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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by tafuto - 2007.12.02,Sun




いよいよ出産の日が近づいてきた。
ルーは幸せだった。身体は辛いけど、大きくなっていくお腹に母性本能が湧き上がる気がする。
はじめて子供の動きを感じた時など、感激のあまりアッシュに抱きついて泣き出してしまった位だ。
その日も大きなお腹にしきりに話しかけていた。
「ん~v ルーク、ちっちゃいアッシュ。元気に生まれておいでv」

・・・あれ?なんかお腹が痛い気がする。

「い・・・痛たた・・・!」
慌てたのは周りの使用人たちである。
「お・・・奥様! ・・・誰か医者と産婆を呼べー!」
「城に行って旦那様に連絡を・・・!」


アッシュが城から息を切らせて戻ってきた時には、部屋には産婆が篭り、男性の立ち入りを禁じていた。中から苦しそうな声が聞こえる。
「う~! あっしゅ~!! 痛いよぉー!」
「大丈夫か! 頑張れルー! 俺はここにいるぞー!」
「アッシュー!」
「ええい!中に入らせてくれぇ! ルー!」
「いけません! 旦那様!」
「はなせぇー! ルー!!」
「ああっ! アッシュー!」
「いいか! 落ち着くんだぞー! ルゥーー!!」

(・・・いいからお前が落ち着けよ。)と、使用人の誰もが思ったが、もちろん口には出さない。
良い使用人は・・・(以下略)

 

実にこの夫婦、3時間もお互いの名前を叫びあっていた。(いいかげんにしろ!)
やっと子供が生まれた時、酸欠でひっくり返ったのはアッシュの方だった。
(こんな事があろうかと)待機していた医者がすぐさま気付けを嗅がせる。
「・・・無事、御生まれになりました。母子共に健康で御座います。」
ほにゃ~! と子猫のような鳴き声が聞こえる。
アッシュは恐る恐る近づいていった。
泣き腫らしたむくんだ顔で、ルーが微笑みかける。
「あっしゅ・・・えへへへv おれ・・・がんばったでしょ?」
「ルー・・・良くやった。・・・愛してるぞ。」

アッシュはルーの手を握ると滂沱の涙を流した。
人前で涙を流すなんて初めてだ。しかし不思議と恥ずかしいと言う感情は無かった。

・・・この日の事は、後に『ファブレ公爵、狂乱の一日』として(微笑ましく)長く語り継がれた。

 

「アッシュ~v ルーク、可愛くなってきたね! もう初め見たときは、猿の子かと思っちゃったよ。」
「・・・お前な、それは『俺』だぞ? お前でもあるんだ。猿はねぇだろ。」
(いや、最初見たとき俺もそう思ったが・・・)


豪華なベビーベッドに、赤毛の子供がすやすや眠っている。
ファブレ公爵に赤毛の男児が誕生した事を知ったインゴベルト王は、子供に『ルーク』という名を贈った。
この時点では、まだ『ファブレ公爵』は預言を知らされていなかった。
しかし、インゴベルトは知っていたのだろう。『聖なる焔の光』の行く末を。
上機嫌で色々な贈り物を寄こしてきたが、アッシュとルーは内心複雑だった。
預言を覆す為に、何とかしてインゴベルトの心を預言から離れさせたかったのだ。


「ねえ、アッシュ。インゴベルト王に、預言は絶対ではないと気付かせるには、どうしたらいいかなぁ・・・」
「・・・この時点じゃな・・・そうだ、ナタリアの事はどうだ?ナタリアは実はメリルだったと知れば、預言は絶対じゃないと考えるかもしれない。ラルゴにメリルを返せば、ラルゴがヴァンに付く事も無いだろう?」
「ああ!それいい考え!」

しかしアッシュとルーは考えもしなかった。
真実を知ったインゴベルトが、どのように変貌してしまうものかを、思いつきもしなかった。

 

