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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.05.17,Fri
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Posted by tafuto - 2008.07.02,Wed

この話は自殺願望アッシュ(NEVER MORE)のその後のIFです。 セルフ三次創作小説(?)になります。
本編をお読みでないとわけがわからないと思われます。本編のラストで語った救済ネタのお話です。
本編はあれで完結しているので、あくまでもこれは「もしこんなだったら良いよね・・・」のノリで書いています。
それでもよろしかったらどうぞ。
あ、・・・・・・死にネタです。




※外見年齢 アッシュ24歳 ルーク17歳 オリジナルルーク少年10歳  ルーク王20歳くらいから
オリジナルルーク少年はいわゆる仔アシュとは少々性格が異なります。
責任を投げ出して死を選んでしまった自責の念から少々卑屈です。んでスレる前に死んだのでわりと素直です。

 

 

 


『片羽の蝶々』

 


ふわふわと心地よい柔らかさに包まれて、小さな『ルーク』はなかなか目を開けることが出来なかった。
物心ついてから、初めてこんな安らかな気持ちで眠りにつけたのだ。

 

頑張って、頑張って頑張ってがんばって。
それでも世界は冷たく辛いばかりで、痛くて苦しくて・・・寂しくて。
『ルーク』はずっとだれかに「もう良いんだ」と抱きしめてもらいたかった。


父上も、母上も、王様も科学者たちも。
誰も『ルーク』の辛さを認めてはくれなかった。 もう良いとは言ってくれなかった。


あの日、俺によく似た人が言ってくれるまで。
・・・・・・俺の望みをかなえてくれるまで。

 


微睡む『ルーク』の耳に微かな泣き声が聞こえてきた。
覚醒とともにその声は鮮明になっていく。


「ばかばかばか! アッシュの大馬鹿野郎! 何でなんだよ! ・・・せっかくおまえは戻れたのに!」
「・・・お前のいない世界に、存在していく事は出来なかった」
「だからって! みんなを殺すなんて!」
「お前だけに罪を背負わせ、償いと称してお前を見殺しにしたあいつらを許せなかった。 ・・・・・・すまない」
「こ・・・こんな小さな『ルーク』まで手にかけるなんて・・・・・・」
「・・・・・・・・・すまない」
「なんでお前は、幸せになってくれなかったんだよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

言葉にならない嗚咽が辺りを震わせる。
『ルーク』はうっすらと目を開いた。


座り込んだ深紅の髪の男に朱金の髪の年若い青年が縋りつき、その胸を拳で殴りつけながら泣きじゃくっている。
男は瞳をを閉じて、ただその身体を抱きしめていた。

自分を解放してくれたあの男だ。
ただ一人、自分を理解してくれた。 心の奥底に深く隠していた本当の望みを叶えてくてた人だった。

ゆっくりと体を起こすと『ルーク』は二人に近付いていった。

 


「あまりそいつを責めないでくれ。・・・そいつは、俺の望みを叶えてくれただけだ」


弾かれたように朱金の髪の青年が振り返り、深紅の髪の男が静かに目をあけ『ルーク』を見た。

「逃げ出したかった、ずっと死にたかった。 ・・・責められるのは『聖なる焔の光』である事から逃げ出した卑怯者の俺だ。 ・・・自分で死ぬ事も出来なかった臆病者だ」

両のこぶしをきつく握りながら俯き、それでも絞り出すように言葉を紡ぐ小さな少年を瞠目して眺めていた青年は、そっと立ち上がると項垂れた少年を抱きしめた。
紅い髪の男がゆっくりと近づいてくると、『ルーク』の頭に手を乗せて呟いた。

「すまなかった・・・ お前が自分の人生を選び取る機会を奪ってしまったな・・・・・・」


あの時のように、大きな掌が優しく頭を撫でる。
「あなたの所為じゃない。俺があなたに殺されることを選んだんだから。 ・・・あの時、『俺はお前だ』とあなたは俺に言った。あなたはあそこで死ねなかった俺なんだろう? そして俺の代わりにすべてを引き受けてくれた」
「・・・・・・ああ」
「俺は、嬉しかったんだ。・・・・・・だから、良いんだ」


黙ってそれを聞いていた朱金の髪の青年が少年をぎゅっと抱きしめ、アッシュと呼ばれた男は無言で静かに少年を撫で続けた。


音譜帯で、三人が暮らし始めた日の出来事だった。

 

 

柔らかな光に包まれて目覚めると、たいがい少年はルークという青年に抱きしめられている。
ふわふわの雲の上で三人で寄り添い合うように眠っているからだ。

時にはアッシュの腕の中のルークに抱きしめられていて、一塊りになって寝ている姿に笑いが漏れる。
かつて一度も経験したことのない暖かさに包まれて、少年は安らいでいた。
まるで父と母に抱きしめられているように感じられる。


ルークは包み込むように柔らかく笑い、寡黙なアッシュは静かに自分たちを見守り続ける。
そして『ルーク』はここではただの子供でいられた。


時々ローレライと呼ばれる光のかたまりが来て、アッシュやルークと話していく。
ルークが戻れなかった世界のその後の事や、アッシュが消えてからの世界の事を教えてくれる。
ローレライは水溜りのような鏡を作り出し、アッシュたちが世界を覗けるようにしてくれた。


