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同人二次創作サイト(文章メイン) サイト主 tafuto
Posted by - 2025.04.20,Sun
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Posted by tafuto - 2008.05.07,Wed


※この二次創作作品には残虐的表現、性的表現が含まれております。
成人されていない方、残虐表現の苦手な方はお読みにならないことをお勧めいたします。

 















シェリダンの軟禁されている部屋でナタリアは開戦を知った。ガイ達にはあれから会わせて貰っていない。
食事を運んできた兵士から開戦したと告げられた時、ナタリアは叫んだ。
「どうしてです! アクゼリュスを落としたのはルークなのですからルークが悪いのではありませんか! 私をバチカルに連れて行って。お父様の誤解を解かなければ!」
うろたえるナタリアは、ジェイドに戦友を殺された兵士の憎悪のこもった冷たい視線に気づく事は無かった。

ナタリアがシェリダン襲撃に加担していたことは、すでに国王に報告してあった。
そしてモースはナタリアがインゴベルトの実の娘では無い事を告げていた。六神将のアッシュに聞いたガイの本名も。
ナタリアは知らなかったが、バチカルへは反逆者として護送されるのだ。

 

「お父様! 私がお父様の実の娘では無いとおっしゃるのですか!」
王の御前に引き出され縋り付くように手を伸ばすナタリアに、インゴベルトは冷たく吐き捨てた。
「・・・そんな事は、もうどうでも良いのだ。お前はわしの命に背きルークに付いて行った時言ったそうではないか。王女と思うな、と。もうお前をわしの娘などと思っておらん。大方スパイをさせるためにすり替えられたのであろう? でなければルークが死んだ崩落で生き残り、マルクト兵と共謀してアルビオールを奪いに来るなどするはずがない!」
「そんな! なぜそうしたかガイにお聞きになって下さいまし!」
「ガイ? ・・・あやつこそスパイの証。あやつはガルディオス家の遺児であるぞ。キムラスカに仇なす為に潜り込んでおったのだ!」
「な・・・それは本当ですの・・・?」
「白々しい・・・スパイと共謀してマルクトに加担した罪で死罪を申しつける。この女を連れて行け!」
「お父様! 嘘よ、違うとおっしゃって!」
叫びながら連れて行かれるナタリアを庇うものはいなかった。みな軽蔑と憎悪のこもった眼で見ている。
その視線に気づいた時、ナタリアは絶望した。

 

次の日、王城前広場にて公開処刑が行われた。
処刑台に引かれていくナタリアを見て人々は囁き合った。
「マルクトのスパイだって・・・本物のナタリア様を殺してすり替わったらしいよ」
「次期国王のルーク様を死に追いやって、マルクト兵と一緒に国家機密を奪おうとしたんだって・・・」
「私たちを騙していたのね!」
虚ろな表情のナタリアに、いくつもの石が投げられる。
ナタリアは処刑台に跪かされ、剣が振り上げられた。 ナタリアは気が狂ったように叫んだ。
「いやああああああぁ!」
ごとりと重い音が響き、悲鳴が止まった。

喝采を叫ぶ民衆の前に、今度は金髪の若い男が引き出された。
「ちきしょう! ファブレ公爵! 一族の仇!」
暴れ叫ぶ男は殴られ、押さえつけられて跪かされた。
「あれ、ガイよ。人は見かけによらないわね。ガルディオスだったんですって・・・何年もずっと復讐の機会を窺っていたんでしょう?」
「ルーク様を殺したの、あいつじゃないの? 怖いわ、私たちも危なかったんじゃない」
ファブレ家に勤めるメイドが囁き交わす。
剣が閃き、再び重い音が響いた。
もう一人、同じくスパイだという庭師の老人が斬首されたあと、広場は静けさを取り戻した。


ティアは度重なる不敬でキムラスカから死罪を要求されたが、ユリアの子孫だと言う事でモースがダアトでの終身刑を条件に引き取った。
アニスは王族への不敬と職務怠慢でダアトで裁かれることになった。
しかしダアトで留置されていたはずのティアの姿は、いつの間にか消え失せていた。

そして同じ頃、どこからも助けの来る事の無かったセントビナーが瘴気の海にのみ込まれて消滅していた。

 


「なぁなぁアッシュ! 偽姫と自称親友が斬首されたってさ」
「ああ、眼鏡もシェリダンで死んだって話じゃねぇか・・・お前、何かしたのか?」
「まっさかぁ! 俺が何もしなかったから、あいつらは当然の裁きを受けたんだよ。俺はただ『見てた』だけさ」

