-シリウス-
俺はタタル渓谷に(こっそり)やって来た。
今の俺が近寄れそうな所が、此処しか思いつかなかったからだ。
セレニアの真ん中で大譜歌を謡う。
朱金の光が立ち上った。
(良く来たな、未来を覆した者、ユリアの子孫よ・・・。我は今地殻に封じられているが、協力は出来る。・・・受け取れ)
ローレライの宝珠が手の中に現れる。同時に古代譜業の隠し場所と入り方も頭に入ってきた。
・・・って、ユリアシティかよ! どうすっかな。
(出来れば早めに我を開放してくれ。もう飽きた。せめて髭に捕らわれる前にしてくれ。我と話したかったらこうして謡えば現れる。ではな)
随分人間くさくなったローレライが、去っていった。
俺は宝珠を手の中で転がした。ユリアの願いが伝わってくる。
『どうか、お願い。この預言を覆して・・・』
なんだ、ユリア。あんたも世界の存続を望んでいたんじゃないか。
じゃあ、頑張るしかないな、子孫としては。
俺はコンタミネーションで宝珠をしまうと、ユリアシティに向かう為に歩き出した。
ユリアロードを通って、テオドーロ市長に会う。警戒するテオドーロに、祖母が此処の出身だと継げ、遺品を渡した。祖母を知っていたようで、涙ぐんでいる。ぶっ、初恋だって。
同時に此処の物資補給がうまく行っていないことを指摘し、傭兵である事を告げ雇い主の秘密は絶対漏らさない事を話すと、あっさり信用して時々薬や足りない物を運び込むよう頼まれた。
・・・ちょろいぜ。
ぶらぶらシティを見ていると、なんとヴァンに行き会った。
あれ、まだオラクル行ってなかったっけ? 戻ってきた所か? とりあえず友好的に名乗ってみる。
「俺はシリーって言うんだ。上から来たんだよ」
警戒する奴にテオドーロに言った事と同じような事を告げると、少し信用されたようだ。
まあ、同年代はあまり居ないみたいだしな。
世間話(上の)してると、預言についてどう思うか聞かれたので、素直に思っている事を告げた。
「ばっかじゃねぇの。死ぬって詠まれたら大人しく死ぬのかよ。あんなの悪い事を回避する為に使えば良いんじゃんか。水難注意なんて詠まれて素直に水辺に行く奴なんか、傭兵にゃ居ないぜ。あんなの、変えようと思えば変えられるだろう」
俺にとっては至極当然な意見に、あいつは口をあんぐりあけて固まった。
不意に下を向いて笑い出す。おまえ、昔からエロい笑い方だったんだな。
「なあお前、もうちょっと柔軟な考え方持てよ」
じゃ無かったら、お前を助けに行って死んだお袋が、浮かばれないだろう?
とりあえず傭兵仕事の合間に何回か物資を運んで、信用される事にする。
たまにヴァンにも会った。なんかすっかり気に入られ、ことある毎に口説いてくる。
オラクルで着々と地位を高めているらしい。
・・・こいつもなー、根は悪い奴じゃないんだよなぁ。大馬鹿で熱血過ぎるんだけどさぁ。
あと、髭、無い方がオトコマエだぜ?
閑話 ヴァンとシリー (※R15) 口説かれて成立。飛ばしても差し支えありません。
2年もする頃にゃ、すっかり顔パスだ。
計画を遂行する事にする。
散歩のふりして、下に向う。普段人の行かない所までどんどん降りる。
何回か封咒を解き、倉庫のような小部屋に着いた。入ったら明るくなったので驚いた。
・・・・・・・・・もっと譜業の勉強しておけばよかった。手に負えねぇ。
とりあえず片っ端から、資料を読んだ。読みまくった。
ようやくそれらしき本に当たったときには、空腹で倒れそうだった。 ・・・ああトイレ行きたい。
それを引っ掴んで戻る。封咒を掛け直すのを忘れない。
・・・・・・長かった。
ルゥ、アッシュ。君らが話したいって我侭のために2年も費やしたよ。再会したら誉めてくれ。
まあ、副産物も一杯あったし、結果オーライかな。
傭兵の仕事も続けていたから、『冥王』の名は上がり、一声かければ数百人の仲間を集める事が出来た。
ネクロマンサーには頭きてたから、奴が出るときは率先して狙い撃ちだ。今回は俺の方が桁違いに強いからな、ボコボコにしてやるぜ。
シェリダンに本を持っていって、通信機を(内緒で)作ってもらおうとしたら材料が手に入らず、またユリアシティに行ったりしながら、俺は時を待った。
傭兵達にはしばらく消える事を伝えておいた。まあ、もうでかい戦いはそうは無いからな。
唯一つ、以前と違う事がある。
今回アッシュのためにダアト入りするその期間、以前の俺は結婚していた。女を愛して、結婚して子供が出来た。そしてそれは2年で終わりを告げた。妻と子供が死んだからだ。
長期仕事から帰ったら殺されていた。変わり果てたその姿に俺は嘆いて、ふらっとバチカルに来た所をファブレ公に雇われたんだった。
・・・ごめんな。でも、お前達に再会するより大切なものが出来てしまったんだ。今度は甲斐性のある奴と結婚しろよ。その方が死ななくて済む。
シェリダンで出来上がった通信機を受け取り、俺はダアトへと向った。
シェリダンの奴らは俺の持ってる本を見たがったが、俺は渡さなかった。世界の今後の為に重要すぎる事が書いてあったからだ。一国が所有したら、パワーバランスが崩れてしまうものばかりだ。危険すぎる。
コンタミネーション(ローレライが出来るようにしてくれた)で大切に仕舞って置いた。
ダアトで騎士団に入ろうと思っていたが、止めた。
ヴァンに良い様に使われるのが眼に見えていたからだ。
もう一つ、食事がまずすぎる。アッシュの背が伸びなかったのはこの所為じゃないのか?