頬杖をつき飽きずに自分が後にしてきた世界を眺める少年に、アッシュはぽつりぽつりと少年が死んでからの出来事を話してくれた。
そして自分たちの辿ってきた人生の事も。


『聖なる焔の光』の辿ってきた壮絶な人生を聞くと身体が竦む気がする。
しかしすべてを乗り越えて手を取り合う二人の姿を見ると羨ましいとも思う。


「すまない・・・俺はお前の半身を救うためにお前を見殺しにしたんだ。 大爆発を、起こさないために」

哀しげなアッシュの言葉に首を振る。
「俺があなたみたいに耐えられたかどうか分らないよ。・・・でも俺の半身に、ちょっと会いたかったな」

 

水鏡には自分が後にしてきた世界で王として立派に施政を続けている『聖なる焔の光』の姿が映っている。
少年は、己の半身であるはずだった存在を水鏡から見続けた。
・・・後悔と、憧れを込めて。

 

 

若くして王位を継いだルーク王は、がむしゃらと言えるほど精力的に施政を続けていた。
睡眠もろくにとらず食事さえ忘れるほどの頑張りに周囲の者は心配したが、にっこりと笑って『大丈夫だよ』と言われては強く進言するわけにもいかない。
人材のいないキムラスカの情勢はまだまだ厳しいのだ。やることはいくらでもある。

ついにある日、ルーク王は体調を崩して倒れた。

 

「俺の所為か・・・俺があいつに良い王になれなどと言ったから・・・・・・」

心配そうに水鏡から見守っていたアッシュがひどく後悔した口調で呟いた。
祝福のつもりで言った言葉が呪縛のように彼を縛ってしまったに違いない。

「少し力を抜くように言ってあげないと、このままじゃ体を壊して潰れちゃうよ」
「・・・そうだな」
ルークも心配そうにアッシュに言う。二人で相談しているところにローレライが現れた。

(あの焔は、アッシュ、お前の音素の指輪を持っている。焔にだけはお前たちの姿が見えるであろう。
・・・我があの場に送ってやっても良いぞ)
「そうか、それなら頼む。俺があいつにもう少し休むよう言ってこよう」


アッシュの言葉に、それまで黙って皆の会話を聞いていた少年が口を挟んだ。

「待って! お願い、俺に行かせて!」

必死な様子で縋りつく少年に、アッシュとルークは顔を見合わせる。
「俺も役に立ちたい。 ・・・あいつは俺の半身なんだから!」


しばらく少年を見ていたアッシュは、やがてふっと微笑って少年の頭を優しく撫でた。
「・・・そうか、なら今度はお前があいつを守ってやれ。 ・・・あまり気負うなと、お前は良くやっていると伝えてくれ」
「わかった」

 

ローレライに送られて、小さな焔はふわりふわりとバチカルに降りて行った。
城の最上階の、居心地良く整えられた王の寝室にするりと入りこむ。
広いベッドには朱金の髪の若き王が青白い顔をして眠っていた。

ふわふわと浮かんで半身の姿をじっと観察する。 ふと、その眼が開いた。
宙に浮かぶ少年をびっくりしたように見たルーク王は、ふいににっこりと微笑んだ。

「やあ、君は誰なんだい? ご先祖様の幽霊なのかな?」 


「俺の名はル・・・」
言いかけた少年は言葉を止めた。

音譜帯ではほとんど精神で話しているようなものなので、名を呼ばなくても誰を指しているのか理解できるのだ。
少年は『小さな焔』というイメージで優しく呼びかけられていた。


この世界の『聖なる焔の光』は俺じゃない・・・
すべてを投げ出してしまった自分には、もう『ルーク』という名は相応しくない。


「俺には・・・名前はないんだ」

悲しげに項垂れた少年に、あわててルーク王は身体を起こした。顔を覗き込むように微笑みかける。
人ならざる存在のこの少年に、不思議と恐れは抱かなかった。ただ言い知れぬ愛しさがこみ上げてくる。

「じ、じゃぁ俺が名前を付けてあげるよ! ・・・『ホムラ』、はどうかな? 綺麗な紅い髪だね」

きょとん、とルーク王を見下ろした少年は、くしゃりと顔を歪めて俯いた。

・・・こいつは、何も知らないのに俺を『焔』と呼んでくれるのか。


「ごめん、嫌だったかい?」

心配そうに覗き込むルーク王に、少年は泣き笑いの顔を上げた。
「嫌じゃない。 ・・・・・・嬉しい」

小さな声で呟く少年の頬に涙がひとしずく零れた。

そっと手を伸ばすルーク王の右手の指輪がちらちらと光った。少年の頬に触れ、その涙をぬぐい取る。
「あ・・・さわれる」


己の半身に初めて触れられて、少年の鼓動は早くなった。
赤くなる顔を取り繕うように話をはじめる。
「その指輪のせいだろう。それは第七音素で作った指輪だからな。・・・それを作ったやつから伝言だ。 『あまり気負うな、お前は良くやっている』 だそうだ」


