーンになったんだろう? 最後の1頭まで戦って死ねと、そう命じたらライガ達は女王の命令に素直に従うだろう。でも、アリエッタはそれで良いの?」
泣きそうに俯くアリエッタの頭をぽんぽんと撫でる。
「群れのリーダーとして、最善を考えろ。それでも向かってくるなら、全力で相手をするよ」
近寄ってきたライガの目を見て話しかける。
「アリエッタを安全な所で休ませて。 ・・・お前達は賢くて気高い生き物だな」
一声鳴くと、ライガは消沈したアリエッタを乗せて去っていった。
幸いな事に荷物はすぐに見つかったので、そのままパッセージリングに向かう事にした。
壁の崩れた所から中に入り、とりあえず休んで服を乾かす。
「この雪壁溶かせば、向こう側にいけるだろう。シリウス、頼む」
「ん。エクスプロード! あっしまった、つるつるになってしまった。ロックブレイク・フリジットコフィン・ロックブレイク・フリジットコフィン。 ・・・これで良いかい?」
微妙に見事な氷の階段がそこに出来上がっていた。
ほとんど詠唱時間も無しに上級譜術を使うシリウスに、ジェイドとティアは唖然としている。
「旦那と同じぐらい使えるんじゃないか?」
ガイの言葉にアッシュが口を挟む。
「シェリダンでメテオスォームってすげえ譜術使ってたな」
「メテオスォーム? 聞いた事がありませんね。コントロールは私より上かもしれません」
「大佐より? そういえば・・・シリウス! あなたが使ったリザレクション、何故あんな広範囲で威力も桁違いなの?」
振り返ったシリウスは気の無さそうに答える。
「ん~、実力?」
「ふざけないで!」
「ふざけてるわけじゃ無いんだけどね。俺の譜眼は右がフォニムの収束、左がコントロールを司る。譜歌は祖母と母が改良しまくったから威力が増してるんだろう」
「な・・・ユリアの譜歌を改良するなんて、なんて冒涜なの!」
「より良い物を使うのは当たり前だろう? 文句はあの世で母に言ってくれないか」
肩をすくめるシリウスにジェイドが近づく。
「その譜眼はとても興味深い、見せてくれませんか」
「・・・・・・目を抉り出されそうで嫌だ。それにいい年の男が見詰め合ってたら寒いだろう?」
後ずさるシリウスに、アスランが助け舟を出した。
「カーティス大佐、諦めてください。彼に無礼を働いたら、陛下に言いつけますよ」
長いセフィロトを進み、ようやくパッセージリングにたどり着いた。
進み出ようとしたティアをシリウスが止める。睨みつけるティアに話しかけた。
「ユリア式封咒はここを入れて後3箇所有る。次はゲートで一つづつ解く事になる。君は後一箇所なら耐えられるだろうが、2箇所だったら死ぬかもしれない。俺は何箇所解いても死なない。君が死にたいなら止めないから、どうぞ」
ユリア式封咒を手で指し示すと、ティアは青ざめて固まったまま動かなくなった。
遠くで見ていたシンクがアッシュを肘で突付いた。小声で話しかける。
「ちょっと燃え滓。 髭妹、聞きしに勝るじゃない?」
「うるせぇ出来損ない。 ・・・まったく同感だ。一週間も付き合ってみろ、精神が崩壊するぜ」
「あんたがルゥと組ませたがらないわけが解ったよ」
「よくアクゼリュスまで堪えられたと思うぜ」
10分程も黙って見ていたが、動きが無いのでシリウスは溜息を一つ吐いてユリア式封咒の前に立った。かすかな音と共に本が開く。
「ちょ・・・あなた勝手に!」
「死にたいならさっさとやれと言っているだろう? 人の所為にするなよ」
僅かにふらついたシリウスを、ルークが心配そうに支えた。
「大丈夫だよ。そっちを宜しくね」
浮かび上がった文字を示す。
「アッシュ、どっちがやる?」
「どっちでもかまわねぇが・・・疲れるから二人でやるか。支えるから古代イスパニア語の成果、みせてみな」
「うん!」
二人は同調して指示を書き変えていった。(ルークが思い浮かべた古代イスパニア語の間違いをアッシュが直して、脳内で罵倒していたのは秘密だ)
「さあ、あと二つだね。やっとここまで来た」
「ああ。アブソーブゲートとラジエイトゲートは、同時に行ったほうが良い。アブソーブゲートには多分ヴァンが居るだろうしな・・・」
一行は、ケテルブルグホテルに戻ってきていた。ラウンジでお茶を飲みながら話し合っている。
驚いた事に、アリエッタが来ていた。イオンと話をしに来たのだそうだ。
ちょうどアニスがいなかった為(皆、呆れた)、部屋で真実を聞く事が出来たという。
そのアニスは離れた所でガイたちと話しながらこっちを睨んでいる。ちなみにアスランはジョゼットと少し離れた席でいい雰囲気だ。
「・・・アリエッタ、もうお友達死なせる、いやです。敵討ちは、ぜんぶ終わったら考える、です」
「それで、アリエッタはこれからどうしたい?」
シリウスが優しく聞いた。
「シンクが幸せにしてくれる、です」
それを聞いたシンクが思い切り茶を吹いた。
「な・・・何いってんのさ! 幸せになればいいんじゃないって言っただけだろ!」
むせ返りながら赤面して大変な事になっているシンクを周囲は生暖かい目で見守った。
「おお・・・見事だ。ツンデレの真髄を見た・・・!」
「あれが真のツンデレかぁ・・・!」
「可哀想だから言ってやるなよ、シリウス、ルゥ」
シリウスについての補足なので、興味ない方はバックプリーズ!
