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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2025.07.13,Sun
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Posted by tafuto - 2008.03.06,Thu

 

アブソーブゲートを後にした時には夜も更けていたので、ケテルブルクに一泊してから和平が締結されるユリアシティに向かう事にした。
(ピオニー皇帝からタダ券貰っていたので)ゆっくりとスパに浸かって疲れを取る。
こんな贅沢、初めてだ。一般庶民にはこんなとこ手がでねぇ。つい鼻歌が出る。
ヴァンの奢りの美味い飯食って、高い酒で祝杯を上げる。
ルークの食い方が綺麗なのにびっくりした。さすが貴族の教育をされた奴だ。
俺は正式なディナーの作法なんてしらねぇからな。
いい感じに酔っ払って、ふかふかのベッドで(ふかふか過ぎるぜ!)ぐっすり眠った。

 

翌朝、皆が揃った所に入ってきた奴を見て、俺たちは硬直した。
誰だよ、あれは!
そいつが話し出す。
「あ~・・・・・・ヴァン・グランツは死んだ。ここにいるのはヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデだ」

一瞬の沈黙の後、大爆笑が響き渡った。

髪をさっぱりと切って髭を剃り、ついでに眉毛も整えたヴァンは・・・・・・何処からどう見ても下っ端の新米騎士だった。 
あんたが髭生やしてた理由が、今やっと分かったぜ!
俺とルークとシンクは、その辺を転がりながら一生分くらい笑って、リグレットに譜銃をぶっ放されてやっと笑いを止めた。(ヴァンのアレはリグレット作らしい)

ルークは床に突っ伏して、時折痙攣している。シンクは仮面をすっ飛ばして涙を拭いている。
アリエッタはぬいぐるみに顔を埋めてプルプルしているし、ラルゴとディストは時々ブホッとか言いながら必死に窓の外を見ている。
俺も笑いすぎでぐったりした。
大地降下の時より消耗したんじゃねぇか・・・?
しょんぼりしたヴァンが、リグレットに慰められている。いかん、また笑いが。

「ヴァン、きっと誰もあんたってわかんねーぜ!」
微妙な表情のヴァンに、俺はイイ笑顔で親指を立ててやった。


アルビオールに乗り込もうとしていた俺とルークを、ディストが呼び止めた。
振り返った俺たちに二つの腕輪が差し出された。
「やっと完成したんですよ。これを着けていれば、大爆発は起こりません」
得意そうな笑顔のディストの眼の下には薄っすらと隈が出来ている。
忙しかったのに、俺たちの為に頑張ってくれていたのか。・・・ありがとう、ディスト。
「ああこれはアンチフォンスロットの原理を応用して・・・・・・」
感動したのも束の間、訳の分からん専門用語の嵐のような得意げな喋りと高笑いが響き渡った。
・・・・・・俺の感動を返せ。

「ディスト、感謝する。・・・疲れているんだろう? 少し休んでくれ」
「ありがとうディスト! やっぱテンサイディストサマだな!」
にっこり笑った俺とルークは、ディストを引き摺ってアルビオールに乗り込んだ。(ディストは『少し寝ろ』と個室に放りこんだ)

「へへ・・・アッシュ、おそろいだな! ・・・・・・良かった、これで二人で生きられるんだ」
「ああ、そうだな」
手首を回しながら嬉しそうに腕輪を見ているルークの頭をくしゃりと撫でる。
良かった・・・・・・お前の存在を乗っ取るなんて事が無くて、本当に良かった。

 


「良く来てくれました。・・・世界を救った功労者たち」
ユリアシティの和平締結の場に、イオンは笑顔で俺達を迎えた。
キムラスカ王とマルクト皇帝、ユリアシティの長が円卓を囲んでいる。
俺達は一斉に跪礼を取り、顔を上げた。
髭を剃ったヴァンを見て、ピオニーが口を手で押さえ下を向いた。肩が震えている。
やっぱりあんたも笑うよな!