「な・・・なんだと! それはまことか!」
平伏し、泣きながらしどろもどろに話す乳母の言葉に、インゴベルトは蒼ざめ、激高した。
「謀りおって! こやつを死罪にしろ! 子供も同罪である!」
「王よ! 子に罪はありません。なにとぞお慈悲を・・・!」
アッシュは驚愕した。自分達の世界では気弱さゆえに預言に頼りきっていたインゴベルトが、ここまでするとは思っていなかったのだ。
インゴベルトは憎しみに満ちた目でアッシュを睨みつけて来た。
「わしの子は死んだと言うのに・・・ お前は子を授かってさぞ幸せであろう。だがな・・・お前の子も死ぬ運命なのだ! キムラスカに捧げられて17で死ぬのだ! ハッ、ハハハハ! わしの子だけを死なせはせんぞ! クリムゾン!」
狂気のように笑いながら、インゴベルトはアッシュに預言を告げた。

(しまった・・・話したのは完全に逆効果だった! すまない、ルー・・・)
跪いたアッシュは、きつく唇を噛んだ。

 

乳母は死罪に処せられた。赤子はアッシュがこっそり手を回し、産着に血を染み込ませた物を切り取った髪と共に見せ、死んだ事に見せかけた。
信用の置ける者に赤子を預け、砂漠の獅子王を探す。
使者はクリムゾンの使いである事は隠して、ケセドニアでバダックにメリルを返した。
当座の生活資金と共に使者に託された手紙にはこう書いてあった。
『乳母は助けられなかった、すまない。俺は預言に踊らされるこの世の中を変えたいと思っている。いつか、協力して欲しい。 -アッシュ-』


「・・・すまん、恩にきる。この借りはいつか必ず返そう。」
砂漠の獅子王は、赤子を抱くと静かに消えていった。

 

インゴベルトの預言に対する妄信ぶりは、あの一件以来ますます酷くなっていった。
真実を知らせたアッシュを恨み、アッシュの言葉に耳を貸そうとしない。
アッシュからインゴベルトの様子を聞いたルーも、何とか考えを変えてはくれないかと面会を希望したが、あれほど優しかった『シュザンヌ』にも会おうとしなくなってしまった。


一年後、ホドへの侵攻を命ぜられた。
預言に詠まれているからと言う、馬鹿げた理由だった。


「拝命、仕りました。」
今のインゴベルトに何を言っても無駄だ。最悪、こちらが謀反人として処罰されてしまう。
アッシュはホドへと出兵する事になった。
(ホドは崩落する・・・このままでは兵もホドの住民も無駄死にだ、何とかして助けられないものか・・・)

 


夜の闇にまぎれて、一人の人影がガルディオス邸へと忍び寄って行った。
「何者だ!」
「お静かに・・・私はキムラスカのファブレ公爵の使いです。どうかガルディオス伯へ取り次いでいただきたい。」
使者は番兵にファブレの家紋のついた指輪をそっと見せた。


武器を取り上げられ、数名の兵に見張られて使者は応接間へと入っていった。
室内にはガルディオス伯が待っていた。
「貴公がファブレ公の使いという者か。」
「正確には、使いでは有りません。」
使者はマントとかつらをするりと取り去った。深紅の髪が肩に流れた。
「な・・・クリムゾン殿! 貴公自らいらしたと言うのですかな。」
「左様。・・・内密に話を聞いていただけますか。私は王命に逆らえずこの地を攻めたが、ホドにはある預言が詠まれている。これはマルクトにとっても重要な事。」


ガルディオス伯が人払いを命じた後、アッシュはホド崩落の預言を打ち明けた。
人為的に発生させた超振動によってホドが崩落する事、そしてフェレス島も津波で沈む事。
蒼白になるガルディオス伯に、アッシュは続けた。
「私は無辜の民を犠牲にしたくは無いのです。このままではホドの住民、兵士、全てが命を落とすでしょう。キムラスカの兵はなるべく海岸沿いに布陣させています、しかしホド攻略を命じられた私に、ホドの民を救う手立ては無いのです。貴公に手を打っていただきたい。」