くすくすと笑いながら、ルークはしどけなく横たわったアッシュの中心を愛撫していた。愛しそうに舌を絡め、吸い上げる。
少し荒くなった息を吐きながら、アッシュはにやりとルークを見た。
「あいつらが墓穴を掘って自分の首に縄をかけるのを、笑って見てたんだろう?」
「うん、楽しかった」

一生懸命舌を動かすルークの頬をそっと撫でる。
「お前のも舐めてやる。跨れよ」
「ヤダ。今日はアッシュを気持ち良くするんだから。それにソレしたらアッシュのイク顔見れないじゃんか」
「・・・・・・見てんなよ」
「やだ、見る。 生アッシュを堪能してんの。色っぽいアッシュの顔は俺だけのもの!」
「顔だけでいいのか?」
「・・・ここも、ココも、全部俺のもの。誰にもやらない」
アッシュの体中に唇を落としながら、機嫌良くルークは笑った。

 


キムラスカとマルクトの両軍はルグニカ平野で激突した。
もう誰にも止められない。どちらかの国の滅亡を掛けた戦いだ。 
そして軍の規模は互角だったが、マクガヴァンとネクロマンサーを失ったマルクト軍は精彩に欠け、押され気味だった。
自らの罪悪感と後悔を戦意に変えたクリムゾンの猛攻は凄まじく、ついに戦線はテオルの森近くまで迫っていた。
ルグニカ平野は死者で埋め尽くされた。

 


タタル渓谷の奥、イオンが開けた扉の奥を焔たちは進んでいた。
傍らには虚ろな顔のティアが無言で付き従っている。
ダアトからヴァンによって連れ出されたティアは、兄の説得に耳を貸そうとしなかった。
説得を諦めたヴァンはティアからレプリカを作成したのだ。
しかしレプリカではユリア式封咒は反応しなかった。ティアは生体情報を抜かれた副作用で精神錯乱を起こした。
苦渋の思いでヴァンはティアに洗脳を施した。


「しかし師匠も身内には甘いやつだよな。どうせオリジナル全員殺すんだから、さっさと洗脳しちゃえば良かったのに」
「髭野郎、ぐだぐだ言いやがってうざってぇ。こんな女、これくらいしか使い道無ぇのによ」
「だよな!」
悲痛な顔でティアを連れていたリグレットが堪りかねたように二人に怒鳴った。
「お前たち! 少しは閣下の気持ちも考えてやれ!」
ルークは馬鹿にしたようにリグレットを振り返った。
「人間全てを殺すって決めたのはあんたたちなのに、何甘っちょろいこと言ってんの? この女使うって決めたのはヴァンじゃんか」
「説得に応じたら助けるつもりだったのか? しかしどっちにしろ最終的にはみんな死ぬんだろ。意味無ぇじゃねぇか」
唇を噛んだリグレットにアッシュの追い打ちがかかる。
「さあ、お前たちが生贄にするって決めたその女にさっさと封咒を解かせろよ」

言葉を失ったリグレットは、固く眼をつぶりティアをユリア式封咒の前に押し出した。
苦悶の表情を浮かべたティアが倒れ込む。
それを一瞥もせず、アッシュはパッセージリングの書き換えを行っていった。

 


あと一刻でテオルの森への総攻撃をかけるというその時、クリムゾンは足元から響く不気味な振動を感じた。
揺れはだんだんと大きくなってゆく。いやな予感がする。
クリムゾンが全軍の移動を命じようと立ち上がったその時、足元の大地が崩壊した。
キムラスカ軍の七割を飲み込んで、ルグニカ平野は完全に消失した。

完全な勝ち戦から一転して自軍の大半を失う事になったキムラスカは半狂乱に陥った。
軍の要であるクリムゾンをはじめ、キムラスカの誇る陸艦など軍備のほとんどを失ったのだ。
もうすでにバチカルを防衛するゴールドバーグ将軍の師団しか残ってはいない。今、マルクトに攻められたらひとたまりも無い。
インゴベルトはモースに詰め寄った。
「これはどういう事だ! モース殿、キムラスカを謀ったのか!」
「いえ、けしてそのような事はありません! 預言には確かにキムラスカの勝利が詠まれているのです」
しどろもどろのモースは、もう一度預言を確かめてくると言ってダアトに帰還していった。

 


「全くどうなっておるのだ! こうなったらあれにもう一度預言を詠ませて・・・」
ぶつぶつ呟きながら廊下を急ぐモースに声が掛けられた。
「大詠師モース、第七譜石が発見されたそうです。御出で頂けますか」
「なにっ、それは本当か! 早く案内せよ」
振り返ったモースが見たものは六神将のアッシュだった。アッシュはモースをザレッホ火山の火口に連れて行った。