少年のその言葉に瞠目したルークは少し哀しげに微笑んだ。空に消えて行ってしまったあのひとのことを想う。

「あのひとを、知っているの?」
「・・・・・・ああ。 あいつの代わりに、お前が無茶しないよう見張るために来たんだ」

あの人に良く似た少年が、真っ直ぐに自分を見つめてくる。
いつもどこか遠くを見ていたあの人の代わりに、自分だけを見つめている。
ルークは、そっと少年を抱きしめた。

「そう・・・よろしくね、ホムラ」


長い朱金の髪が頬を掠め、肩に落ち、己の髪と重なり合った。
美しい炎のような髪に胸が高鳴る。
硬直した少年は熱くなる頬をおさえてぎくしゃくと身体を離した。
赤い顔で睨みつけるようにルーク王を見るとビシッと指を突きつけた。

「ち、ちゃんと休むんだぞ! ・・・・・・また見に来てやる」


慌てたような少年がすうっと消えてしまうのを、ルーク王は微笑みながら見ていた。
この小さな優しい幽霊と共にいる“あの人”は、きっと天国に行けたんだなと思いながら。

 


ルーク王が食事を抜いたり明け方まで机に向かっていたりすると、どこからともなくちょっと怒ったような子供の声が掛かる。
それは何度も繰り返され、いつしかルーク王は少年に会えるのを楽しみに待つようになった。

その日も苦笑しながら振り向くと、赤い髪の少年が腰に手を当てて呆れたようにこっちを睨んでいる。


「お前はっ! ちゃんと食事を取れと言っただろう? お前が倒れたらなんにもならないんだからな!」
「ごめんごめん、ホムラ。わかったよ、休憩にして食べるものを持ってきてもらうから」

ペンを置いたルーク王が背伸びを一つして呼び鈴を鳴らす。
ホッとしたような召使が消化の良い夜食を並べて去ってゆくと、ルーク王はホムラに話しかけた。
「ホムラも食べられればいいのにね」


今まで少年に気付いた者はただの一人もいなかった。
ぶつかりそうになって首を竦めた少年をすり抜けるように歩いて行く召使に、少年がこの世のものでないことを実感させられる。

「お前が食べるのを見てるからいい。 あっちじゃお腹は空かないんだ」
苦笑して言葉を返す少年にふと訊いてみたくなる。
「ホムラはどんな所に居るの? ・・・あのひとは、幸せなのかな・・・?」

少し考えこんだ少年がぽつりぽつりと説明をはじめた。
「・・・ふわふわ光る、雲の上みたいな所だ。小さな池があって、その水にお前が映っている。俺はそこであいつと、あいつの半身といっしょに三人で暮らしているんだ」
「半身? ・・・・・・あのひとは、探していた人に会えたんだね」

 

『俺の光は、あいつだけなんだ』
 
そう言って幸せそうに空に還っていった男の微笑みが、チクリと胸を刺した。

「・・・・・・俺ね、あのひとが初恋だったかも・・・」


情けない表情で苦笑したルーク王の目尻に光った涙の粒を見てホムラは慌てた。
同時にいまだ自分よりルーク王の心をとらえて離さないアッシュに幼い嫉妬心が湧き上がる。

「お前の半身は俺だろ! ・・・お前が呼んだらいつでも来てやるから、そんな顔で笑うな!」

きょとんとしたルーク王が、ふっと笑ってやさしくホムラの髪を撫でた。
「ありがとう。・・・ホムラは優しいね」

慌てていた少年はその言葉に我に返り真っ赤になった。
「べ、べつにお前のためじゃ・・・ 羨ましいなんて思ってないからな!」

拗ねたようにふいと居なくなってしまった少年を微笑みながら見送ったルーク王は、少し冷めてしまったスープを口にはこんだ。
あのひとに良く似た面影を持つ、不器用で優しい子供のはにかんだ笑顔を想い返す。

「・・・ねぇ、ホムラ。 今は君のことが一番大好きだよ」

どうかこの言葉が、あの子のところに届きますように。

 

 

執務室のテラスで小休止を取っていたルーク王の所に、ジョゼットが紅茶を運んできた。
薫り高い紅茶を手ずから淹れるジョゼットに、ルークは思い切って尋ねてみる。
もう、好奇心は抑えることが出来なかった。

「ジョゼット、キムラスカに10歳くらいで亡くなった男の子は居たっけ? 赤い髪に碧の目、俺に良く似た子供なんだけど」


ジョゼットの手から滑り落ちたカップが鋭い音を立てて砕け散った。
驚いたルークがジョゼットを見ると、真っ蒼になって口元を押さえている。
眼を見開き全身を震わせるその様子にルークは直感した。

人払いをして静かに語りかける。
「・・・ジョゼット、何か知っているなら話して。 もしかして、いつか話してくれると言っていた事に係わりがあるのではない?」

無言で首を弱々しく振り続けるジョゼットに、縋るように言葉を重ねた。

「俺以外には誰にも見えない、声も聞こえないその子は・・・ 俺を半身と呼んだよ」


ああ・・・と小さく声を上げたジョゼットは、悲痛な表情で空を仰ぎ目を閉じた。
しばらくの間祈っていたジョゼットは、やがて心を決めたように静かに話しだした。

アッシュと言うあのひとのこと、レプリカという存在の事、そしてルークがレプリカであると言う事。
長い長い話が終わった。

あまりの話に衝撃を受けてぼんやりとしていたルークは不意に気付いた。

「・・・俺がレプリカなら・・・オリジナルはどうしたの? ・・・・・・まさか、あの子が俺の・・・」
「・・・被験者のルーク様がどうなったのか、私は知らないのです。 ・・・しかし、おそらく・・・・・・」

 