「良くやってくれた! これで世界は滅亡を免れたのだな!」
インゴベルト王の上機嫌な声に、珍しく真剣な顔のディストが言葉を返した。
「安心するのは少し早いかもしれません。本来の地表を覆っていた瘴気はいまだ存在しています。外殻大地を降ろした事で瘴気をディバイングラインによって封じ込めはしましたが、数百年もすれば瘴気は地表に出てくるでしょう。これから数百年後を見据えて、人間は瘴気中和の方法を考えなくてはならないのです。戦争なんか起こしている暇はありませんよ」
その言葉にインゴベルト王が微妙な表情になった。・・・こいつ、まだ戦争を諦めてなかったのか。

ピオニー皇帝が爽やかな(わざとらしい)笑顔でインゴベルト王を促す。
「そうだな、その為にも恒久的な和平が必要だ。インゴベルト王、さあ、和平を締結しようではありませんか。これからは協力して瘴気中和の方法を考えなければ」
「・・・うむ、そうだな」
残念そうなインゴベルト王が頷く。

俺たちが見守る中、両国の和平は締結された。
これで、瘴気問題が片付かない限り戦争は起こらないだろう。

 

安心した様に微笑んだヴァンが、イオンに跪いた。
「導師イオン、私にはルークを誘拐した罪、アクゼリュスと落とした罪があります。私がダアトに残っては混乱を招きましょう。どうかヴァン・グランツは瘴気障害で死んだと伝えては頂けませんか」
「そんな・・・ヴァン、貴方は世界を救ったのに・・・」
「いえ、アッシュに諭されなければ、私はきっと世界を滅ぼしていた。そんな人間が人の上に立つ事は許されません。ダアトで私がすべき事はもうありません。・・・私はこれからヴァンデスデルカとして、子供たちに剣でも教えて静かに暮らそうと思います」
リグレットがヴァンに並んで頭を下げた。
「導師イオン、私もジゼル・オスローに戻ろうと思います。そしてヴァンデスデルカに付いて行きたいと思います。どうか我侭をお許しください」

何だ、あんた達いつの間に出来上がってたんだよ。・・・まあ良いか。良かったな、リグレット。
苦笑したイオンが頷いた。
「分かりました。・・・・・・お幸せに、二人とも」

「私もレプリカを作ってしまった罪があります。マルクトに帰って、これから瘴気中和の研究にかかりたいと思います。このサフィール・ワイヨン・ネイスの天才的な頭脳が必要とされていますからね!」
ディストがイオンに一礼した。いちいち一言煩い奴だ。・・・でも頼りになったよ。ありがとな。

皆、それぞれの道に進んでいく。
さあ、俺は何をしようか。気ままに旅でもしてみるか。
まだ行った事の無い所を、ルークにも色々見せてやりたい。きっと楽しいだろうな。
その経験が、こいつが立派な王になる為の糧になれば良い。

 

話が一段落して、俺たちが帰ろうとした時だ。
インゴベルト王が俺とルークに話しかけて来た。
「ルーク、アッシュよ。良くやってくれた、礼が言いたい。シュザンヌも顔を見たがっておる、バチカルまで来てくれんか?」
どうしようか考えているうちに俺とルークはヴァン達と引き離され、バチカル行きの船に乗せられてしまった。問答無用って奴だ。ヴァンに言伝をする暇も無かった。
護衛と言う名の見張りが俺達の船室を固めている。
不機嫌になった俺に、硬い表情のルークが話しかけて来た。
「アッシュ・・・俺、また閉じ込められるのかな? そんなの嫌だよ」
「俺だって真っ平ごめんだ。もしそうだったらさっさと逃げ出してやろうぜ。伊達に六神将なんざやってねぇ」
「そん時は、俺も連れてってくれよな!」
・・・お前は、キムラスカの次期国王じゃないのか? 俺だってお前と居たい。しかし・・・・・・


答えの出ないままバチカル港に着き、俺たちは謁見の間に案内された。
そこには王を初めとしたファブレ公爵夫妻や重鎮達が揃っていた。
「アッシュ・・・いや、ルーク・フォン・ファブレよ。良くぞキムラスカに帰還した。世界を救った英雄が次期キムラスカ国王とは鼻が高いぞ。これからはわが国の為に尽くして欲しい」

インゴベルト王の言葉に俺は愕然とした。
「何を言っているのです! ルークならここにいるでは有りませんか。俺はアッシュです!」
「そこのルークはお前から作られたレプリカだ、王位継承権なぞ無い。ようやく本物のルークが戻ってきたのだ、こんなに嬉しいことは無いぞ」
ルークが哀しそうに唇を噛んだ。ファブレ夫妻は複雑な表情でこちらを見ている。

・・・そうか、あんた達はルークを捨てたんだな!!

