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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2024.04.30,Tue
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Posted by tafuto - 2007.10.09,Tue

逆行 黒アシュルク
 
ティアとガイとジェイドに酷いです。この3人の好きな方は、読まないほうがいいです。
流血描写がありますので、ご注意下さい。

 

ネタ


逆行前は二人とも世界に絶望してたアシュルク。二人で生きられないから二人で死んだ。
ルーク誕生時に逆行。レベルそのまま。大譜歌歌える。超振動第二まで完璧コントロール。
最強アッシュ。ルークも逆行してるが、生まれたての時はまだそこまで強くない。
生まれながらにフォンスロット開いてる。
コーラル城でヴァンたち皆殺し。ルーク連れて超振動で帰宅。
預言ぶちまけ父母王様脅してルークを育てる。
インゴ王と王位継承者、皆暗殺して、ナタリアはメリルだとばらして追放。
父親を傀儡に王位を継ぐ(王はアッシュ)ファブレ公が摂政だが、実際仕切ってるのはアッシュ。
ローレライを解放して、ルークと二人で大譜歌を歌って契約してしまう(二人の身体に取り込む)。これで二人とも名実共に最強。大爆発も無し。生き神様。受肉したローレライ。
ダアトにローレライ示してユリアの再来としてダアト併合。モースとっとと殺す。ユリアシティもこっそり併合。ピオニーが皇帝になったら即、和平(少々強引に)締結。預言ばらして協力させる。
地核の流動化を何とかして。恒久的にね。ロレ居ないから何とかなるでしょ。
逆らったら殺すよ。第七音素はアスルクが握ってるから、治癒術使えなくなるよ。良いの?とか言って。
外殻大地下ろして、瘴気が発生したところで、世界中に見せ付けるように瘴気中和(軽い軽い!)
世界中に崇め奉られる。
マルクトそのうち併合。
あら、幸せになっちゃった。
 
 

 

 

 

 

                                                                                   『  箱庭ゲーム 』  

 


その瞬間、アッシュの壮絶な人生の記憶と、諦観、哀しみ、世界に対する絶望が押し寄せてきた。
自分に対する執着にも似た愛情も。
 

ルークはゆっくりと自分の元に降りてきた愛しい半身を抱きしめ、最後の時を待っていた。
二人で生きられないなら、二人で死にたい。もう、帰りたいとは思わなかった。あんな冷たいだけの世界になんか。

アッシュの絶望は、そのままルークの絶望でもあった。二人は同じことを思っていたのだ。
ローレライが何か言っている。アッシュはルークの記憶を融合して戻れるのだと。
しかし二人分の絶望を抱いて、生きられるものだろうか。
アッシュはきっと狂ってしまうだろう。

自分の哀しみがアッシュに融けていく。混ざってゆく。
ダメだ!

(アッシュ(ルーク!・・・こんな世界なんて、いらない!!))

光がはじけた。
 

 

目の前に、愛しい焔があった。
伸ばした指先が幼い。アッシュは自分が過去に戻ってきたのだと知った。ここはコーラル城、ルークが作られた場所だった。

(アッシュ、アッシュ・・・)
ぼんやりと虚ろに眼を開いたレプリカから、混乱と歓喜の感情が伝わってくる。
ああ、これは俺の半身。何より愛しい聖なる焔。またお前に会えたのか。
(ルーク、愛している。お前を苦しめるものは、俺が全て消してやる)
(アッシュ、愛してる。ずっと一緒に居よう。他には何もいらない)

アッシュは微笑んで振り返り、ヴァンに近づいていった。ヴァンが驚いたように見返してくる。
「せんせい、さよなら」
掌に光が溢れ、光りが消えた時にはそこには誰もいなかった。ヴァンも研究者達も、誰一人残さず消し飛んでいた。
「ルーク、帰ろう」
ルークを幸せそうに抱きしめると、アッシュは超振動を発動させた。
 