巨大な譜石の前、そこにはヴァンを始めとする六神将と導師イオンが立っていた。
「導師イオン、生きていたのか! ・・・そんな事はどうでも良い、早く譜石を詠まんか!」
掴みかからんばかりのモースに嘲笑の声がかかった。
「イオン、そんなの詠むことないぜ。それの内容なんかもうとっくに知ってるからさ」
「ええルーク。詠む気なんかこれっぽっちもありませんよ」
くすくす笑いあう二人の前にヴァンが進み出た。モースを見据え、嘲笑うかのように朗々と終末預言を詠みあげる。

「・・・なんだと! でたらめを申すな! ユリアは繁栄を詠まれたのだ!」
半狂乱のモースに、ヴァンは冷たい笑みを浮かべた。
「ええ、そして泡沫の繁栄の後の滅亡もね。・・・・・・大詠師モース、あなたの役目はここまでです。預言を盲信する愚かな男、世界の終わりを告げる譜石の前で一足先に死ぬがいい」
ゆっくりと近づいてくるヴァンを前に、モースはぎくしゃくと身を翻した。足をもつれさせながら逃れようと走り出す。
その身体は黒衣の男によって止められた。
「うざってぇ、さっさと消えろ、屑が」
閃光が走り、モースはぽかんとした表情を浮かべながらずれていく胴体を見た。そしてそのまま声も立てずに火口へと落ちて行った。

 


各地のセフィロトは、ヴァン達によって次々と暴走させられていった。
4か所目でティアが起き上がれなくなった。
枯れ木のようにやせ細りヒューヒューを喉を鳴らして廃人の様にベッドに横たわっている。もう少しで死ぬだろう。
ティアが使えなくなってからはヴァンが代わってユリア式封咒を解いた。
一回ごとに体調を崩し瘦せ衰えて行くヴァンを、ルーク達はにやにや笑いながら見ていた。

ついに最後のセフィロトが暴走させられた。ひと月もしないうちに時間差で次々と大地は崩落してゆくだろう。
そうしたらいよいよレプリカ大地の作成だ。レプリカの楽園が創造される。

 

シンクやイオンとともにソファーに座り、甘くした紅茶を飲みながらアリエッタがふくれっ面で呟いた。
「つまらない。あいつらライガママの仇なのに、みんな勝手に死んじゃう、です」
窓に寄りかかってコーヒーを飲んでいたアッシュが、可笑しそうに答える。
「アニスが残ってたろう? どうせ死罪だ、今のうちに行ってきたらどうだ」
「アリエッタ、アニスを殺しに行ったです。でもアニス、すっかりおかしくなっちゃってた。・・・あんなの殺してもつまらない、です。」
「いいじゃんあんな女、わざわざ殺す価値も無いよ」
アッシュの足に寄りかかりながらココアを啜っていたルークが、笑いながら話しかけた。
「どうせみんな死ぬからさ。師匠だって瘴気障害でそのうち死んじゃうさ。そしたら師匠が頑張って作ったレプリカ大地で、レプリカのみんなと楽しく暮らそうぜ!」
「あんたはいつも能天気だよね」
「でも楽しそうですね」
シンクが肩を竦めて呆れたように笑い、イオンが微笑んだ。 
一人ぼっちだった子供達は寄り集まり、共犯者の顔で笑い合った。

 


マルクトもキムラスカも混乱し、すでに国として機能していない。
エンゲーブが落ちた所為で食糧難に陥り、食料をめぐって醜い殺し合いが各地で行われている。
食料を備蓄していた貴族の館が、民衆によって次々と襲われていった。
暴動が起きたバチカルではインゴベルトの首級が城門にさらされた。
グランコクマでは予言を絶対視する者にピオニーが暗殺された。
民衆はただ利己的に争い、奪い、殺し合いを続けていた。


ヴァンの計画を止められる者など、もはや何処にも存在しなかった。

 


 

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Posted by tafuto - 2008.05.06,Tue







※ここからは赤毛sideと同行者side、各国sideと場面転換が激しいです。読み難くてすみません。




                                         キャラクター死亡描写あり。苦手な方はご注意なさってくださいませ。
















瘴気に倒れた人を救助していたティアは、第七譜石の可能性があるかもしれないと言ってオラクル兵が自分を呼びに来た時、怪訝に思った。
確かに自分の任務はそれだが、この事は極秘のはず。それになぜこんなところにオラクル兵が居るのだろう。
警戒するティアをオラクル兵は拘束しようとして来た。
とっさに譜歌で眠らせると、ティアは坑道に駆け戻っていった。