俺は怒りのあまりブチ切れそうになりながら、懸命に言葉を絞り出した。
「俺には記憶がありません。孤児として育ってきた俺は、もう王族ではありません。王族として育ってきたルークを放逐すると言うなら、俺も出て行きます。」
「な、何を言うのだルーク。国王になれるのだぞ! 施政はゆっくりと学べばよい。後継者はお前しかいないのだ。ナタリアはすでに廃嫡されておる」
俺の言葉にインゴベルトが慌てる。俺が断るとは思ってもいなかった顔だ。
「ルーク・フォン・ファブレは17で死ぬはずだったんだろう? なら後継者のはずが無い。 だったらいなくても良いじゃねぇか。」
俺はルークの手を取って、ファブレ公爵夫妻を振り返った。

「赤ん坊のようなこいつを、あなた方は以前の俺と比べ、勝手に失望してろくな関わりもせずに育て、予言の生贄にしようとした。記憶を失った俺が戻ってもきっと同じ事をしたんだろう?
俺は王族の教育なんかされてない、ただのダアトのアッシュだ! ・・・あんた達には失望した。こんな所にいられるか。 行くぞルーク!」
「アッシュ・・・うん、行こう!」
俺とルークはもう振り返りもせずに謁見の間を後にした。

背後で慌てたように俺を追えと命じるインゴベルトの声がする。俺たちは走り出した。
前方を塞ぐ兵士を避けて、庭園に飛び出す。そのまま壁に向かって突っ走った。


「ルーク、跳べ!」
「おうっ!」
一足先にたどり着いた俺が壁の前で手を組み膝を曲げる。
ルークが走る勢いもそのままに組んだ手に足をかけると、俺はその勢いを利用して手を跳ね上げた。
高い壁に乗り上げたルークが振り向きざまに俺に手を伸ばすと、間髪を入れず地を蹴ってその手に掴まる。引き上げる力と壁を蹴る力が合わさり、俺たちは壁の上に立ち上がった。
追ってきた兵士たちを揃って振り返りにやりと笑うと、俺たちは壁の向こうへと飛び降りた。
捕まってたまるもんか。こんな所はさっさとおさらばしてやる。

慌てふためく番兵や、昇降機に向かって走ってゆく伝令を次々に追い越して俺たちは走った。
誰も追いつけやしねぇよ。
俺たちを引き止められるものなんか、もうここには何も無い。
閉じ込められるのは真っ平だ。
俺たちは、自由なんだからな!


バチカルを抜け荒地に入っても、俺たちは走り続けた。
そのうち笑いがこみ上げて来て、二人でゲラゲラ笑いながら走った。
息が切れ、へろへろになっても俺たちは笑い続け、走り続けた。

ゼーハーしているルークが笑いながら俺の肩に手を掛ける。
「なあアッシュ! さっきのカッコよかった。『俺はただのダアトのアッシュだ!』ってさ。俺も言って良いかな? 」
「何をだ?」

ルークはバチカルに向かって振り返ると、剣を抜いて王族の証である長い赤い髪をばっさりと切り落とした。堂々と胸を張り、それを空に投げ捨てる。
そして自分の置いてきたもの全てに宣言するように高らかに叫んだ。


「俺はただのルークだ!!」




・・・そうだ、お前はただのルークで、俺はただのアッシュだ。

このまま二人で世界を見に行こうか。そんで時々ヴァンたちの所に遊びに行こうぜ。

 



埃っぽい道がどこまでも続いた草原には、気持ちのいい風が吹いている。

 

俺たちは肩を組んで、笑いながら風の中を歩き出した。

 


                                                                                                                                                    


                                                  END


 

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Posted by tafuto - 2008.03.05,Wed

 

大地降下は、最大のセフィロトであるアブソーブゲートから行う事になった。
何度もユリア式封呪を解いているヴァンの身体は、あと一箇所くらいが限界だろう。
ディストが流動化を止める装置をベルケンドやシェリダンと協力して作っているうちに、俺たちは報告の為にグランコクマへと向かった。大地降下の時期などを伝えておく必要が在るからだ。


グランコクマの謁見の間には、イオン一人が俺達を待っていた。・・・あのうるせぇ奴等はどうした。
イオンが俺達を見て笑いかけた。何か吹っ切ったらしいな。
「アニスは導師守護役の実力が有りませんので、罷免してダアトに戻ってもらいました。アリエッタ、これが終わったらしばらくの間守護役をお願いします」
「はい・・・イオンさま」
「ルーク、アッシュ・・・僕も貴方達に協力させて下さい。僕も、自分の為に生きたいんです。貴方達みたいに」
前のイオンともシンクとも違う、優しくて強い微笑だった。