バチカルのファブレ邸の中庭に光が溢れ、二人の姿が現れた。
白光騎士達は驚愕し、クリムゾンの元に走る。
マルクトに誘拐されたはずの子息が現れたからだ。それも二人も。
駆けつけたクリムゾンにアッシュは冷笑する。
「父上、良かったですね。キムラスカの贄が帰還しましたよ。ああ、俺を誘拐したのはマルクトじゃなくヴァン謡将ですから」

青ざめ瞠目するクリムゾンに人払いさせると、アッシュはゆっくりと預言を語りだした。
オールドラントの消滅までの、全てを。
愕然と膝を突いたクリムゾンに、アッシュは言い放った。
「俺たちはローレライの同位体。受肉したローレライです。もう、貴方達の思い通りにはさせませんよ。俺の手駒になってください。俺たちの邪魔をするなら、誰であろうと消すだけです」
そしてゆっくりと中庭に入ってきたシュザンヌに微笑みかけた。
「母上も知っていたでしょう? 俺が辛い実験を受け続けていたことも、17で死ぬと詠まれた事も。少しでも自分達を親だと思うなら、俺たちの邪魔はしないで下さい。貴方達を殺すのは、ルークが悲しむから」

青ざめた二人を放って、アッシュはルークを抱いて部屋に向って歩いていった。振り向きもせず話を続ける。
「ああ、今日から俺の名はアッシュです。こいつはルーク、俺の半身です。こいつに何かしたら、俺は誰であろうと決して許さない」
バタン、と離れのドアが閉まった。クリムゾンとシュザンヌは動く事が出来なかった。
 


二人になって戻ってきた子供たちは、決して離れようとしなかった。
『アッシュ』と改名した子息は、赤子のような『ルーク』の世話を誰にも任せず、嬉々として行っていた。
アッシュに言われて、クリムゾンはルークを遠い親戚の貴族の娘に産ませた自分の子を引き取ったのだと説明した。そっくりな二人に、それを疑う者はいなかった。

クリムゾンはアッシュの意のままに動いた。逆らえばすぐさま自分も妻も死を迎えただろう。それに預言を受け入れても向かうのは世界の消滅である。アッシュの思い通りにする他に道は無かった。

クリムゾンはインゴベルトに消滅預言を告げた。
慌てて城に呼ばれたアッシュはルークを伴ってインゴベルトの私室に向かい、ローレライの力を少し見せ付けた。
「お分かりでしょう?俺たちは受肉したローレライ。世界の行く末を握っている。世界の消滅を防ぎたかったら、言うとおりにして下さい。ああ、証拠に良いことを教えてあげます。本当のナタリアは生まれたときに死んでいますよ。乳母に聞いて御覧なさい、あれは乳母の娘の子です」
インゴベルトは乳母を問い詰め、それが正しかった事が証明された。
乳母は死罪になり、ナタリアは公式には死亡したとされ、メリルとして暮らす事になった。
 


ルークは順調に力を取り戻し、2年もする頃には死ぬ前位の能力になっていた。
アッシュが付ききりで勉強や剣術を見ていたのだ。二人は一時も離れようとしなかった。
風呂も一緒に入り、寝る時はぴったりと抱き合って眠った。

「ルーク、世界をどうしたい?お前が望むなら、全てを壊してやってもいい」
「ん~ ・・・アッシュとずっと一緒にいたいから、壊すのは嫌だな」
「じゃあ、面倒だが、存続させる事にしようか。良いことを思いついたんだ。このままじゃ、大爆発が起きるだろう?」


二人が14になった頃、クリムゾンに船を準備させて二人はラジエイトゲートに降り立った。
セフィロトでローレライと通信を試みる。しばらく後、頭にローレライの声が響き、ローレライの剣と宝珠が送られて来た。二つをあわせ、ローレライの鍵を作り上げる。
二人で鍵を持ち床に突き立て回すと、譜陣が表れた。

(聖なる焔の光よ、よくやってくれた。我を開放してくれたのだな)
朱金の光が立ち上り、人型を取る。
アッシュとルークはにやっと笑うと、二人揃って大譜歌を謡いだした。
(な・・・何をするつもりだ!)