「大佐、オラクル兵に不審な動きがあります! 私は拘束されそうになりました。イオン様はどこですか? ここは危険です!」
「ええっ! そう言えばイオン様がいないよ、またどっか行っちゃったぁ!」
あたりを見回すアニスの大声に、ガイやナタリアも集まって来た。
「オラクル兵に不審な動きがあるそうです。・・・まずは導師イオンとルークを探しましょう」
「お坊ちゃんは護衛に守られてるんじゃないの~」
「そうですわ! 救助の手伝いもしないで、王家の青い血が泣きますわ!」
暫く捜し歩いていると、奥まった所に人が倒れているのが見えた。
「こ・・・これは、先遣隊! みんな殺されている!」
慌てて奥へと急いだ一同は、突き当りの扉の前でルークの護衛騎士達が切り殺されているのを見て蒼褪めた。


扉を潜り奥へと進んだ一同は、信じられないものを見た。
部屋の中央に巨大な音機関がそびえ立ち、しかもそれがひび割れ崩れかけているのだ。
「パッセージ、リング、ですか・・・」
音機関に浮き出た文字を読むジェイドに、ティアが叫んだ。
「大佐、そんな場合じゃありません! ここは崩れかかっています。皆、集まって、譜歌を歌ってみる。それしか助かる方法は無いわ!」
「ええ~っ! イオン様は!」
「ヴァン謡将がさらったんじゃないのか?」
慌てつつもティアの周りに集まる一同の前で、亀裂は広がりあたりを飲み込んでいった。

 

崩れゆく大地の中を、譜歌に守られてティア達は紫色の空が覆う地に降り立った。
「こ、ここは・・・?」
「ここは魔界(クリフォト)よ。・・・兄さんは、外殻大地を崩落させると言っていたの。私はそれを止めようと・・・・・・まさかこんなことになるなんて」
ガイの問いにティアは俯いて答えた。
近くに落下していたタルタロスに乗って、一同はユリアシティを目指した。

 

「おお、アクゼリュスは無事崩落したようだな」
ティアの顔を見たテオドーロは笑みを浮かべた。
「おじい様、知ってたのですか! 何故?」
「アクゼリュスが崩落する事は預言に詠まれておる。キムラスカの武器である『聖なる焔の光』がアクゼリュスとともに消失し、それによって戦争が起きるとな」
「なんですって! 分かっていてなぜ止めないの、おじい様!」
縋り付くティアをテオドーロは怪訝そうに見た。
「ユリアの預言は絶対なのだ。ユリアの子孫であるお前が何故預言に逆らうのだ」


驚愕の冷めやらぬまま、一同は部屋を後にした。あまりの事に言葉も無い。やがてナタリアが呟いた。
「聖なる焔の光・・・ルークの事ですわ。それならアクゼリュスを落としたのはルークですの・・・?」
「護衛が部屋の前で切り殺されていた・・・それならルークはあそこにいたことになる。・・・でも、もう生きてはいないだろうな・・・・・・」
ナタリアとガイの言葉にアニスが叫んだ。
「ええ~! 最低! あんなやつ、死んじゃえばいいんだ! ・・・イオン様だってあいつのせいで・・・・・・」
「大丈夫よアニス。兄さんがイオン様を殺すわけが無いわ。 イオン様はこの世界に必要な方だもの!」
「・・・きっとそうだよね! ヴァン総長がイオン様をさらって行っちゃったんだ。も~、全部あのお坊ちゃんがが悪いんだ!」
「今そんな事を言っても仕方がありません。外殻大地へ戻る方法を探しましょう。ピオニー陛下にも報告しなければなりません。私はこれからテオドーロ殿にパッセージリングについて話を伺ってきます」
ジェイドの言葉に一同は肯いた。

一同の中に、自分にも責任があると思ったものはいなかった。己の罪悪感から目を逸らしたのだ。
いや、罪があると言う自覚さえ無かったのかも知れない。
皆、自分は正しい事をしていると心の底から思っているのだから。
確実な情報も無いまま、思い込みだけで死者(と思われた者)に責任を押し付けたにすぎないその行動が国の上層部にどう思われるかなどと、だれも考えもしなかった。

 