 

ピオニー陛下とイオンによると、つい先日やっとあいつらがここに現れたそうだ。
「セントビナーが落ちる、戦争が起きるなんて古い話題を得意げに話すから呆れたぜ。ルーク、すまなかったな。あの馬鹿は降格したから勘弁してくれるか?」
ピオニー陛下がルークに頭を下げた。兵士からの報告で、あまりの不敬ぶりに蒼褪めたらしい。その他にも報告の義務を怠った罪で、ジェイドは軍位剥奪処分になったという事だ。


「ここまで遅くなったのは、僕がダアトへ送って欲しいと我侭を言った所為なんですが・・・ ダアトで僕とナタリアがモースに捕まってしまい、ジェイド達は助けてくれたんです」
「それはわかっている。問題なのはジェイドがそれを一切報告しなかった事だ。あいつの情報の隠匿のせいでどれだけ国が混乱した事か・・・」
イオンの言葉にピオニー陛下が苦笑した。
「おまけにナタリア殿下までここに連れてくるし。あいつはそう言う所が気が回らないんだ」
ナタリア姫は国に生存報告もしないでここまで着いてきたらしい。姫も使用人も何やってんだ。

「ナタリアは思い込んだら一直線なんだ。王様に止められたって言うのに勝手に付いて来ちゃうし」
ルークの言葉に俺とピオニーの口がポカンと開いた。それは初耳だった。
・・・・・・それは出奔したってことか? そんで国の一大事を放って他国の問題に口を出しに来たのか。・・・今頃あのお姫様、廃嫡されてるんじゃねぇのか。

「ハァ、良かった・・・さっさと帰して」
ピオニーが溜息をついた。イオンが微笑んで話を続ける。
「モースは、中立であるべきローレライ教団の大詠師が一国に有利な預言を教えた罪で、大詠師位を剥奪しました。今頃はダアトで服役しているでしょう。モースが勝手に罪を許したティアは、ナタリアの護衛の名目でキムラスカに送りました。アクゼリュスまでの不敬罪もありますから、道中の一部始終を書いた書状と共に」

・・・本当に強くなったな、イオン。(よほど腹に据えかねたとも言うかもしれないが)
イオンとピオニーに任せておけば、和平はあっさり締結するんじゃないかと思う。

 


ディストが装置を載せたタルタロスを地殻に沈めて地核の液状化を止めたあと、いよいよ大地の降下が行われる事になった。
マルクトにもキムラスカにもすでに話は伝わっている。今頃は危険地帯の住民の避難は済んでいるはずだった。
陛下たちが国民に何と説明したかは知らないが、イオンなら上手く預言から外れる道を選んだ事を民に伝えてくれたんじゃないかと思う。
実際、毎日生きる事で精一杯な一般市民に『預言は絶対だ』なんて考える奴は少なかった。
預言を詠んで貰う金もねぇ奴にとって、預言なんて教会に飾ってある綺麗な置物と同じだぜ。
それを解らなかったのは、偉い奴らだけだ。


ヴァンと六神将全員とルークでアブソーブゲートへ向かう。
ルークは俺達総出でしごかれた所為でけっこう強くなった。もう俺と肩を並べて戦えるほどだ。
迷いの無い小気味良い動きで敵に相対する。
自信がついた所為で小生意気にもなったが、うじうじしてるよりずっと良い。
お前になら俺の背中を任せても良いぜ。


長いダンジョンを戦いながら進んで行き、ついにパッセージリングにたどり着いた。
ヴァンがユリア式封咒を解いて膝を付いた。リグレットが介抱している。
息が荒い・・・・・・ヴァンは限界に近づいている。失敗できない。

シンクとアリエッタとラルゴに護衛を任せ、ディストが計算をはじめた。
いよいよ俺たちの出番だ。
ルークとぐっと手を握り合った後、二人揃ってパッセージリングに向かって手を翳した。
俺たちの手から光が溢れる。
ディストの指示に従って指示を書き込んで行き、二人で力を注ぎ込んだ。


重い地鳴りが響き渡る。俺たちから凄い勢いで力が抜け出していく。
大地は上手く降下しているのか? 今、空から見たら、どんな風に見えるんだろう・・・ 
いかん集中しなくては。朦朧としてくる意識を必死で繋ぎとめる。
永劫とも言える時間が過ぎ、地鳴りが止まった。
俺とルークは同時に座り込んだ。 
・・・ああ、だりぃ、しばらく動きたくないぜ。