『俺には・・・名前は無いんだ』


哀しげに俯いた少年の言葉がよみがえる。

「俺は・・・あの子から全てを奪ってしまったの? 名前もその存在も、何もかも全てを!」

悲痛に叫んだルークは顔を覆って崩れ落ちた。 涙が止まらない。
ジョゼットが駆け寄り、自分も嗚咽を漏らしながらルークを抱きしめる。

「ルーク様・・・貴方様の所為では無いのです。 どうか、どうかお苦しみにならないで下さい」

二人は長い間その場を動かず、ただ涙を落とし続けていた。

 


眠れぬ夜が続いたある日、明かりを消した窓辺に佇むルーク王にためらいがちの小さな声がかけられた。
ゆっくりと振り返ったルーク王はじっと少年を見つめ、呼びかけた。

「・・・・・・『ルーク』・・・」


びくりと身体を震わせた少年は、思いを振り切るように強く首を振った。真っ直ぐにルーク王を見つめる。

「俺はもうルークじゃない。その名をお前に奪われたわけでもない。お前ははじめから『ルーク』だし、俺はその名から逃げ出しただけだ」 
「でも・・・俺は偽物だ。君こそが正当な後継者だったのに・・・」
「違う! お前は俺の憧れだった。逃げ出した俺に代わってキムラスカを導いてくれた。 ・・・俺は『ホムラ』だ。 お前が、つけてくれたじゃないか!」


小さな身体がぶつかるように抱きついてくる。
強くしがみつくその肩がしゃくりあげるように震え、王の服が暖かく湿った。

「俺の為に、お前が苦しむことは無いんだ。 だから・・・ちゃんと休んでくれ」


自分を心配して泣いてくれるこの優しい小さな半身。
彼が幼い頃どんな目に遭っていたかは、あの後ジョゼットやラムダスが話してくれた。
全てを恨んでも仕方がないような状況でなお、ルークを半身と呼び涙してくれるこの少年がいとおしい。
抱きしめている所から安らぎが溢れてくるような気がする。


「ありがとう・・・・・・『ホムラ』 ・・・俺の、ただひとりの半身」


顔を上げた少年の、涙に濡れた瞳が嬉しげに細められる。
ルークは膝をつき少年の頬に口づけをするとぎゅっと抱きしめた。

「君の分まで頑張るよ。 ・・・みんなを幸せにできるように、そして俺も幸せになれるように」
「ああ。 ・・・だけど無茶するなよ! ずっとろくに寝てないんだから、まずはゆっくり寝ろ!」


自分の手をぐいぐい引っ張ってベットに向かう少年に微笑みがもれる。
ルーク王を寝かしつけた少年の手を取ると、そのままベッドに引っ張り込んだ。

「眠れないかもしれないから、今日は一緒に寝てくれないかな?」
真っ赤になってわたわたと暴れていた少年がその言葉におとなしくなった。

「・・・ずるいぞ。 まあ、眠れないならしょうがないな、今日は一緒にいてやる」

赤い耳をした少年を、くすりと笑ったルーク王は優しく抱きよせた。

 


温かく抱きしめられて、少年はまどろんでいた。
こうして半身に抱かれていると、何かがぴったりと合わさるように感じられる。
在るべきものが在るべき姿に還るような心地良さ。

あの場所で、半身を抱きしめるアッシュはとても安らかな顔をしていた。
言葉も無く、ただ味わうように寄り添っていたあの二人もこんな気分だったのか。

・・・・・・ただ、満たされる。


すっかり先に寝入ってしまったホムラを、ルーク王は優しく撫で続けていた。
ルークもまた、たとえようもない幸福感を感じていたのだった。

 


月に数度、ルーク王の私室には誰も知らない客人が訪れる。
ルーク王の小さな半身は、ある時は強引に食事をさせ、またある時はふわふわと宙に浮かんでルーク王の悩みの相談を受けた。
もっとも政治に関して経験の足りないホムラには、ただ悩みを聞くことしかできなかったが。

「助言できなくて悪いな・・・俺たちは誰もお前みたいにちゃんとした帝王教育を受けていないんだ。俺もアッシュも10歳までだし、あっちのルークはまともな教育受けてないし・・・」

ふわふわ浮かびながらしょげかえるホムラが微笑ましい。
その手を取り、膝の上に座らせると眼を合わせた。
「いいんだ、ホムラがこうして聞いていてくれるだけで嬉しいよ。皆の為に何が最善か、一緒に考えよう?」
「ああ!」

こうして笑い合えれば、どんな事でも乗り越えられそうな気がした。


聖なる焔の光はもう一人ではなかった。
辛い決断に落ち込んだ時、半身はそっと寄り添い続ける。
眠れぬ夜には傍らのぬくもりが歌う小さな子守唄が心を癒してくれた。

 

そんな生活は数年続いた。
いつしかルーク王はあの時のアッシュの年齢を越えた。
もうルークを「若き王」と言う者はいない。それだけの実績を重ねてきたのだ。

 

富を独占する大貴族が絶えたキムラスカは徐々に共和制に移行していった。
国民全てが預言などに頼らず自らの意思で政治に参加できるよう、ルーク王は力を尽くした。
そして髪や眼の色で王座を決めることなどあってはならないと、妻を娶らず子も作らなかった。