風を切る魔物の上で、イオンはがたがたと震えていた。背後には崩れゆく大地が轟音を立てている。
「・・・アニス・・・・・・皆さん・・・」
背後からイオンを支えるように魔物に同乗していたルークが、可笑しそうに囁いた。
「あいつらなら死んでないぜ。しぶといやつらだからな」
「ルーク・・・何故こんな事を」

しばらく黙っていたルークは、遠くを見るように呟いた。
「アクゼリュスの崩落は預言に詠まれてる。だから俺は死ぬために国に飼われてたのさ。・・・どっちにしろアクゼリュスは持たなかった。俺がやってもやらなくてもあそこは落ちるんだ。そしてあいつらは自分たちの行動を省みもせず全ての責任を俺に押し付け責め立てる。俺はもう、オリジナルどもに振り回されるのはうんざりなんだよ。・・・・・・イオン、一つ預言を詠んでやるよ。お前はいずれアニスに裏切られてモースに売られ、使い捨てにされて殺されるよ」
「アニスが、僕を・・・・・・」
「うん。そんで俺に一万人のレプリカを殺させて、俺も死ねって言われるのさ。オリジナルの世界の存続の為に」
「なんて・・・事を・・・」

振り返ってルークの眼を見たイオンは胸を突かれた。繰り返す絶望に染まったルークは透明な微笑みを浮かべていた。
「なぁ、イオン。なんで俺が幸せになっちゃいけないの? 俺はアッシュと一緒に居たいだけなんだよ。オリジナルがどうなったって構わないじゃないか。ヴァンが造ろうとしてるレプリカ世界ってやつを見てやろうぜ。あいつがしたいのは世界を壊すことだけど、俺達はそのあとのレプリカ世界に用があるのさ」
クスクスと無邪気に笑うルークを見てイオンは心を決めた。

(ルーク、貴方の絶望はこれほどまでに深かったのですね。・・・でも僕にはそれを否定する事が出来ない。何故なら僕の心も同じ絶望に彩られているから・・・・・・)

「そうですね。・・・ルーク、僕にも一緒にレプリカ世界を見せて下さい」
笑うルークに背を預けたイオンの身体は、もう震える事は無かった。

 


パッセージリングについてテオドーロに詳しく話を聞いたジェイドは、タルタロスを改造して打ち上げることを提案した。
他に良い策も無く、その案が実行される。
無事に外殻大地に戻ったタルタロスは、グランコクマを目指す為にローテルロー橋へと向かっていた。
有事の際グランコクマは要塞として閉鎖されてしまうため、直接向かう事が出来なかったのだ。
動力の壊れかけたタルタロスはゆっくりと進んでいた。


ローテルロー橋でタルタロスを乗り捨てテオルの森へと歩いていた一行は、大地が大きく揺れるのを感じた。
じっと何かを考えていたジェイドが皆を振り返る。
「・・・私はユリアシティでパッセージリングについて詳しく聞いてきました。あれは大地を支えている柱です。アクゼリュスのパッセージリングが消失したのなら、このあたりが崩落してもおかしくない。テオドーロ殿は予言に詠まれていないと言っていましたが、・・・どうやら一刻の猶予も無いようですね」
「なにっ! 早く知らせて住民を避難させる必要があるじゃないか」
ガイの言葉にジェイドは頷いた。
「ええ、急ぎましょう」


無事にテオルの森を抜け、グランコクマに到着した一行はすぐにピオニーとの謁見を許された。
「大変ですわ、セントビナーが崩落に巻き込まれるかもしれませんの!」
「陛下、すぐに救助隊を出す必要があります」
「んもぉ~あのお坊ちゃんのせいで大変なんですよぉ!」
ろくに礼も取らず話し出す一行にマルクトの重鎮たちは唖然とした。ジェイドは当然のように咎めもしない。
ピオニーが呆れたように話を遮った。
「まあ待て、まずは詳しく話を聞かせろ。ジェイド、いくら極秘任務だってお前も報告ぐらいしろよ」


このときピオニーには、ジェイドからなにも報告が行っていなかった。キムラスカから親善大使が出発したという知らせを受けて、すべてが順調に進んでいると思われていたのだ。それが突然アクゼリュスが崩落し、キムラスカは兵をルグニカ平野に集めている。
何が何だかさっぱり分らないというのが本音だった。
報告を受けたピオニーは難しい顔になった。パッセージリングの話を聞くとすぐにでも対処する必要がある。しかし大勢の兵を動かせばキムラスカを刺激して戦争が始まってしまう可能性がある。キムラスカにこの事を知らせる術も無い。
「お父様に話せばきっとわかって下さいますわ! だってアクゼリュスが落ちたのはルークのせいなのですもの! マルクトのせいではありませんわ」
王女はそう言うが、楽観視はできない。キムラスカは預言を重視しているのだ。