大譜歌が終わると、アッシュは楽しそうに笑い出した。
「なぁに、お前と新たに契約しただけさ。俺たち二人に、お前の能力を全て貰う。これで世界は俺たちの思うがままだ。お前で補えば大爆発なんて起らねぇからな!」
「ローレライと同位体の俺たちなら、お前を取り込んでもヴァンやモースみたいに変異したりしない。まあ、俺たちが飽きるまで、俺たちの中で人間ってものを見てみたら良いじゃん。地核にいるより楽しいぜ、きっと」
楽しそうな二人の笑い声は、いつまでも響いていた。
 

二人がバチカルに戻ると、インゴベルトが急死していた。アッシュの目が笑っている。
(アッシュがやったの?)
(そろそろ実権を握ろうと思ってな。煩そうな貴族にはもう手をうってある。今キムラスカで王位継承権を持っているのは俺とお前だけだ)
(王様のアッシュ、かっこいいだろうね)
(まだ若すぎるが、待っていられねぇ。父上に形だけ摂政に付いて貰えば良いだろう)

喪に服したバチカルを屋敷に向かって歩いてゆくと、人々が次々と膝を突いて行く。
皆、解っているのだ。紅の髪の少年が次の王だと。
屋敷に戻ると、クリムゾンがアッシュに膝をついて迎えた。家臣の礼だった。
「良くぞ御戻りになられました。貴方様が次代の王で御座います」
「許す、顔を上げよ。準備が出来次第、王宮に向かう。用意せよ」
「はっ」

こうしてアッシュは若き王となった。
若すぎると侮る古参の貴族達には容赦しなかった。摂政にクリムゾンを置き、傍らにルークを従えた堂々たるその姿に、不満を口にするものはいなくなった。
荘厳な戴冠式が行われ、神々しいその姿に市民は熱狂した。

戴冠式の後のパーティーで、ダアトから来ていたモースがこっそりクリムゾンに詰め寄っていた。
「何故預言通りにしないのですか! 聖なる焔の光は、ND2018に鉱山の町で死ぬはずでしょう! それによってキムラスカに繁栄が訪れるのですぞ!」
「繁栄の後の滅亡もな・・・ 衛兵!この者を捕らえよ! 我らが王の死を願う不届き者だ!」
「な・・・何を!」
怒りをあらわにした兵士達が、モースに剣を向ける。皆、アッシュに心酔していたのだ。

「何事ですか・・・」
モースが拘束されたところに、導師イオンがやって来た。
「導師イオン、この者は我が王の死を願う発言をしたのです。大詠師といえども、到底許せるものではありません。教団では確か、死の預言を詠む事は禁止されているはず。大詠師ともあろう者がそのような事をするはずがありませんので、我が王を嘲笑したのでしょう」
「そ・・・それは・・・」
イオンは青ざめた。モースが秘預言をキムラスカに漏らし、キムラスカがそれを受け入れなかったと知ったのだ。
「それに、我が王を10歳の時に誘拐したのは、現在行方不明になっているヴァン・グランツだという証言もあるのです。これは公にはしていませんが」

クリムゾンが小声で囁くと、イオンはふらつき、倒れそうになった。
それを支える手があった。紅と朱の髪を持つ二人の少年だった。
クリムゾンと衛兵達がすっと膝を付く。
紅と朱は鏡に写した様に微笑んだ。

「導師イオン。教団は世界の滅亡を望むか?」
「我らはユリアの再臨、受肉したローレライ」
「教団は新たなローレライの手を取るか」
「古のユリアの残した世界の破滅を望むか?」

二人の身体から朱金の光が噴出し、くるくると舞い散りながらイオンの身体に吸い込まれた。
いままで重かった身体が、すっと楽になったのが感じられた。
「導師イオン、貴方の死の預言は覆された」
瞠目したイオンは、表情を改めると、二人に膝を付いた。深く礼をとる。