へたり込んだ俺たちに、最後の試練が襲った。
「うっ・・・!」
「いてぇっ!」
二人揃って頭を抱える。頭の中に声が響く。 ・・・これで開放しろだと?
いきなり俺たちの手に光が溢れたと思ったら、剣と宝珠が現れた。
俺はルークと顔を見合わせる。
「なぁ・・・なんつってた?」
「ローレライがこれで解放しろとか何とか・・・」

・・・とりあえず休ませろ。 話はそれからだ。
俺とルークは二人してその場にひっくり返った。


小一時間休んで飯を食ったら、だいぶマシになった。
ローレライ解放についてみんなの意見を聞く。

「・・・いつだっていいんじゃない?」
とシンク。やる気ねぇな、お前。
「ぜひ見てみたいですねぇ!」
とディスト。お前の意見は聞いてねぇ。
「お前たちの好きにしなさい」
とヴァン。・・・顔色悪いな。
「どうすっか、アッシュ」
ルークが宝珠をもてあそびながらこっちを見る。(お前、投げてもいいが、落として割るなよ)

「んじゃ、今やっちまうか。何べんもこんなとこ来んのは面倒で嫌だ」
「ん、わかった」
ルークが投げて寄こした宝珠をパチリと剣に填め込む。
ひょいと立ち上がってパッセージリングの前に来た俺たちは、無造作にローレライの鍵を床に突き立てくるっと廻した。
俺達を中心に、巨大な譜陣が現れた。

「ちょ・・・あんた達、思い切りが良すぎるんじゃない?」
シンクの叫びが聞こえる。ヴァンが唖然とした顔でこっちを見ている。
・・・なんだよお前ら、好きにしろって言ったじゃねぇか。


譜陣から、朱金の焔がぶわりと吹き上がった。首を竦めるが熱くない。
(我はローレライ・・・我が見た未来が少しでも覆された事に驚嘆する・・・・・・)
へぇ、これがローレライか。口も無ぇのに何処からしゃべってんだろう?
(我を地核より解放してくれた事に感謝する・・・礼がしたい、何か望みは有るか)
俺とルークは目を見交わした。・・・・・・同じ事考えてるな。
「ヴァンの瘴気を持っていってくれ」
(たやすい事だ)
朱金の光は一瞬ヴァンを取り巻くと、天に向かって駆け上がっていった。


俺たちはローレライの鍵を引き抜くと、皆の所に戻った。
皆は呆然としている。
「なぜ・・・私の瘴気を・・・」
ヴァンが信じられないように声を出す。
ルークが俺を見て、ニヤッと笑った。

「生きることが預言を覆すことだって、アッシュが言っただろ!」

ヴァンの苦笑は、やがて晴れやかな笑い声に変わった。皆揃って笑い出す。

 

なあ、預言を覆すなんて、けっこう簡単なことだっただろう?

 




※あと一話です。どうぞよろしくお付き合いくださいv

Posted by tafuto - 2008.03.04,Tue

 

タルタロスを打ち上げると言うあいつらに隠れて、俺とルークはユリアロードを通って外に戻った。
アラミス湧水洞にはシンクとアリエッタが俺達を迎えに来ていた。
「やぁ、お疲れさん」
「アッシュ、ルーク・・・無事だった、です」
「ああ、心配かけたな。タルタロスの救助隊と住民もほとんど生き残ってるぜ。動けないから下に置いて来たが」

俺は上での出来事の報告を受けた。
ディストはマルクト皇帝に次にセントビナーが崩落する可能性が有る事を話し、速やかに住民の避難が行われる手筈になっていると言う。
その後ディストはベルケンドに行くと言うから、そこで合流する為に俺たちはベルケンドへ向かう事にした。これからの行動を決めなきゃならねぇからな。


「うわぁ~!すげぇ! 俺、空飛んでるんだ!」
空を飛ぶアリエッタのお友達の上ではしゃぎまくるルークを一発殴っておとなしくさせる。
「うるせぇ! 落ちても知らねぇぞ、しっかり掴まってろこのガキ!」
しゅんとするルークにシンクがちょっかい出して、また煩くなる。アリエッタが呆れ顔で見ている。
まあ良いか、打ち解けたみたいだし。