しばらく考えてピオニーは指示を出した。
「・・・ジェイド、セントビナーの住民の避難の指揮をお前がとれ。ルグニカ平野がきな臭い今、少人数で行くしかないからな。それとナタリア王女、あなたは護衛を連れてすぐにキムラスカにお帰り下さい」
「私もお手伝いしますわ!」
正義感から深く考えもせず発言する王女に溜息が漏れる。今の状況を分かっているのか。
「いえ、それには及びません。早くキムラスカに貴女が無事でいると知らせてください」

ピオニーはミスを犯した。
受けた報告が、思い込みと非常識な主観にまみれたものだと気付かなかったのだ。
そしてそれを正さなくてはいけないジェイドこそが、政治的な配慮にあまり関心を示さないという事を失念していた。
ジェイドはナタリアの性格も、出奔して来たと言う事実も、ティアがファブレ家を襲撃したという事さえどうでも良い事と捉えて報告していなかった。自分達の態度が普通なら死罪になるほどの不敬だなどとは思ったことすらなかった。

人の使い道を誤っていたのだ。・・・最初から。
この事はのちに取り返しのつかない事態を招く。

 


ちょうどその頃、アクゼリュスの崩落から間一髪で逃れることができた一人の護衛騎士が、怪我を負いながらも報告書を携えてバチカルにたどり着いていた。
轟音と地響きの中、彼のすぐ後ろで大地は崩れた。振り返った彼が見た物は、ルークを飲み込んで崩落してゆくアクゼリュスだったのだ。
ルークのおかげで命を救われた騎士は、涙ながらに道中の事柄を話した。
報告書を読んだキムラスカの重鎮たちは自国の王位継承者へのあまりの不敬に怒り狂い、わずかに残っていた開戦を押し止める声は聞かれなくなった。
もうすでに、戦争は避けられない所まで来ていた。

 


セントビナーに向かおうとしていたジェイドにティア達が声をかけた。
「私たちも手伝うわ」
「そうですわ! こんな時に敵も味方もありません。これはルークが招いた事なのですもの、私もお手伝いしますわ。キムラスカの兵に遭っても私がいれば大丈夫ですわ!」
「そうだぜ旦那、俺たちも協力させてくれよ」
「イオン様がいるかもしれないからぁ、アニスちゃんも手伝ってあげるv」
口々に言うティア達に少し考えたジェイドは頷いた。
「それならお願いします。貴方達なら戦力的には十分ですからね。少人数で向かうには丁度良いでしょう」

ジェイドはピオニーに事後承諾で事を進めることに慣れすぎていた。そしてピオニーもまたそれを許してきた。
確かに戦力的には十分だろう。キムラスカ兵が万が一侵攻してきたときの牽制と言う打算もあった。
しかしジェイドは、ピオニーがナタリアに帰れといった意味を考えるべきであったのだ。
『向こうが自主的に言い出しました』では済ませられない事柄もあるのだとジェイドは最後まで気付く事は無かった。

 


ダアトの上空に魔物の羽ばたきが聞こえる。
アッシュは愛しい半身の気配に目を細め、庭に出て行った。
「アッシュー!」
待ちきれない朱がアッシュの腕めがけて飛び込んでくる。ルークをしっかりと受け止めたアッシュはその身体を強く抱きしめた。
「無事か、怪我は無いか? ご苦労だったな」
「これが終わったらアッシュとずっと居られるんだと思って、すっげー頑張った! あいつらの罵倒に耐えた俺を褒めてくれよ!」
ゴロゴロと猫が懐くように顔を摺り寄せてくるルークの頤を捕らえ、口付ける。
「良くやった、ルーク。・・・俺のレプリカ」
口付けを深くすると、ルークの眼が潤み身体から力が抜けた。髪を梳き、耳を弄ると熱の籠った吐息が溢れた。