「ローレライ教団は、ユリアの再来である新たなるローレライの下に集いましょう」
「何を言っているのです、導師イオン! 預言を蔑ろにするおつもりか!」
「新たなユリアの出現したことにより、古い預言はもう意味を成さないのです。ユリアに従うのが教団の務め。モース、貴方の大詠師位を剥奪します。 ・・・この者の処分は、キムラスカに一任致します」
アッシュが頷くと、モースは引き立てられていった。二度と顔を見ることはないだろう。

「新たなるユリアよ。ぜひ一度、ダアトにもおいで下さい。皆、喜びましょう」
イオンは深く礼を取ったまま請う。
「ああ、そうさせて貰おう」
焔たちは、微笑みあった。ダアトがキムラスカに下った瞬間であった。


半月の後、ダアトを訪れた焔達は、ローレライの奇跡を見せつけた。
膨大な第七音素が降り注ぎ、病んでいた者、怪我をしていた者がすっかり回復してしまったのだ。
ひれ伏す人々に焔は告げた。
「古い預言などというものは、もう意味をなさない。ユリアは世界の滅亡を預言していた。それを覆す為に我らが生まれたのだ。滅亡を回避したかったら、預言を捨てよ」
こうして教団は、預言を捨てたのだった。
 
導師を伴って、ユリアシティにも足を伸ばす。
突然表れた導師とキムラスカの若き王に、ユリアシティは慌てふためいた。
導師はテオドーロを初めとする主だった者を集め、話し出した。ユリアの再来が生まれ、預言はもう意味を成さなくなったのだと。
半信半疑の一同に、アッシュとルークはユリアシティの周囲の瘴気を消すことで証明して見せた。

「監視者の町は、もうその役目を終えたのだ。今までご苦労であった。これからは自由に生きるが良い」

アッシュの言葉に、テオドーロは感涙に咽んだ。膝を付き、深く礼をとる。周りも次々にそれに倣った。どの顔も感激に輝いている。
「ありがとう御座います、新たなるユリアよ。我らは役目を果たし終えたのですね。ユリアシティはこれより貴方様に忠誠をお誓い申し上げます」
「頼りにしている」
アッシュは笑って頷いた。


帰還の為ユリアロードに向かう一行の前に、突然飛び出してきた者があった。
「ちょっと待ちなさい! 兄さんをどうしたの!」
随行していた騎士が、その女を捕らえる。譜歌を謡って逃れようとした女にアッシュが手を翳した。パシッと音がして、譜歌の効果が打ち消される。

驚く女にアッシュは嗤った。
「ヴァンデスデルカの妹か。常識知らずは遺伝か?ヴァンは俺を10歳の時に誘拐し、コーラル城で消息を絶った。犯罪者が今どこにいるかなんて俺が知るわけがないだろう?」
「でたらめを言わないで!貴方が何かしたんでしょう!」
アッシュを睨みつけ侮辱する態度に、騎士達の目に殺気が篭る。
「メシュティアリカ!何と言うことを! この御方はキムラスカの王、ユリアの再来であるぞ!」
テオドーロが慌てて駆けつけてくるとアッシュの前にひれ伏した。
「申しわけ御座いません! 王よ、なにとぞお許し下さい。ユリアシティは真実貴方様に忠誠を誓っております!」
「お爺様、何を言っているの! こんな人のでたらめを信じるの? きっとこの人が兄さんを殺したのよ!」

喚き散らす『ユリアの子孫』に、騎士ばかりか導師やユリアシティの人間の目にも怒りと侮蔑が篭る。僅か10歳の子供がどうやってダアトの主席総長なぞ殺せるのだ。我らが王に何たる不敬を、と。

アッシュとルークは目を見交わして笑い合った。
(馬鹿だねこの女、自分から墓穴を掘ってくれたよ?)
(どうやって消してやろうかと思ってたんだ、丁度いい。これで少しはすっきりするぜ)
アッシュは表情を消して、テオドーロに向き直った。
「テオドーロ殿、一国の王に対するこの態度、どこまで不敬を続ければ気が済むのか。 ・・・誠意ある処置を望むぞ。古いユリアの血なぞ、後生大事に取って置く事はあるまい」
「ははっ、仰せのままに」
「お爺様!」