だんだん本性が出てきましたが、彼はもともと軽いノリの能天気なにーちゃんです。
ただ、自分の身分と役目を理解しているので、初めの頃はあんな言葉遣いでした。
常識人なので、同行者の非常識な言動にはあきれ返り、彼らが大嫌いです。
長編2の逆行バージョンに入ると、彼のノリと能天気はますます進化してはっちゃけて行きます。
オリキャラが少しでも読んでくださる皆様に気に入ってもらえるよう祈ります。
以下はこの話を書くときに立てた設定です。
ちょっと違ってきてしまった所もありますが、まあおおむねこんな感じです。
※同行者と一緒のアッシュを不憫がって、たまに会うとアッシュをべったべたに甘やかすシリウス。
髪の手入れしたり、マッサージしたり。アッシュも満更でもない。つーかシリウスとルークはアッシュのオアシス。アッシュにとってシリーは頼れるお母さん。ルゥはかわいい弟。ルゥにとってシリウスはかっこいいお父さん、アッシュは大好きな兄さん。
シリウスにとって『血の一滴、骨の1欠片、魂の一片まであなたのものだ。』なご主人様(ルーク)の半身であるアッシュにはルークの次位に甘い。ルークを任せられる位信頼している。
(3番目はクリムゾン)(4番目はピオニー、2週目逆行では4番目にヴァン)
シリウスにとって
ティア>視界に入れたくも無い 軍人なんて名乗るな
ジェイド>胡散臭くて近寄りたくない
ガイ>傍に寄るな ぶちのめしたい てめぇは護衛を何だと思ってる
アニス>殴り飛ばしたい
ナタリア>路端の石 しゃべるな。
アスラン・セシル>信頼できる人たち
シンク>ツンデレで可愛いクソガキ
イオン>シンクの兄弟
アリエッタ>シンクの彼女の仔ライガ
クリムゾン>実は俺、ファザコンなんだよな
ピオニー>うっかりしてると犯されそうだ
長編2まではあまり出てきませんが、シリウスの愛称はシリーです(笑)
オマケ↓ (時期がどこに入れても変なので、ここでこっそりv)
閑話
久しぶりにシリウスは料理していた。ルークとシンクが強請ったのだ。
厨房を借りてチキンクリームシチューのパイ包みと紅茶のシフォンケーキを作る。
アッシュ、ルーク、シンク、イオンで熱々のそれを堪能している所に、カジノから帰ってきたアニス、ガイ、ティアが通りかかった。
「ぶー、けち。何であたし達の分作ってくんないのよー」
「もう材料がありません」
「買ってくるからー」
「以前、同じような事がありました。そのとき私は、あなた方に今後料理は作らないと言ったはずですが、覚えてますか?」
「え・・・そんな事あったっけ?」
「デオ峠の近くの小さな町で、ルークが私のシチューが食べたいと言ったので、宿の厨房を借りて作っていた時の事です。帰ってきた皆さんが自分も食べたいと仰ったので、材料が足りなくなりました。私の知らないうちにガイがルークとアニスを連れて買いに行きました。二人いれば大丈夫かと思っていたのですが、ガイとアニスは帰ってきました。『ルークが迷子になっちゃったよ』と言って」
「ああ、なんかそんな事あったなぁ」
「シリウスったら、血相変えて飛び出していったのよね」
「・・・そのとき、町には暗殺者が来ていました。少なくとも2組以上は。私がルークを見付けた時、ルークは赤い髪を曝し、裏通りを歩いていました。私は3人ばかり暗殺者の喉を掻き切ってからルークを連れて宿に帰りました」
「そ・・・それは・・・」
「あんなに絶望を感じた事は、生まれて初めてでした。守ると誓った主を亡くす恐怖に身体の震えが止まらなかった。帰ってきた私たちにあなた方は言いました『子供じゃないんだから、過保護すぎる』と。だから言ったんですよ。あなた方の為に時間を割くことは二度としない、とね。思い出しましたか?」
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