ルーク王の深みを増した微笑に数本の皺が混ざる頃、選挙による初の国民の代表が選ばれた。
改革の王として尊敬を集めていたルーク王は、まだ若いと惜しまれつつ退位する。


ルークには漠然とした予感があった。
レプリカである己の体は、どんなに長くとも父の亡くなった年までは生きることはないだろうと。
そして、その予感は正しかった。

 


ある冬の寒い日、体調を崩したルークは風邪をこじらせ長く寝付くことになった。
小さな半身は、王の枕元に寄り添い続けた。

「ねぇホムラ、俺達はもう十分頑張ったと思わないか?」
「そんなこと言わないでくれ・・・ ずっと、元気でいてほしい」
「でもね、不思議と少しも怖くないんだ。 だって、ホムラと同じところに行けるんだろう?」

痩せてしまった首に縋りつく小さな半身を抱きしめるルークは後悔など一つもない晴れやかな表情で微笑んだ。
やり残したことなど何ひとつ無い。この小さな半身と共に民のために尽くしてきた満足感だけがあった。

 

冬枯れの木立に木の芽が息吹き、小さな花々が蕾をいくつも付けたころ。
人々に見守られながら、ルークは静かに息を引き取った。

美しい聖堂に白い花に埋もれて横たわるルークは、幸せそうな微笑を浮かべていた。

 

悲しむ人々には見えなかった。
ステンドグラスの光に浮かび上がる豪奢な棺の上にふわりと浮かんだ紅い髪の少年が、ルークに向かって手を差し伸べたところを。


(もう、いいのか?)
(うん、もうじゅうぶんだ。 俺を、ホムラの所に連れて行って)


紅い髪の少年に手をひかれて、聖堂に横たわる亡骸から朱金の髪の少年がすうっと立ち上がった。
双子のような少年たちは、無邪気に笑い合いながらしっかりと手を繋いだ。


(ずっと一緒にいようね)
(ああ、今度はもう離れない)

 


優しい風が窓を越え、蒼穹へとかすかに吹き抜けていった。

人々は束の間祈りを止め、柔らかく頬を撫でて行く風を見送った。





嬉しそうに手を取り合い駆け抜ける子供たちの笑い声を聞いた者は、  誰もいない。

 

 

                                                END







悩んでいる時に案を下さった皆様、ありがとうございましたv 
ヒャン様、白夜様、一部設定を取り入れさせていただきました。感謝しています。

 

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Posted by tafuto - 2008.05.17,Sat

拍手再録  

※この作品は名前が微妙に違うので本編をお読みになっていないと訳がわからないと思われます。 

 

ファブレ家の新年  (『幸せ家族の作成法』のその後、ルーシアとガイが結婚して7年後くらい)





冬の寒い日の朝、ここファブレ家ではまるで春の日差しのような笑い声があふれていた。
今日は新年を迎える祭りの日だ。光の王都はその名に相応しく、花や綺麗な飾りで彩られ、人々は新年の喜びを祝い合っていた。


「父上、母上。新年の寿ぎを申し上げる」

朝一番に顔を出した国王陛下とその第一の側近に、ルーとアッシュは破顔して挨拶を返す。
「まあ、ルーク、エステル。あけましておめでとう!」
「おめでとう、ルーク、エステル。国王自ら御出でになられるとは、城の方は良いのか?」
「どうせ祝賀は午後からです。それより父上と母上に一番に新年の挨拶をしたかったのです」
苦笑するルークに微笑んだエステルが寄り添った。
「あけましておめでとうございます。父上、母上、エルウィング」


結婚してファブレ公爵を継いだ妹が、夫を連れて挨拶に出てきた。
夫は穏やかで理知的な、似合いの夫婦だ。一昨年子供も出来た。
エルウィングは落ち着いた微笑を浮かべて一同を促す。
「新年のお喜びを申し上げます、国王陛下。さあ、お兄様方も一緒にお食事に致しましょう」


久しぶりに揃って朝食を取り、団欒していると来客の知らせが告げられた。
「父上、母上、あけましておめでとうございます! まあ、お兄様たちも一緒だったのね!」
ルーシアが息を切らせて飛び込んできた。ガイは苦笑しながら子供たちの手を引いている。
「久しぶりに皆と会えて嬉しいわ!」
エルウィングと手を取り合いくるりと回ったルーシアを呆れたように見つめたルークは、苦笑するガイに視線を移した。

「ガイ、ルーシアを泣かせてないだろうな?」
「滅相も御座いません、国王陛下。新年の寿ぎを申し上げます。」
演技がかった神妙な挨拶に、ルークが笑い出した。ふきだしたエステルを見て、ガイも照れたように笑い返す。
「普通の言葉で良いぞ、ガイ」
「あはは、いや~、俺が振り回されっぱなしだよ。惚れた弱みって奴かな?」
「そんなの今に始まったことじゃないだろ」
「そうそう! 初めっから尻に敷かれっぱなしの癖に」
軽口を叩いてゲラゲラ笑い合う三人に、屋敷の者はもう慣れっこだ。微笑ましく親友同士のやり取りを見ている。


「それより良いのか? マルクトの方は」
「ああ、陛下からも里帰りついでに挨拶して来いと仰せ付かったんだよ。・・・ジェイドの新しい発明も見せたくてさ!」
満面の笑みでごそごそと譜業を取り出すガイに、ルークとエステルは呆れて顔を見合わせた。
ガイの譜業馬鹿は40才近くになっても直らないらしい。

