シリウスの子育てが始まった。
膝の上にルークを座らせ、体をマッサージしながらゆっくりと動かしていく。
「体に、どうしたら動かせるのかを覚えさせるんだよ。・・・焦らずに」
ルークは記憶を取り戻しているので、意識ははっきりしている。ただ、それを表現できないだけだ。
シリウスは話しかけ、説明しながら少しずつ体が動くようにしていった。
同時に、発声練習も。
「言葉が話せるようになったら、アッシュと連絡が取れるよ。そのための譜業を作るのに、俺はとっても頑張ったよ。誉めてくれるかい?」
俄然張り切ったルークは、あー、いー、うーとか、うるさいほど張り切り、一週間で片言なら話せるようになった。そして座っていられるようになった。
ある日クリムゾンに許可を貰い、シュザンヌに面会させる事にする。
クリムゾンはまだ戸惑いが強くあれから息子に会いに来た事は無かったが、成果を見てくださいと言うと、しぶしぶ同席することを約束した。
二人の居室に、ルークを抱いて行く。
父と母の顔を見たルークが、ぱっと顔を輝かせ、満面の笑みで手を差し伸べる。
「ちちうえー・・・ははうえー」
「・・・ルーク!」
ベッドの上に座らせたルークをシュザンヌが抱きしめる。喜びの涙を流している。
それを見ていたクリムゾンに、シリウスは話しかけた。
「ルーク様は、以前の記憶は失っておられるようですが、知能は損なわれてはいません。利発なお子様です。赤子と同じでこれからどんどんご成長なされるでしょう。・・・失ったのでは無いのです。やり直す機会が与えられたのです」
その言葉に、哀しそうに、しかし喜びを含んで目元を緩ませたクリムゾンは、そっとルークに近づくと、頭に手を置いた。振り向いて嬉しそうに笑うルークに愛おしさが込み上げて来る。
しかし同時に預言の事を思うと、身を切られるような痛みが心を襲うのだった。
辛そうに微笑むクリムゾンを、シリウスとルークはじっと見ていた。
「ちちうえ、に、はなし、だめ・・・?」
部屋に帰ってから、ルークはシリウスに言った。『以前』は分からなかった父の内心が理解でき、辛くなってしまったのだ。
「・・・そうしたいんだけど、少し早すぎるよ。もう少し君が話せるようになって、説明できるようじゃないとね。機を見てそれとなく俺が預言について話してみるよ」
「ん・・・」
「さあ、今日は一緒に歌を歌おうか。目指せ!アッシュとおしゃべり! だよ」
「ん・・・!」
テラスでシリウスと歌うルークの歌が随分上手になってきた頃、シリウスはアッシュに連絡を取った。
「ここを押すと向こうが振動して連絡が来たのを知らせるんだ。向こうから返答があった時点で話すことが出来る。他人といる時にいきなり話すのは不味いからね。周囲に誰もいないのを確認して、話すこと。切る時はここ」
「わかった!」
ボタンを押して5分ほどすると、返答があった。息を切らせている。
「ル・・・ルゥ! お前か!」
「あっしゅー! ひさし、ぶりー」
「話せるように、なったのか・・・」
「まだ、ゆっくり、なの」
「・・・・・!(ぐはっ!)」←クリティカルヒット
なんか向こうのアッシュの様子がわかるなーと思いながら、シリウスが割り込んだ。
「アッシュ、今日は突然だったけど、そっちの都合のいい時間帯をルゥに教えておいてね」
「シリー! 久しぶりだな。お前が行ってからのヴァンの野郎の様子はなかなか笑えたぜ」
くっくくと思い出し笑いをするアッシュに溜息をつく。
「まあ、あんまり苛めないであげてよ。 ・・・ルゥとの話は、初めは短めにね。喉が疲れちゃうから」
「わかった」
「ええー、いっぱい、はなしたいー」
ルークの頭をぐしゃっと撫でると、二人の時間を邪魔しないようにシリウスは退室した。
半年も経つと、ルークは外見年齢相応の行動が出来るようになった。
『以前』も7歳児だったので、逆行してもかえって違和感が無いくらいだ。
天真爛漫に笑い、子供らしい行動をするルークに、初めは誘拐前の『ルーク様』と比べていた使用人達もだんだん絆されていった。
『以前』苦労したので、他人を思いやる優しい気持ちが前面に現れていたのだ。
一緒に花壇の世話をしている時のペールなんか、メロメロだ。ガイは今回ルーク様付きでは無かった為、複雑そうにそれを見ている。
クリムゾンも、ルークが無邪気に慕ってくるのに、戸惑いながらも絆されていた。
シリウスとルークがテラスで歌うのを(発声練習代わりが習慣になっていた)部屋の窓からこっそり覗いているのが何度も目撃された。とても優しい目をしていたという。
シュザンヌもたびたびルークに会いたがった。具合の悪そうな時でも、ルークが訪ねると身を起こして抱きしめた。
あるとき、酷く調子を崩したシュザンヌにシリウスが回復を申し出た。
ルークが泣きそうになりながら頼んだのだ。
優しく紡ぐハートレスサークルにシュザンヌの顔色は良くなり、クリムゾンにも喜ばれた。時々回復の譜歌を謡うようにすると、シュザンヌは寝たきりでなくても良い位、体調が良くなっていった。
シリウスがルークにベンチで御伽噺を聞かせているのを、窓から一緒に聞いている事もあった。
一度、悲恋の物話をしていたらルークとシュザンヌに泣かれてしまい、騒ぎ出したメイドたちにシリウスは慌てて謝った。
閑話? 花畑でピクニック ルゥ歌う
ここ数日調子の良かったシュザンヌに、ルークはおねだりをしてみた。
裏庭の一角にルークが蒔いた草花が花を開き、綺麗なお花畑になっていたから、見せたかったのだ。
「ははうえ、お体が平気なら、お花畑をみにいきませんか?」
「ルーク様が裏庭に育てられた花が、とても綺麗に咲いていますよ。軽く摘める物でも持って、外でランチでも致しませんか?」
シリウスも笑って言葉をかける。
「まあ、素敵ね。ねぇあなたもご一緒にいらっしゃいませんか?」
「うむ、・・・そうだな」
妻の願いに、ちょうど休日だったクリムゾンも珍しく付き合うことになった。
こうして、ささやかなピクニックが開催される事になった。
普段人もあまり行かないような裏庭は、ルークが蒔いた花の種が、一面の花畑になっていた。
穏やかな光が降り注ぎ、気持ちの良い風が吹いている。
花畑の真ん中の開いている場所(花を潰したくなかったルークが其処だけ種を蒔かなかった)に、防水の毛氈をひき、クッションを重ねた上にシュザンヌがもたれかかる。膝掛けがそっと掛けられた。
摘みやすいように作られた可愛いお弁当と、口当たりの良い飲み物が配られた。
「とても綺麗ね、ルーク。素敵だわ」
嬉しそうに笑ったルークは、小さな花冠をシュザンヌに乗せた。
「ははうえが、元気になりますように」
「まあ、ありがとうルーク」
微笑を浮かべるシュザンヌ。ルークはクリムゾンの首にも花輪をかけた。
「ちちうえも」
照れくさそうな仏頂面の耳が赤い。護衛の兵士やメイドたちは、微笑ましくそれを見守った。
ルークがシリウスと練習していた歌を披露する。
幼いが一生懸命な歌声と綺麗に澄んだ声のハーモニーが流れる。
シュザンヌたちはそれに聞き惚れた。
幸せな、午後であった。
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