アッシュの将来のコンプレックスを改善してやるべく、俺はオラクルの面接官に言った。
「俺は傭兵なので騎士になろうと思ったんですが、此処で俺の力が一番発揮できるのは食堂です。此処の食事は不味すぎる。皆の健康の維持のために、ぜひ調理人として雇ってください」
面接官はリグレットだった。(・・・ヴァンが居なくて良かった)彼女も常々思うところがあったんだろう。腕試しに作ったオムライスを一口食べて、即決した。
直属の上司となるトリトハイムに紹介された。
こうして見事、俺はダアトに入り込んだわけだ。
貧相な食材でまずい食い物を作って、差額を懐に入れていた料理長を追い出し、同僚を教育し、メニューを改善しながら俺はアッシュに会えるのを待った。
それはもうすぐだった。
-アッシュ-
いきなりぶん殴られたような衝撃があった。
俺は目の前の自分とそっくりな存在を見て、混乱した。
言うならば、いきなり自分が死ぬまでの記憶が押し寄せてきた感じだ。
振り返れば、昨日までの辛い監禁生活の記憶もちゃんとある。
記憶は徐々に整理され、すとん、と心の中に落ち着いた。
ああ、此処に居るのは自分の半身だ。また会えた。
感激のあまり黙り込んだ俺を、ヴァンは混乱している所為だと思い込み、これがお前の全てを奪うのだ、とか言っているが、はっきり言って聞いちゃいなかった。
ふらふらと前に進みレプリカの髪にふれる。
「これは『ルーク』・・・」
ローレライ、てめぇもたまには役に立つな。世界よどんと来い! 運命なんてなんのその。
預言? こてんぱんにしてやんぜ!
まだ自我の無いはずのレプリカの眼が、確かに俺を捉える。あー、と唇が動いた。
お前も戻ってきたのか?
「俺は今日から『アッシュ』だ」
満足そうなヴァンの顔なんぞ一瞥もせず、俺は最愛の半身の顔を見つめ続けた。
暫く見納めだからな。 ・・・待ってろよ、ルゥ!
-シリウス-
突然衝撃が襲った。精神じゃない、肉体のだ。俺は譜業砲の爆発に吹っ飛ばされた。
受身を取り、勝手に身体が動いて敵を倒している間、俺は混乱した記憶の整理に勤めた。
OK.理解した。『思い出した』よ。 ・・・だがな。
いきなりこんな所まで遡る事無いだろう? ゴルァ、聞いてんのか、ローレライ!