悲鳴を上げたティアは、譜歌を謡えないように猿轡を嵌められ、ユリアシティの住民達に引き摺っていかれた。

2000年続いたユリアの血脈は、こうして途絶えた。
 


王宮の巨大なベッドで寄り添いながら、焔たちが楽しそうに話し合っている。
アッシュは屋上の庭園に近い場所に私室を作った。窓が広く、遠くまで見渡せる明るい部屋だ。
罪人部屋の上の、窓もない部屋など嫌だと新たに作らせたのだ。躾の行き届いた使用人たちは、呼ぶまで入ってこない。二人だけの時間だった。

「なあ、アッシュ。そろそろ外殻大地を降下させないと、やばいんじゃない?」
「あと2年はあるだろうが・・・ そうだな、そろそろ手を打っとくか。まずマルクトとの和平だな」
「ピオニーが皇帝になってもうすぐ2年か。そろそろマルクトも落ち着いてきたかな? ・・・ねぇアッシュ、和平の名代、俺が行ってきちゃダメ?」
「・・・お前はまだ外見は15だからな。それに、離したくは無い」
「ずっと繋がってれば良いじゃん。俺を傷つけられる者なんか居ないよ。いざとなったら『跳んで』帰ってくればいい。 ・・・ちょっと礼をしたい奴が居るんだよ」
「ネクロマンサーか?」
「そう」

紅と朱は、額を合わせながらふふっと笑いあった。
「じゃあ、ファブレ邸のアレも土産に付けてやろうか。そろそろ鬱陶しくなって来た所だ」
「父上を殺っちゃいそうだしね。 ・・・戦争になったら困るし」
「気をつけて行って来い。お手並み拝見と行こうか」
アッシュはルークの額に口付けた。ルークは嬉しそうに笑って猫のように擦り寄るとアッシュの頬にお返しをした。
 

予めマルクトに鳩を飛ばして了解を取ったあと、和平の使者の一行がバチカルを出航した。
セシル少将と数名の護衛騎士、そしてガイが使用人として同行している。
ルークはゆっくりと船旅を楽しんだ。ガイが複雑そうな眼で、時折こっちを睨んでいる。

もうすぐグランコクマに着くという時に、ルークがガイに話しかけた。
「なあガイラルディア、いいこと教えてやるよ。ホドを落としたのは、マルクトとヴァンだぜ」
驚愕して振り返るガイに、楽しそうにルークは続ける。
「マルクトが情報漏洩を防ぐ為に、ヴァンを機械に繋いで超振動を起こしたのさ。まだファブレに復讐したいか?」

「当たり前だ!」
ガイは剣を抜くと、ルークに切りかかってきた。ルークが余裕の笑みで指を鳴らすと、いきなりガイの身体が硬直した。人形のような虚ろな目になる。
「剣をしまって、荷物を持って付いて来い」
ルークの言葉に素直に従う。

一行はグランコクマに付いた。迎えの兵が港に並んでいる。ジェイドの姿が見えた。
すこし嗤うと、ルークはジェイドに近づいていった。
「出迎えご苦労。私はキムラスカ王の名代、ルーク・フォン・ファブレだ」
ジェイドは軽く頭を下げると正式な礼も取らず話しかけた。

「長旅ご苦労様です。私はジェイド・カーティスです。随分お若い名代なのですね。キムラスカは和平に本気なのでしょうか?」
マルクトの兵がぎょっとした顔になり、キムラスカの兵は不快気に眉を寄せた。
それにルークが笑ってそっと指を振る。

(アッシュ、アッシュ! ここにも墓穴掘りがいたぜ! あっははは!)
(ああ、聞いてた。ほんっとに馬鹿どもだな!)