「じゃ~ん! これは写真機と言って、姿や風景をそのまま描いたように写し取れるんだ!」
「へぇ、面白そうだな」
興味深そうに覗き込む一同に、ガイは得意満面だ。
「みんなで写そうよ!」
エステルの言葉に、皆は笑って頷いた。


「撮りまーす! はい!」
ガイにレクチャーを受けたメイドが写真機のボタンを掛け声とともに押した。
豪華な居間の中央に置いた椅子にアッシュとルークが腰掛け、その両脇にルーとエステルが寄り添うように立った。
周囲には子供を抱いたルーシアとガイ、同じく子供を抱いたエルウィングとその夫が立っている。
みな真面目な顔をして、肖像画に描いたような記念写真だ。


「ねえ、真面目な奴ばっかりじゃなくて、楽しいのも撮ろうよ!」
ルーが突然そう叫ぶと椅子に掛けたアッシュの上に座り、首に手を回した。
苦笑したアッシュがルーを抱きなおし、まるでお姫様抱っこのように膝に乗せる。
ルークが無言で同じようにエステルを膝に引っ張り上げた。
「ルーシーとエルは旦那さまに頑張ってもらうこと!」
ルーの宣言に、情けない顔をしたガイと苦笑したエルの夫が従い妻を抱き上げた。


2枚目の写真は、当然のような顔で笑顔のルーを抱くアッシュ、赤い仏頂面をしながら焦った顔のエステルを抱くルーク、でれでれのガイと嬉しそうなルーシア、照れながら頑張っているエルウィングの夫と動じない微笑のエルウィング。そして周りで楽しそうに笑う子供たち。

 

それは、幸せな笑い声が響いてくるような写真だった。

 


月日が流れ、アッシュとルーが天に召され、ルークとエステルが年老いても。
エルウィングの子供達の、そのまた子供達の代になっても。
その写真はずっとずっと大切に飾られていたという。


・・・今はもう何百年も昔の話。

 


キムラスカ国立歴史博物館の片隅の小さな展示室から赤い髪の青年がゆっくりと出てきた。
青年は室内に声を掛ける。

「おい、ルーク。いつまで写真見てんだよ。さっさとしろ」
「待ってよアッシュ! だってさぁ・・・・・・楽しかったね」

朱金の髪を持つ青年はアッシュと呼んだ青年に抱きつくように腕を絡め、微笑みかける。
青年はその子供のような所作に苦笑を洩らし、朱金の髪をくしゃりと撫でた。

「・・・・・・ああ。 帰るぞ」
「うん!」

やわらかな微笑みの残像を残し、一筋の光が立ち昇った。

人影が消えた廊下には、幸せな気持ちだけがそっと残されていた。

 

 


2008 あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたします。 ・・・でした!
オチを付け足してあります。


Posted by tafuto - 2008.05.08,Thu

 

する事の無くなった赤毛達は、日がな一日ベッドで戯れていた。 
人間が殺し合っていてもそんなことどうでも良い。 二人にはあまり時間が残されていないのだから。


コーヒーカップを受け取ろうとしたアッシュの手から力が抜け、カップが落下した。
びくりと振り返ったルークを見たアッシュは静かに笑った。
「アッシュ・・・はじまったの?」
「ああ、そうだろうな。この感じは大爆発だ。・・・今度はどの位もつか。レプリカの国をお前と見てみたいもんだがな」
「・・・・・・アッシュ。嫌だよ、二人でいたいよ。ずっと、ずっと・・・」
縋り付く半身を、アッシュは強く抱きしめた。
「俺も同じだ・・・お前を『喰う』時、いつも気が狂いそうになる。 一人だと気付いた瞬間、死にたくなる」

餓えたような視線が絡み合った。
溺れる者のようにお互いの身体に腕をまわし、床に倒れ込む。
噛み付くように唇を貪った。
引き裂かれたシャツが滑り落ち、白い背に赤い爪痕が幾筋も流れる。
灼熱に貫かれ、全てを奪うように締め付け、揺さぶられる。
飲みきれない唾液が顎に伝い、舐め上げる。
断末魔にも似た嬌声。
互いの輪郭さえ曖昧になる気がするほどの快楽。
溺れ、呑み込まれる。


(俺達はもう、とっくに狂ってるのかも知れねぇな・・・)
(・・・それでも、いいよ。 ・・・アッシュと一緒なら・・・・・・)

 

夕暮れの陽の当たるソファーで、アッシュがけだるげに本を読んでいる。
指がしなやかに動き、ページをめくる音がカサリと小さな音をたてた。
その白い指に見蕩れていたルークは視線を少し上げて息をのんだ。
落ちかかる最後の夕日がアッシュの上半身を染め上げていた。髪が、腕が、顔が、緋に彩られている。
静かに目を伏せたアッシュはその生の最後を連想させた。

「アッシュ・・・」
ふらりと立ち上がったルークはアッシュの首に腕を回して屈み込んだ。己の名を呼ぶ小さな呟きに顔を上げたアッシュが、ルークの腰を引き寄せ自分の膝に座らせた。
「どうした? ルーク」
「アッシュ・・・一人にしないで」
すり寄ってくる半身の髪にそっと口付け、アッシュが抱きしめる腕に力を込めると、ルークはアッシュの首筋に顔を埋めた。
唇で頸動脈の鼓動を確かめ、滑らせた舌で体温を感じる。ルークは堪らなくなって柔らかな其処に歯を立てた。
ぷつり、と犬歯が食い込み、甘く感じられる液体が口腔に溢れた。