「なあ、アッシュ! シンクとイオンって、全然違うのな!」
「今さら何言ってる。俺とお前だって全然違うだろ」
「そうだよな!」
ガキっぽい全開笑顔でルークが笑う。・・・そうだ、お前にゃその顔が似合ってるんだよ。


野営の時、ルークが真面目な顔で話し掛けてきた。前衛に出させてくれと言う。
「何言ってんだ、お前は貴族だろう?」
「俺はもう貴族じゃねぇ! 守られるべき者じゃない。・・・・・・それに、あの旅で盗賊を斬った。俺の手はもう無垢じゃない」

あいつらはルークに人を斬らせたのか! 守るべき親善大使に! ・・・七つの子供に!
愕然とした俺にルークは叫んだ。

「俺は守られたいんじゃない、アッシュと対等になりたいんだ!」

強い眼差しでルークは俺を見る。
・・・ガキだと思っていたが、どんどん成長するんだな。ちょっと考えを改めるか。
「・・・わかった。でも実力はまだまだだからな。これからビシビシしごいてやるから、覚悟しとけよ」
「ありがとう、アッシュ! 俺、強くなるからな!」

妙にやる気を出したルークは、色々と手伝いをはじめた。
・・・気持ちはありがたく受け取っておく。しかし買出しは俺達に任せろ。頼むから。
バザーなんてなぁ値切るもんだし、お前の言いなりに高い食いもん買ってたら、俺の貯金なんてすぐに無くなっちまうんだよ!

 

ベルケンドにはもうディストが着いていた。あの趣味の悪い服は着ていない。(・・・良かった)
ディストは俺とルークの身体検査をすると、超振動とやらについて語り始めた。
俺は初耳だが、俺にもその力があるらしい。

「貴方とルークは、普通のレプリカと被験者では有りません。完全同位体なのです」
「それって何だ?」
ルークが首を傾げている。
「音素振動数まで完全に一致したレプリカと被験者は、あなたたち以外には居ません。だから本来アッシュしか使えない超振動がルークも使えるのですよ。・・・貴方達は、ローレライと同じ音素振動数を持つのです。ゆえに一人で超振動を起こす事が出来る」
「俺にも使えるって事か?」
俺の疑問にディストは頷いた。

「ええ、貴方は忘れてしまいましたが、幼い頃から貴方には超振動の実験がされていたのです。キムラスカの兵器となる為に。・・・・・・忘れて良かったのかもしれませんね・・・まあ、私が言って良い事じゃありませんが」
自嘲したように笑ったディストは、表情を改めた。
「完全同位体には、大爆発と言う現象が起きると言われています。被験者が音素乖離を起こし、最終的にレプリカの身体を乗っ取ると言う現象です。私はそれを防ぐ為の研究にかかろうと思います。まあこの天才ディスト様に任せておきなさい!」
大爆発・・・そんな事が起こるのか。俺は死にたくないし、こいつの身体を奪うのも嫌だ。
「・・・頼んだ、ディスト」

「えーと、テンサイディストサマ? 頑張ってくれよな!」
良く分かっていないルークがディストを励ます。
・・・そいつを誉めると調子に乗って煩いから、それ位にしておけよ。

 

これからの事を話し合っていた俺達の前に、いきなりヴァンが現れた。リグレットとラルゴを引き連れている。
警戒する俺たちにヴァンは自分の計画を語り始めた。俺に協力しろと言う。

・・・前から思っていたが、こいつの言う事は俺にはさっぱり理解できねぇ。

「アクゼリュスで俺たちは死ななかった。もう預言は覆されてるじゃねぇか。何で今さら預言どおりに人間を皆殺しにする必要があるんだよ」
ちょっと口篭ったヴァンが答える。
「・・・それがユリアの預言から開放される唯一の方法だからだ」
「死んじまったら、予言どころじゃねぇだろ!」
「違うな。死ぬのはユリアの亡霊のような預言とそれを支えるローレライだけだ。あれが預言を読む力の源となりこの星を狂わせているのだ。ローレライを消滅させねばこの星は預言に縛られ続けるだろう」