真摯な瞳で語りかけるアッシュに、ガルディオス伯は息を呑むと頭を下げた。
「・・・感謝する、ファブレ公爵。研究所でなにやら行われているとは思っていたが、まさかそんな事があったとは・・・謀反人になる危険を冒して知らせてくれたとは、言葉も無い。」
「感謝には及ばない。俺は、預言なんぞに負けたくないだけだ。信じてくれて、感謝する。」

アッシュはニヤッと笑うと、また闇にまぎれて帰って行った。
アッシュを見送ったガルディオス伯はふっと笑うと、傍らの娘と腹心の部下に振り返った。
「さあ、忙しくなるな。ホドの民を逃さねばならん。兵はのらりくらりと戦うふりをしながら少しずつ撤退させれば良いだろう。クリムゾン殿を信じよう。」


ガルディオス伯はフェンデ家の者を真っ先にホドから逃そうと試みたが、皇帝の命によりそれは叶わなかった。預言保守派である現皇帝は、ホドを救う気は無いらしい。
ひと月ほど後、ヴァンデスデルカ少年が研究所へと拉致され、その数刻後に巨大な地震がホドを覆った。アッシュはすぐさま兵を船に引き上げさせ、ホドを離れた。
間一髪で津波を乗り切ると、そこにはただ海原が広がるだけであった。ホドも、フェレス島も消失していた。
「ガルディオス伯は、無事に逃げ出せたかな・・・」
アッシュは海を見ながら、そっと呟いた。

 

無事に戻ってきた『クリムゾン』を忌々しそうな目で見ると、インゴベルトは次々に戦いの場へと送り込んだ。『ルーク』が生まれた以上、クリムゾンはもう必要ない。インゴベルトはクリムゾンに出来れば死んで欲しかったのだ。

マルクトと停戦するまで、アッシュは実に一年以上戦場を渡り歩いた。
『クリムゾン』と『鮮血のアッシュ』の経験を併せ持つアッシュは、誰よりも巧みに戦場の指揮を取った。最小の犠牲で最大の成果を挙げるアッシュに、インゴベルトの思惑とは裏腹に国内の評価は高まっていった。

 

「アッシュ~!!」
昇降機で上がってきたアッシュの目に、スカートをひるがえして走ってくるルーの姿が映る。
涙で顔がぐちゃぐちゃだ。そのままアッシュの胸に飛び込んでくる。
「アッシュ・・・無事で良かった・・・心配してたよ・・・」
「コラ。ここで『アッシュ』はまずいだろ?」
「ん・・・お帰りなさい。・・・あなたv」
泣きながら微笑むルーをがっちりとホールドすると、アッシュはそのまま口付けた。

2分、3分 ・・・4分。

後ろに整列している部下達が、どんどん居た堪れないような顔付きになって行く。
屋敷からルーを追って来た使用人達は、(ああ、久しぶりに見るな・・・)と言う生暖かい視線だ。
5分を過ぎた頃、遠慮がちな声がかけられた。
「あ~・・・ファブレ公爵殿。今日はごゆるりとなされて、明日登城なさってくだされ。」
「そうか。ゴールドバーグ将軍、感謝する。それではこれで解散!」
アッシュはひょいとルーを抱き上げると、そのまま(口付けを交わしながら)屋敷へと入っていった。


「・・・ちきしょ~ ・・・俺も早く嫁さん欲しい・・・!」
後には男泣きする部下が残された。(ちなみに半数は妻の元に走っていった。)


次の日げっそりと疲れ切った様子で登城したアッシュに、さすがにインゴベルトは後ろめたそうな顔になったが、部下達は心の中で呟いた。
(違います、この人昨日までは元気でした! きっと一晩中・・・ううっ! 羨ましい~!)

 


 

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