「・・・っ」
アッシュの体がピクリと動き、吐息が荒くなった。
「俺を噛み殺したくなったか? ・・・いいぜ、お前になら。その代り俺が死ぬ時はお前も一緒だ。俺はお前を手放さない、一人になんてさせねぇ」
アッシュの熱の籠った掠れた囁きに、体の芯が熱くなる。
顔を上げたルークの首筋に、アッシュは同じように歯を立てた。
チリ、と鋭い痛みが走り、生暖かいものが首筋を伝った。
アッシュは舌を蠢かせてそれを舐め取ってゆく。ぴちゃぴちゃと音を立てて貪られてゆく。
「あ・・・ああ・・・ アッシュ うれしい・・・」
二人はお互いから滴る命の水をまるで蜜のように味わった。

二人で居る事が実感できるこの瞬間、繋がるこのひと時だけが二人の全てだった。

 


バチカル周辺が崩落した。そして後をを追うようにグランコクマが海に沈んだ。
混乱した人間達は、成す術もなく崩壊する大地に呑まれていった。

 

初めにホドが再生された。次にフェレス島が。
本拠地をレプリカホドに移したヴァンは、加速するようにレプリカ大地を造りだしていった。
崩落していった大陸に代わるように次々と浮かび上がってくるレプリカ大地。
そこには無垢な人形のようなレプリカたちが住んでいた。


凄まじい勢いで第七音素は使われ、地核にいるローレライから引きはがされた。
自我も保てないくらい薄くなっていく音素に、ローレライは断末魔の悲鳴を上げた。


少しずつ衰弱していくアッシュの身体を抱きしめながら、ルークはローレライの悲鳴にうっとりと聞き入った。
うまく動かなくなってきた指で半身の美しい髪を梳きながらアッシュも楽しそうに微笑んだ。

(ローレライ、お前の創る運命に弄ばれて来た俺たちの憎しみをその身を持って知ればいい・・・)

 

最後の大地が地の底から浮かび上がって来た時、ローレライの叫びは止まった。
再生されたホド、栄光の地なんて馬鹿げた名で呼ばれているそのレプリカ大地の最深部でヴァンは大譜歌を歌った。
もう言葉すら出なくなった、消えかけた焔のようなローレライがうっすらと姿を現す。

「さあアッシュ、ルーク。お前たちが役立つ時が来たのだ。その憎しみをローレライにぶつけるが良い・・・」
幽鬼のようなヴァンの哄笑が白く冷たい大地に響き渡る。


アッシュとルークの大爆発は終盤を迎えていた。
痩せたアッシュの身体を繋ぎ止めるようにルークは縋り付く。
アッシュは自分の音素がルークに向かうのを押し止めるように固く眼を瞑り手を握り締めた。
その手にそっとルークは手を合わせた。

眼を開いたアッシュが半身と眼を合わせる。ルークはアッシュの眼をじっと見て静かに微笑んだ。
「アッシュ、・・・ずっと、一緒に居よう」
「・・・・・・ああ」

繋ぎ合った手がローレライに向って差し上げられる。
「・・・消えろ、ローレライ。すべての元凶」
その手を中心に溢れた光は、消えかけたローレライを貫いた。

 

最後の力を振り絞って超振動を使ったアッシュとルークの身体から、音素が乖離していった。
朱金の光が二人から立ち上り、乱舞し、融合していく。


その瞬間、二人の完全同位体、消えゆくローレライの最後の一欠片がアッシュとルークの大爆発に混ざり合った。

 

ふと身体が楽になったのを感じてアッシュはうっすらと目を開けた。なにかが融合されたようなこの感覚は大爆発の完了を意味する。
(俺はまたルークを『喰って』しまったのか・・・)
死にたくなるほどの絶望がアッシュを襲う。


その時アッシュは自分の身体が温かなものに抱きしめられていることに気付いた。
顔を上げると、きれいな翡翠が眼に入った。翡翠は2、3度瞬きをすると、ゆっくりと涙を落した。
「アッシュ・・・俺たち、生きてる・・・・・・二人で・・・」
震える手をルークの頬に宛がい、親指で涙をぬぐう。次々に溢れ出る涙に到底それだけでは足りず、唇を寄せて舐め取った。
「ルーク・・・・・・」

言葉にならない。言葉など要らない。
二人は固く抱きしめ合い、長い間口付けを交わした。

 

乖離をはじめていたルークの音素はローレライによって補填され、ルークに流れ込んでいたアッシュの音素は押し戻された。
消失しようとしていたルークの意識は、飛び散ることなくその身体に繋ぎ止められた。
澄んだ輝きを取り戻した音素が二人の中でしゃらんと奇麗な音を奏でる。


大爆発は終了した。二人の間に二度と大爆発が起きる事は無い。
そしてローレライの消滅した今、過去に飛ばされることはもう無いだろう。


永遠のループに閉ざされていた未来への扉が、今、開かれた。

 

 