・・・やっぱりわからねぇ。預言どおり死んだってこいつのやる事で死んだって、死ぬ事に変わりはねぇだろ。

「何でローレライを憎むんだよ。預言を詠んだのはてめぇの先祖のユリアじゃねぇか。ローレライはユリアに使役されてただけだろ? おまけに2000年も閉じ込められて・・・ 憎むより先にユリアの子孫はローレライに謝るべきだろ? ローレライを解放すれば預言は読めなくなるんだから、それで良いじゃねぇか。預言に頼りきりの馬鹿な人間たちへの復讐になるだろ? せっかく消滅預言が覆されそうなのに、お前のやろうとする事は預言を後押しする事と同じだ。・・・一番預言に捕らわれてるのはお前じゃねぇか!」
瞠目し、言葉を失ったヴァンを睨みすえ、リグレットやラルゴにも届くように俺は叫んだ。

「滅びの預言を覆すってのは、生きるって事じゃねぇか! 生き残る方法を考えろよ!」


しばし無言の時が流れ、不意にヴァンが下を向いてくっくっと笑い出した。
「そうか・・・一番、預言に捕らわれていたのは私か・・・・・・そうだな、その通りだ」
ヴァンは真っ直ぐに俺を見た。
「育てた子供に教えられるとはな。・・・こんな事で贖罪になりはしないが、お前に協力しよう」
リグレットとラルゴも頷いている。リグレットは目が赤くなっている。
「フン、17のガキが居る歳じゃねぇだろ、ただの老け顔の癖に」
俺の照れ隠しにダメージを食らったヴァンが胸を押さえた。これくらいの苛めは許されるだろう?

立ち直ったヴァンが静かに俺たちを見た。
「アッシュ、ルーク。すまなかった。私はお前たちを利用していた」
ルークが俺の腕を握りながら一歩前へ出た。
「師匠・・・あの屋敷で、師匠だけが俺にちゃんと言葉をくれた。騙されていたとしても・・・俺は師匠の事、嫌いになれない」
そう言って俯いたルークの頭を、俺はぽんぽん撫でる。
「俺はまあ、何されたわけでもねぇからな。育ての親に馬鹿な事して欲しく無いだけだ」
「そうか・・・それでは育ての親として努力するとしよう」
今まで見たことも無いような穏やかな顔でヴァンが微笑んだ。


総長と六神将(+1)総出の『消滅預言根絶計画』はこうして開始された。(ちなみに全員辞職覚悟だ)

 

まずマルクトとキムラスカの開戦を防ぐ為、シンクがイオンに化けてキムラスカ王に会いに行った。
ルークが生きている事を知らせても、キムラスカの繁栄の為に戦争は止まらないだろう。
それならいっそ、消滅預言までぶちまけて、戦争を起こしても待っているのは滅亡だと言う事を知らせてやればいい。ヴァンが語ったパッセージリングの耐用年数の事を聞いて、戦争を起こそうと思う奴なんか居ないだろう。
その間ヴァンと俺たちはマルクトのピオニー皇帝の所に状況の説明と謝罪に行った。
俺とルークは、行程の間じゅう、リグレットに超振動の制御の方法を叩き込まれた。


アリエッタのお友達を乗り継ぎ、ディストの顔パスでグランコクマへと入る。
俺達はすぐに謁見の間に通された。
「お前がアッシュか! 俺の民を救ってくれた事に礼を言う。・・・ところでジェイドは生きているのか?」
ハァ? あの眼鏡、まだ報告していないのか? とっくに上に戻ったと思ったが。
「はい、ユリアシティで別れましたが、カーティス大佐は生きています。タルタロスに乗っていた救助隊と住民も、殆どが生き残ったと聞いております。負傷者はユリアシティで保護されています」
「そうか! 情報に感謝する。 ・・・あの馬鹿、一体何処で何やってるんだ」


そこにヴァンが進み出て、アクゼリュスを落とした謝罪を述べた。ルークも付き従うように頭を垂れる。
じっとヴァンの様子を見ていたピオニー皇帝が、話しはじめた。
「パッセージリングの耐用年数の事はサフィールに聞いている。アクゼリュスを落とさなければセフィロトの封呪が開かない事も。幸いな事にそこのアッシュたちのおかげで住民に被害は出ていない。アクゼリュスを落とした事は不問にしても良い。・・・・・・しかし、それでは貴公は世界を救うために協力してくれるのだな?」
「はい。愚かな私の贖罪として、誠心誠意、この身を尽くす所存でございます」
「そうか、わかった。・・・よろしく頼む」

 