これは親父が死ぬことになった戦い。振り向くと、遠くに血まみれで倒れているのが見える。
さっきの譜業砲にやられたか。
アタマを殺られて味方が浮き足立つ。
敵方の傭兵部隊も自分の味方に攻撃されて混乱している。
ネクロマンサー、やってくれたな。いくら未来であんたが改心しても、今のてめぇは屑だよ。
自分とこの傭兵ごと、俺達を殲滅しようとしたあんたはな。
「てめぇら!西の森へ引け! 今からでかい花火打ち上げてやるから、そしたら掃討に移れ!」
味方にフェアリーサークルをかけ、指示を怒鳴る。ついでに向こうの傭兵にも。
「お前ら、死にたくなかったら東の山沿いに後退しろ! ネクロマンサーはお前らごと殺る気だぞ!」
敵味方の傭兵部隊が散っていく中、俺は真っ直ぐに敵本陣に突っ込んでいった。
悪いな、ジェイド。潰してやるよ。
双剣を閃かせ、譜術を交わして敵影の最も濃いところにたどり着く。
「ビックバン! ついでにメテオスォーム!!」
景気良くぶちかます。ちょっとふらつくが、かまやしない。俺は怒ってるんだよ。
たった二発で、敵のほとんどが戦闘不能になった。怒りに燃えた傭兵達が残った敵の掃討に移った。ジェイドが残った数名の兵と戦場を後退していく。
ネクロマンサー、あんたを此処で殺っちまう訳にゃいかないんで、逃がしてやるよ。
せいぜい反省して、顔洗って出直すんだな。俺はてめぇが大嫌いなんだよ。
さすがに疲れて座り込む俺に、味方が近寄ってくる。
「シリー・・・親父さんが・・・」
「知ってる」
俯いて黙り込む俺に、何を思ったか膝を突いた。
「今日からお前が俺たちの頭だ。 ・・・おまえが『冥王』だ」
顔を上げると、みんなが膝を突いている。
ああ、この戦いで俺は『冥王』になったのか。
向こうについてた傭兵部隊の頭が挨拶に来た。
「契約違反で精々ふんだくってやれ。ネクロマンサーがいる限り、マルクトにゃ付かない方がいいぜ」
そうするよ、と頭は笑って帰っていった。俺を『冥王』と呼んで。
とりあえずキムラスカ正規軍に報告に行った。 あ、アルマンダイン殿だ、若いなぁ。
「フェンリルは死んだ。俺が次の頭だ。シリウスという。以後、お見知り置きを。マルクト正規軍は壊滅させた、契約は此処までだったな」
アルマンダイン殿は俺があんまり若いんで不審そうだったが、副長に俺の二つ名を言われて驚いている。
そりゃそうだよな、今15、6だもんな。
礼を弾んでもらって、部隊に休暇を出した。確か半年位戦闘は無かったはずだ。
さて、これからどうするか。
-ルゥ-
水槽の液体がごぼりと抜けて、引っ張り出された。
部屋に連れて行かれて寝かされる。ああ、俺は今生まれたばかりなんだ。
身体がうまく動かせない。ドアを開けて誰か入ってきた。
紅が見えた。
アッシュが俺を見て目を見開いた。
なあ、おまえもちゃんと『戻って』来たか?
近づいてきたアッシュが俺にそっと触れる。眼と眼が合う。
「俺は今日からアッシュだ」
相変わらずの仏頂面だけど、耳赤いよ、アッシュ。
アッシュ、大好きだよアッシュ!
また会えるの、楽しみにしてるよ。
コーラル城に置き去りにされた俺を、白光騎士とヴァン師匠が迎えに来た。
そっと抱かれて屋敷に連れて行かれた。(俺はほとんど寝てたけどな)
母上が泣いて、父上が苦しそうな顔をした。
父上、苦しまないで。今なら父上の気持ちが分かる。 ・・・こんどは幸せになろうよ。
その晩、ローレライがやって来た。
うん、分かってる。しばらく眠るんだよね。
早くシリウスやアッシュの顔が見たいな。次に眼を開けたら、会えるかな。
・・・おやすみ、またね。
二週目逆行 『みんなで幸せになろう!』
音譜帯で作戦会議
「じゃあ、これから作戦会議をしようと思いまーす」
「おおー」
唐突に目覚めたら、そこは光の中だった。
傍に朱の髪の自分の半身がちゃっかり引っ付いて眠っている。
その向こうには、頭の上がらない兄貴分がすうすう眠っている。
何だこの状況は! 自分は死んだはずじゃ無かったか?
確かに死んだあともルゥの中にいて、ローレライを解放するのを見ていた。
あんときシリウスも死んだはずだ。 ・・・ってローレライ?