無垢なる世界が誕生して間もなく、ヴァンは死亡した。
瘴気障害はもはや回復できないところまで来ていたのだ。

満足気に息を引き取ったヴァンを、リグレットはユリアの墓の隣に埋葬した。


小さな白い墓石が光をはじく。
リグレットはその墓石の前に呆然と座り込んだ。
無意識のうちに手が腰に伸び、銃を掴んだ。虚ろな目で銃を持ち上げ、銃口をこめかみにあてる。

弟も、愛した男も、弟子も、信用した部下も、故郷も。
何もかも全て壊してしまった。・・・これが自分が本当に望んでいたものだったのか?
眼を閉じゆっくりと指に力を込める。 その指は大きな手に掴まれた。


「・・・リグレット、死んで己のした事全てから逃げるつもりか」
ラルゴを見たリグレットの顔がゆがむ。崩れ落ちたリグレットは地を搔き毟り慟哭した。
「わかっていた、閣下が復讐しか考えていないことなどはじめから解っていたのだ・・・ 私は、預言を覆すと言いながら閣下を預言の代わりにして自分で考える事もせず、愛する男の愚行を諫めもしなかった愚かな女だ。・・・その結果がこれだ! 私は、どうやって詫びればいいのだ!」

号泣するリグレットを見つめていたラルゴは、やがてゆっくりと踵を返した。去り際に呟く。
「俺も、後悔していないと言ったら嘘になる。俺は俺の憎しみの為に娘まで犠牲にしたのだ。しかし俺がやった事は俺が死んでも消えはしない。せめてこのレプリカたちを生かすための手伝いをしようと思う」

 

長い間すすり泣いていたリグレットに、そっと一輪の花が差し出された。
顔を上げたリグレットに栗色の長い髪の少女がにっこりと笑う。
「どこか、いたいの?」
「ティア・・・」
「ティア・・・? それが私のお名前なの?」
レプリカの少女が無邪気に笑う。
人の愚かさによって創りだされた新しい生命が、疑う事を知らぬ無垢な微笑みをリグレットに向けている。

(それなら私にもまだ、やるべき事が残っているのだな・・・・・・)

少女の手を取って、リグレットはゆっくりと歩き出した。

 


栄光の地と言う白い墓場から、焔のような朝焼けに照らされて皆がおもいおもいに真新しい大地を見つめていた。
群青から紫苑に変わる空に薔薇色の光が射す。 朝日に浮かび上がる緑の大地。
少し肌寒い、澄んだ風が髪をなぶった。

焔の片割れがリグレットを見てニッと笑う。その身体を傍らの紅が抱き寄せる。
聖なる焔の光はまっすぐに大地を指差した。



「さあ、行こうよ。 俺たちの国へ」

 

 

無垢なる大地 『フローラント』   ・・・これがその創世の物語

 


                                      END

 

 

あとがき(もどき)

この後レプリカの国を存続させる為にかなり頑張って設定を考えたのですが、別な話になってしまうためすっぱりと諦めました。
シンクとディストは裏方で頑張っていたのです(笑) ごめん、全然活躍させなくて!
ノエルとかギンジとかノアールとか生かしたかったんだけど、設定的に無理だったです。
ちなみにユリアシティはダアトの崩落に巻き込まれています。


ちょっと考えていたその後設定↓

ディストはネビリム先生を作るが、人形のようなネビリムに己の過ちを悟る。そしてレプリカを別の人間として見るようになりレプリカの為に働く。
「馬鹿なディスト。レプリカと被験者が違うのくらい、アリエッタにもわかる、です」とか言われちゃう。
そのうちレプリカジェイド(22歳)にフォミクリーの事教えて、自我に目覚めたレプリカたちと協力して働く。
さすがにピオニーのレプリカ情報は取れないと思うんです。ナタリアとかガイも無理そう。

何年かはディストが1~6音素を使って食べ物のレプリカを作ってレプリカたちを養う。
(セルパーティクルが無くなったので、音素が使えるのは10年ってとこか。それまでにレプリカ自身が食べ物を作れるように指導。)
できるのはぶよぶよした肉とか野菜の塊っぽいもので、まずいけど食べられる。あと漁業で食いつなぐ。(一年分くらいはシンクが備蓄してた)
鳥とか虫とか野生の獣などは崩落前の大地からレプリカ大地に多少移動してきている。
シンク(とアリエッタ)が計画の数年前からプロジェクトXで種と家畜を準備してた。それらを使って農耕。
暫くは増やすだけだが、そのうち軌道に乗るだろう。
ちなみに初代王はシンク。頑張ってね、参謀さん。 そのうちシンアリで子供も出来る。
赤毛達はイチャイチャしてるばかりで全然役に立たない。
食べ物が魚ばっかりでふてくされるルーク(笑)

瘴気はレプリカ大地の第七音素として使われ、地殻付近の(最深部)大地と化した為もう出て来ない。(物質化したから)
「瘴気と言うのは汚染された第七音素です。第七音素はほとんどレプリカ大地を作るのに使ってしまいましたから、もう害があるほど残ってはいないでしょう。セルパーティクルも止まったので液状化した地殻もそのうち固形化します。何も問題はありません」
とか適当な事を考えてみた(笑)嘘っぱちの大捏造。

この後は続かないと思いますが、続くとしても
・プロジェクトX 無垢なる地『フローラント』 その創世に力を尽くした男、シンク。~苦労人哀歌~
・アビスでイチャイチャ☆パラダイス!

・・・・・・・・・なんてそれぞれ別の話になってしまうでしょう(笑)

 

 

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