「本気でなければ、わざわざ私が来たりしない。案内してくれ」
「どうぞこちらです」
真面目な顔を作りながら、ルークは内心爆笑していた。

謁見の間に通されると、ルークはピオニーに正式な立礼を取った。騎士達は跪礼を取っている。
「はじめまして、ピオニー陛下。私はキムラスカ王、アッシュ・フォン・キムラスカ・ランバルディアの名代、ルーク・フォン・ファブレです。まずは親書をお受け取り下さい」
側近に親書を渡すと、ピオニーがそれを確認するのを待って話を続ける。

「まずは和平の贈り物が二つほど御座います。一つは・・・ガイ、こっちへ」
荷物を持ったガイが進み出る。何気なく指を弾き、ガイの暗示を解く。
「彼は本名をガイラルディア・ガラン・ガルディオスと言います。ガルディオス家の遺児です。ガイ・セシルと名乗り、ファブレ邸に復讐の為に潜り込んでいました。お返ししますね」
正気に戻ったガイはここが何処か解らず、混乱しながらルークを睨み付けた。
「お前、知っていたのか! くそっ殺してやる!」
自分の手に持っているのが宝刀ガルディオスだと気付くと、ガイはそれをルークに向けて振りかぶった。

ザシュッ、と音がして、ガイの動きが止まった。
ピオニーに合図されたジェイドの槍がガイの腹を貫いたのだ。
ルークは間に入ろうとしたジョゼットを身振りで止めたまま、動きもせずにそれを眺めていた。
ガイの身体がゆっくりと崩れ落ちる。宝刀がピオニーの足元まで転がっていった。

「せっかく、ファブレ公暗殺未遂を不問にしてマルクトに返してやろうと思ったのに。 ・・・ああ、宝刀ガルディオスだけでもお返しいたしますね」

苦笑するルークを、ピオニー達は空恐ろしい思いで見つめていた。
もし、ルークに傷一つでもつけたならその場で戦争になっただろう。解っていてルークはわざと避けなかったのだ。
ガイの身体が運び出されていく。

「もう一つの贈り物は、この国の未来です」
「何だと! 無礼な!」
いきり立つ貴族達を無視すると、ルークはユリアの預言の全文を読み上げた。
マルクト貴族達の顔色が見る見るうちに真っ青になる。
「・・・これがユリアの最後の預言です。しかし私達はこの預言を成就させるつもりはありません。だから和平に来たのです。協力していただけませんか?」
ルークはにっこりと笑って言った。

「それが本当の事だと、どうして解るのです。大体どこでそんなことを知ったのですか」
ジェイドが氷のような眼でルークを睨みつけてくる。
「それは私が、ローレライの同位体だから。一人で超振動を起こせる『聖なる焔の光』の噂を聞いたことはありませんか? ダアトもユリアシティもすでにキムラスカの傘下に入っています」

言葉をなくしたマルクトの重鎮達に、ルークは微笑みかけた。
「協議して答えが出たら、呼んで頂けますか? 少々長旅で疲れました」
「そうしよう。ルーク殿、今日は王宮でゆっくり休んでいただこう。部屋に案内する」
ピオニーの合図で部屋が用意され、ルークたちは案内された。ピオニーに退室の挨拶をするとルークはにっこりと笑って続けた。
「若輩者ゆえ、至らぬ所があるやも知れません、ご容赦下さい。先程もカーティス大佐に、若すぎる名代でキムラスカは和平を本気なのかとお叱りを受けてしまいました」
ぎょっとした顔や青ざめた顔が一斉にジェイドを見る。ジェイドが不快そうにこっちを見た。
それをさらりと無視して、ルークは謁見の間を出て行った。

(ルーク、なかなか楽しいものを見せてもらった)
(アッシュ! ふふっ、楽しんでもらえた? 俺としちゃ、ちょっと不満なんだよね)
(ジェイドか? ほっときゃ幾らでも墓穴を掘るだろうぜ。まだ殺すなよ、奴の頭は降下作戦に必要だ)
(解ってる)
 