「ちょっと燃え滓! 此処がどこだか解ってんの? そう言う事は部屋に入ってからやってよね!」
シンクの怒鳴り声に振り返ると、イオンが目を丸くして見ている。ヴァンは硬直したように唖然としていた。
「お・・・お前たち、面識があるのか?」
ヴァンのしどろもどろの問いかけにアッシュは鼻を鳴らして嗤った。
「フン、当り前だろう? 俺達は完全同位体だぜ。・・・俺達に何かやらせたかったらやってやるから、邪魔するんじゃねぇよ、髭」
「俺たちを放って置いてくれるんなら、あんたの計画に協力してやるよ。ねぇ、ヴァン師匠」
腕を絡め、笑いながら二つの焔は室内に消えていった。これから楽しい時間が始まるのだ。
呆れて肩を竦めたシンクは、赤毛達を眼で追っていたイオンを見ると仕方なさそうに声を掛けた。
「何やってんの。さっさと行くよ」
「・・・・・・はい」
今まで見たこともないルークの心からの笑顔に嬉しくなる。イオンは微笑みながらシンクの後を付いて行った。

 


ジェイド達がセントビナーに着く頃には、地震が頻発するようになっていた。
ジェイドはセントビナーに常駐している十数名の兵士に住人を守らせエンゲーブまでの移動を指示した。
次々と民衆が町を出ていく。その時ひときわ大きな地震とともに大地が裂け始めた。
老マクガヴァンを始めとする数十名が崩落する大地に取り残される。

「このままではみんな・・・!」
「いえ、大地の下にはディバイングラインと言うものがあります。おそらくすぐに大地が崩壊する事は無いでしょう」
ジェイドの言葉に、何か考えていたガイが言い出した。
「なあ、シェリダンに空を飛ぶ音機関があると聞いたことがある。それを使ったらどうかな」
「いい考えですわ! シェリダンなら王女の私が居るのですもの、きっと貸してくれますわ! 無辜の民を助ける為に使う事に反対されるはずがありませんもの」
自信満々に手を打ち合わせるナタリアにティアが同意を示した。
「そうね、いい考えだわ。急ぎましょう、大佐」
「・・・分りました。お願いしましょう」


ジェイドは十数名の兵士が付いていれば避難した住民をエンゲーブに誘導することができると考えていた。そのため住民の護衛を兵士に一任し、自らはシェリダンへと向かったのである。
しかし、アクゼリュスの崩落を察知したデオ峠の魔物が大挙してセントビナー周辺に流れ込んでいるとは誰も知らなかった。
過密になり周辺の獲物を食いつくして飢えた魔物にとって、武器も持たず疲弊した人々は格好の獲物だった。
大きな群れで一斉に襲ってくる魔物に、少数の兵士は次々と倒されていった。
守りも無く命からがらエンゲーブにたどり着いた住民は、わずか全人口の一割にも満たなかった。

 


シェリダンではキムラスカ軍が配備され、戦争に備えていた。いつ開戦するかわからない厳戒態勢である。
そんな中にマルクト軍の制服を着たものが乗り込んでくればどうなるかなど、子供でも分かる。
ジェイド達はキムラスカ軍に取り囲まれた。

「お待ちなさい! 私はキムラスカの王女、ナタリアです! セントビナーの民を救うために空を飛ぶ音機関が必要なのです」
ナタリアの言葉に唖然とした兵士が叫んだ。
「何を言っているのです。セントビナーは敵国じゃありませんか! 開戦も間近なこんな時に、敵国に国家機密を差し出そうと言うのですか!」
「命に敵も味方もありませんわ!」
「アルビオールが奪われて戦争に使われたら、数千人のキムラスカ兵が死ぬのですよ!」
言葉に詰まるナタリアにジェイドが囁いた。
「いったん引きましょう。これ以上ここで押し問答しても無駄です」
「でもジェイド!」


不用意にナタリアが発した一言に、キムラスカ兵が殺気立った。
「譜眼、ジェイド・・・こいつ、ネクロマンサーだぞ! 捕えろ、逃がすな!」
舌打ちしたジェイドが譜術の詠唱を始めた。それを遮るように剣戟が浴びせられる。ジェイドに向かうキムラスカ兵を迎撃するようにガイやアニスが戦闘態勢をとった。
・・・キムラスカに敵対すると言う事を、はっきりと態度で示してしまった。

「止めなさい! 王女である私の命令です!」
「王女なら利敵行為などするはずがない!」
兵士の叫びにジェイドの譜術が被さった。地に叩きつけられたキムラスカの兵士が血を吐き、動かなくなるのをナタリアは呆然と見ていた。
『こんなはずではなかったのに・・・ なぜ皆私の命令を聞いてくれないの』 ナタリアの頭にはそれだけしかなかった。


ティアやガイ、アニスが捕らえられ、最後まで抵抗していたジェイドはTP切れをおこした所を剣で貫かれた。
膝をついたジェイドに一斉に兵士の剣が突き刺さる。
いくつもの部隊を壊滅させたネクロマンサーへの憎しみは、ナタリアが思うより遙かに大きかった。 
数十名の死傷者を出した今では尚更に。
ボロクズの様に串刺しになったジェイドが動かなくなったとき、ナタリアはやっとそれを思い知った。