「お前の仕業かー!」
大声に半身と兄貴分が目を覚ました。
「おはよーあっしゅ」
「相変わらずの怒鳴り声だね」
「いきなりそれか。よく回り見て何があったか説明しろ!」
シリウスは周囲を見回すと、はて?と言う顔をした。よし、こいつはまともだ。
ルゥはなぜか、冷や汗をかいて一生懸命目を逸らしている。こいつなんか知ってやがるな。
「説明しろ」
睨みつけると、あははは~とか言いながら手をばたばたしている。
そこに突然朱金の光が現れた。
(そう怒るな。焔は半身と生きるためにやり直しを選んだのだぞ)
「えーと。大爆発は、ローレライでも止められなかったんだ。だから二人で存在できる時間に遡って、やり直してみるかって言われて、うん、って言ったんだ。シリウスも一緒に連れて行ってあげるって」
(我は礼がしたかったのだ、協力は惜しまんぞ)
「・・・お前、俺の意見も聞かずにそれか」
「え~だって離れたくなかったんだよ! アッシュは嫌なのかよ!」
開き直りやがった、こいつ。
「いいじゃないか、アッシュ。俺は大賛成! 遣り残した事いっぱいあるしね」
「そうだよね~シリウス!」
そうだった、こいつらはそういう奴だった。俺は脱力した。
そして冒頭に戻る。
遥か音譜帯で、ローレライを含めた4人(?)での作戦会議がおこなわれていた。
「まず大爆発をどうにかしないと。結局あれのせいで死んだようなもんだし。せっかく瘴気中和は頑張ったのにさ」
「ええ~、シリウス死にそうになったじゃんか。俺もうあんなの嫌だかんな!」
「ありゃ、もっと前々から準備しておけばあんなになる事はなかったんだよ」
(完全同位体の大爆発は止められんが、世界に二人が違う人間だと認めさせれば良い。どちらかが女になるか、年齢を変えるか)
「さすがに性別変えたら、失敗作だって破棄されるだろう。年齢ってのはどうやるんだ?」
(何、レプリカなら、作られてすぐ我が時間を凍結させてしまえばいい。2、3年して戻せば差が出来ている。女になりたかったら後からでもなれるぞ。 ・・・レプリカならな)
「おいルゥ、どうする?」
「えぇー、女になるのはヤダ。でもあんまり子供じゃアッシュといっしょに戦えないじゃんか」
(余り差が少ないと、歳を重ねて身体に差が少なくなったとき大爆発が起きるかもしれんぞ)
「んーじゃ、2歳差。終わったらその時また考える。ってのはだめ?」
(かまわんぞ)
「俺はヴァンに誘拐されるんだよな」
「あ、そうだった・・・アッシュがつらいのは嫌だ」
「べつに辛かねぇよ」
「うそ! 酷い事いっぱいされてたじゃないか!」
「じゃあ、ルークが寝てる間、俺がオラクルに行くってのはどうだい? 2年間」
「それがいいよ!」
「おい、勝手に・・・まあ良いか」(耳赤)
「いっそさあ、パッセージリングの耐用年数とか秘預言とか全部ぶちまけたら? おまけにヴァンも早いうちにシメとく、と」
「それすげえ魅力的なんだが、いきなり言って信じるかよ」
「信じさせるために、頑張るんだよ。絆して、誑し込んで、引っ張り込む。と」
「お前・・・いっぺん死んで、はっちゃけたな・・・」
「要は 1、大爆発 2、パッセージリングの耐用年数 3、消滅預言 をどうにかすりゃいいんだろ?」
「ヴァンの計画もだ」
「それはどうにでもなるよ。最悪アブソーブゲートできっちり殺っとけばいい」
(ヴァン・・・哀れな)
「ローレライ。戻るときローレライの宝珠を持たせてよ。あれで消滅預言を各国のトップに信じさせられる。トップを信用させる事が出来たら、耐用年数の事も言えるだろう」
(良かろう、ユリアの子孫よ。何ならあれを読めるようにしてやろう)
「なあ、俺、7年アッシュに会えないのヤダ。せめて声だけでも聞きたい」
「・・・・・・そうだな」
(フォンスロットを開いたら、大爆発の恐れがあるぞ)
「ええ~!」
「ローレライ、2000年前に通信できる譜業とか無かったのかい?」
(あったぞ)
「それを教えてくれないかな」
(・・・役立ちそうな物のある場所を、教えてやろう。ユリアの子孫よ、戻ったら第七音素の多い所で大譜歌を謡え。宝珠もそのときに渡そう)
「さんきゅーv」
(最後にサービスだ。皆、今覚えている技や譜術、秘奥義は戻っても覚えている。ただし、体力は過去のままだから、あまり使うなよ)
「そりゃ、大サービスだ」
「んで、いつに戻るの?」
(焔は半身が生まれたときだ。ユリアの子孫は、・・・わからん。それより少し前のはずだ)
「よしゃ。行くぜ!」
「幸せな未来の為に!」
「あ、ローレライ。みんなに悲しまないでって言っておいて。今度こそ幸せになるから!」
(伝えよう。・・・おまけもつけてやろう)
3人はハイタッチしてるんるんと出かけていった。
「「「みんなで幸せになろう!」」」
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