夕食を済ませるとしばらくして皇帝の私室に呼ばれた。親交を深めたいらしい。
私室にはピオニーとジェイドが居た。

(まだジェイドを置くとは、ピオニーもよっぽど身内に甘い奴だな)
(そうだね。早く襤褸出さないかなぁ)

「こんばんは、ピオニー陛下。私に何かお聞きになりたいことでも?」
ルークは一礼し微笑んだ。ピオニーは苦笑して返す。
「いや、親交を深めようと思ってな。ときに、あの預言はダアトから聞いたのか?」
「いいえ? 生まれたときから知っていました。私はレプリカですから。」
何気なさそうに言うルークの言葉に、ジェイドの顔が強張った。

「世界の成り立ちを知っていますか? 2000年前から、大地はセフィロトツリーによって支えられ宙に浮いている。それを制御するパッセージリングが、もう耐用年数限界なのです。このままでは大地は全て崩落してしまうでしょう。」

顔色を変えたジェイドは出現させた槍をルークに突きつけた。
「何ですって! 知っている事を全て話しなさい!」
「止めろ! ジェイド!」
「これは人間ではありません。大方身代りに作られたのでしょう。」
「それでも名代はこの者だ。無礼は許されない!」

しぶしぶ槍を収めるジェイドを見ていたルークは、耐えられずに笑い出した。
「あははは! ・・・そう、俺は第七音素の同位体、ローレライのレプリカ。人間じゃないのかもね。しかし俺は現在キムラスカ王の名代で、第一王位継承者だ。ピオニー陛下、私室に呼んで槍を突きつけるとは、何たる無礼。マルクトは戦争をお望みか?」
「決してそんなことは無い。ジェイドの無礼は謝罪する。」
「キムラスカでは王族への不敬は死罪だが。 ・・・いかがする?」
「如何様にも、望みどおりにしよう。」
ピオニーの言葉に、顔色を変えたジェイドは言葉を失った。自分が犯してしまった罪をやっと思い知ったのだ。

「ジェイド・・・ 俺はお前を甘やかしすぎたな」
ピオニーが苦汁を飲んだ顔付きでジェイドを見る。

(あはは、アッシュ! ピオニーがジェイドを切ったよ)
(ああ、愉快だな)

楽しそうなルークが、ピオニーに話しかけた。
「皇帝に免じて、死罪は許して差し上げましょう。しかし、カーティス大佐は研究者のほうが向いているのではありませんか? ねぇバルフォア博士。足なぞ要らないでしょう?」
バルフォアと呼びかけられて瞠目したジェイドは次の瞬間床に倒れこんだ。遅れて激痛が襲ってくる。
「ぐう、うわああ!」
床を転がりまわるジェイドの両足は、膝下が無かった。

「ピオニー皇帝。俺達は世界にある全ての第七音素を支配出来るんですよ」
超振動でジェイドの足を奪ったルークは、第七音素を集めるとジェイドの傷を塞いだ。出血が止まる。
「安いものでしょう? たった二本の足でマルクトの民と自分の命が買えるなら。ねえ、死が理解出来ないネクロマンサー」

笑うルークの顔は、無邪気で美しく、底知れないほど恐ろしかった。
ピオニーはいつまでも眼を離す事が出来なかった。
 

翌日、満場一致で和平が締結される事となった。
誰もが解っていた。マルクトがマルクトとして有れるのは、絶対的支配者のただの気まぐれに過ぎないことが。マルクトは事実上キムラスカの属国になったのだ。

ルークはパッセージリングの調査をダアトやユリアシティと協力して行うように依頼した。
同時にシェリダン、ベルケンドと共に地核の流動化を止める装置を開発する事も。
「バルフォア博士の頭脳は役に立つでしょう? せいぜいこき使ってあげましょう。ああ、心配しなくても大地の降下はやってあげますよ」
美しく微笑む聖なる焔の光に、その場の者は恐怖しながらも魅了されたのだった。

(良くやった、俺の愛しい半身)
(アッシュ、愛してる。すぐに帰るからね!)
(ああ、待っている)
 