外殻大地降下作戦を説明しマルクトの了承を取り付けると、俺達はキムラスカへと向かった。
キムラスカにも了承を取り付けなければならなかったからだ。ヴァンが俺を誘拐したという謝罪もある。
まあ、ヴァンが何もしなかったらルークは作られず、俺がアクゼリュスで死んでいただろうから、預言を知っていて黙認したキムラスカとしてはあまり強くは出られないと思うが。
両親の顔が見れるかと思って、俺は少し期待していた。


俺達は謁見の間に通された。シンクとアリエッタの姿も見える。モースはダアトに帰っているところだ。
シンクはあらかじめ計画の内容を説明し、キムラスカもそれを納得しているという。
ヴァンが進み出て、誘拐についての謝罪を述べた。
複雑な顔をしたインゴベルト王が、頷いてそれを受け入れる。ヴァンを罰してしまったら、大地を降下させる事が出来ないからだ。やはり繁栄の後の滅亡は嫌だったらしいな。

王の横にファブレ公爵が控えている。・・・あれが俺の父親か。
見つめる俺とファブレ公爵の目が合った。その視線はすっと逸らされた。
・・・・・・眼を、逸らされた。
隣のルークが哀しそうな顔になる。
計画の了承を取り付け謁見の間を後にする時、ルークが呟いた。
「父上は、俺をちゃんと見てくれたこと無いんだ・・・」
・・・お前もずっと、あんな冷たい眼で見られていたのか?

ルークが生存している事を見せて安心してもらおうと、ファブレ家にも顔を出した。
ルークは俺を母親と会わせたいみたいだったが。
病弱そうな女が、俺とルークを見比べて、可哀想にかわいそうにと繰り返しながら涙ぐむ。
ルークは微妙な表情をしている。
俺はなんだか今まで努力してきた事や楽しかった事まで全て否定された気がして、イラッとしてしまった。

「記憶が無い事はそれほど可哀想な事ですか? ・・・記憶のあった頃の俺は、可哀想ではなかったんですか」

動きを止めた女に、俺は静かに一礼して部屋を出た。
ここに、懐かしいと感じるものなんてひとつも無かった。
俺が憧れていた暖かいものは、失くしたんじゃない。・・・・・・最初から無かったんだ。

無言で屋敷を出る俺に、小走りでルークが追いついてきた。
気遣うように俺の顔を覗き込んで笑うと、立ち止まった俺の手を取って引っ張る。
「行こうぜ、アッシュ!」
「・・・・・・ああ」
繋いだ手は、暖かかった。 俺はその手を握り締めた。


キムラスカに来て唯一良かったと思う事は、アルビオールと言う空を飛ぶ譜業を借りられた事だ。
俺達はシェリダンへと向かい、完成したばかりのアルビオールを借りる事にした。
これで移動時間が大幅に短縮できる。アリエッタのお友達も疲れているからな。
ギンジと言う調子の良い男がパイロットとして同行してくれた。譜業オタクでディストと話が合いそうだ。

 

通常は、ひとつのセフィロトから全てを操作出来るらしいのだが、ヴァンがすまなそうに謝ってきた。
「すまん・・・シュレーの丘とザオ遺跡のセフィロトには、ちょっと小細工してしまった。プロテクトを解きに行かなくてはならん」
この時間の無いときに! と冷たい目で見られてヴァンは小さくなっている。
とりあえず崩落しかけているシュレーの丘に急いで向かい、パッセージリングの所まで辿り着いた。(こことザオ遺跡はもうイオンが封咒を解いてあった)

ヴァンがユリア式封咒を解き、俺が超振動の訓練がてらパッセージリングを書き換えた。
出力を少し上げ、崩落まで時間がかかるように調整する。(計算したのはベルケンドから引っ張ってきたディストだけどな。俺は書き込んだだけだ)
ルークは自分が次にやるんだからと、食い入るように見ている。
ディストは地核の流動化を止める装置の為に、振動数を測定していた。

ザオ遺跡では今度はルークが超振動で書き換えを行った。
(・・・お前な、貴族なんだから古代イスパニア文字くらい勉強しておけよ?)

ザオ遺跡を出たところでヴァンが倒れた。ディストの診察によると、瘴気障害に罹っているらしい。
「・・・ユリア式封咒を解く事で、汚染されたフォニムを体内に取り込んでしまうのだ。このくらい覚悟の上だ」
蒼い顔でヴァンが言う。
あんた初めの計画の時から生き残るつもり無かったのか? 身を尽くすって、この事かよ。

・・・・・・・・・大馬鹿野郎。

 

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