調査が終わるのを、焔達は二人で過ごしながらゆっくりと待っていた。
他人が出来ることは、やらせる気満々である。世界の事なのに、誰かに押し付け自分は知らない振りなんて許さない。

調査団から市民へと情報が漏れ、貴族達が不安そうに話を聞きに来たが、アッシュとルークは何とかしてやるから大丈夫だと笑っていた。
二人は民たちにも何が起きているか全て知らせ、世界が崩壊するという実感を持たせたのだ。

キムラスカの王が世界を救ってくれると世界中の人々に知れ渡った頃、地核の流動化を止める装置がユリアシティで出来上がった。マルクトが資金を出し、シェリダンとベルケンド、ユリアシティが協力したのだ。ジェイドはげっそりとやつれ、車椅子であちこち飛び回っていた。

クリフォトからそれを地核に沈め流動化を止めると、アッシュとルークはさて、とばかりにパッセージリングに向かった。
もう何をするかは世界中に通達してある。人々は祈るような気持ちで成功を願っているはずだ。

完成していたアルビオールでアブソーブゲートに向かい、そこから各地のパッセージリングの書き換えを行う。ローレライと同化した二人には容易い事だった。
向かい合って両手を繋ぐと、光が溢れ、振動が大地を覆った。そして大地は降下していった。

同行していた護衛の騎士達は、二人の神々しい姿に思わずひれ伏した。
ここにいるのは神だ。この至高の存在が我らの王なのだ! 感動のあまり、涙をこぼし続けた。
大地の降下が終わり二人と共に帰還しても興奮は冷めやらず、あっという間に現世に降臨した神の話は広がった。
世界中の人々の熱狂は、留まる所を知らなかった。
 

十数年は平穏な日々が続いた。アッシュとルークは20歳ほどの姿で時を止め、バチカルに君臨し続けた。その事は神にふさわしいと、かえって崇拝に拍車をかけた。
部下の教育に力を注いだ為、もう自分たちが表立って行動しなくても上手く国は回っている。
クリムゾンとシュザンヌはもう亡くなったが、最後まで王を敬い、誇りに思うと言って死んだ。
二人は幸せだった。いつも寄り添い、ときに連れ立って世界を見て回った。
人々は焔の神を見ると感激に打ち震え、ひれ伏した。
 


前触れもなく突然世界各地から瘴気が噴出した。
ディバイングラインが持たなくなったのだ。世界は瘴気に包まれた。

「あ~あ、とうとう来ちゃったか」
「まあ、解っていた事だ。今の俺たちなら、中和なんぞ軽いモンだろう?」
「じゃなんで、さっさとやっておかなかったの?」
「んなの、決まってるだろう?見せ付ける為だよ」
紅と朱は、巨大なベッドで絡み合いながらくすくすと笑いあった。
 

世界中から、人がバチカル目指して続々と集まってくる。
この未曾有の危機に、神なら何とかしてくれると祈るようにやって来たのだ。
バチカルには人が溢れ、入りきれなかった人々は周辺の草原に膝を付き、祈りを捧げている。

「・・・そろそろか」
「うん、アッシュ。行こうか」


荘厳な服に着替え、王宮前広場の高台に二人で立つ。
周囲を人々が埋め尽くし、いっせいにひれ伏した。

「これから瘴気を中和してやろう」
「我らがいる限り、世界の滅びは有り得ない」

向かい合って差し伸べあうその手の中にローレライの剣が出現した。
二人でそれを握った焔は、頭上に高く差し上げると高らかに叫んだ。

「「良く見ておけ。世界が救われる瞬間を」」

二人の身体から光が溢れ、絡み合いながら天に昇っていく。その光は遠くからでも良く見えた。
光の粒が、世界中に降り注いだ。人々は涙を流しながら、それを見つめた。
そして、世界は青空を取り戻した。
 

 

 

 

光の王都の最上階には、二人の神が寄り添いながら住んでいるという。
焔色の神達は、お互いの為だけに幸せな箱庭を作り上げた。

 
世界という名の箱庭を。


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