 


キムラスカはマルクトへ宣戦布告した。
開戦理由は王位継承者であるルークのアクゼリュスでの死亡。そしてマルクトの名代であったジェイドのルークへの度重なる不敬とシェリダンへの襲撃である。
宣戦布告の文書を読んだピオニーは、震える手で顔を覆った。そこにはジェイドが行った事の一部始終が記されていた。
ルークの死亡が無くとも十分に開戦理由になるほどの行いだった。たとえジェイドが殺されてもその罪は消えはしない。
おまけにガルディオスの遺児がファブレ家に入り込んでいたらしい。マルクトの差し金で無いなどとは今さら到底信じて貰えない。


「ジェイド・・・あの馬鹿。・・・・・・これではどちらかが滅ぶまで、戦争は止まらん」


美しい水壁に守られた王座の間に、苦渋の呟きが落ちた。

 

 

 

Posted by tafuto - 2008.05.05,Mon


翌朝、出発の前にルークはクリムゾンに面会を求めた。
書斎に通されると、目を合わせようともしない父に構わず話しかける。
「父上、白光騎士を数名貸してくれませんか? あんな役立たずの護衛じゃアクゼリュスに着くまでに死んでしまう」
「・・・お前が道中に死ぬことなど預言に詠まれてはいない」
どこか後ろめたそうに言葉を発するクリムゾンに、ルークは笑いかけた。
「ええ、だから行くまでに死んだら困るでしょう? 『聖なる焔の光』はちゃんと鉱山の町で死ななきゃならないんだから。
腕は立つけど俺と一緒に死んでも構わないような、後腐れの無い騎士を下さいとお願いしてるんですよ、父上」
その言葉にクリムゾンは愕然としてルークを見た。ルークがこの部屋に入って初めて目を合わせる。
「お前は・・・知っていたのか」
「ええ、もちろん。あなたたちが死ねと言うから死にに行くんですよ、キムラスカの繁栄の為にね。その為の仕上げくらい手を抜かないでやって下さい」

絶句したクリムゾンは暫くして騎士団長を呼ぶと何事か言い付けた。敬礼した騎士団長が部屋を出て行く。
にっこりとほほ笑んだルークは、部屋を出る前に振り返った。

「今まで俺を生贄の家畜のように大事に飼っていて下さってありがとうございました、父上。もうお目にかかる事はありませんが、お元気で。さようなら」

バタンとドアが閉まる音が響いた。
クリムゾンは顔を手で覆い、項垂れた。そしてそのまま暫くの間動く事が出来なかった。

 

ファブレ邸を出たルークは同行者のもとへと向かった。
ジェイドとティア、ガイがルークを待っている。そこにヴァンが現れた。
海路は襲撃される恐れがあるからと、先遣隊を率いて囮としてヴァンが海路を行くと言う。
二つ返事でルークは頷いた。どうせ自分が何を言ってもすでに決まっている事なのだ。


ヴァンが出港してすぐアニスが息を切らせて走り寄って来た。
「朝起きたらイオン様が居なくなっちゃってたんです! 門には六神将がいて外に出られないの、お願い、あたしも連れて行って!」
「きっと六神将が攫ったのよ! イオン様に何かあったら和平に差し支える可能性があるわ、探しましょう!」
ティアの言葉にルークは肩を竦めた。
「何言ってんだよ。俺は王命で親善大使としてアクゼリュスに行くんだぞ。導師を教団の人間が連れていったからって、なんで俺が探さなきゃならないんだよ」
「えぇ~! そんなこと言わないで一緒に探して下さいよ~ ついででも良いですから!」
「貴方って自分の事しか考えられないの! 最低ね!」
「そうだぜ、こんなに頼んでるんだ、探してやれよ」

ティアがルークを罵り、ガイが無責任に言葉を発する。ジェイドは我関せずという顔をして笑みを浮かべていた。
「門の外までなら着いて来ても構わない。しかし救出の為の手は貸さない。・・・さて、陸路を行くなら準備があるだろ? 30分自由行動にするから各自でやって来てくれ」
「おや、急ぎの旅なのにこれから支度ですか?」
一度ファブレ邸に戻ろうとしたルークにジェイドの馬鹿にしたような声が掛けられる。ルークは振り向きもせずに答えた。
「海路と陸路じゃ準備も違うだろ? 立派な軍人さんはもう砂漠越えの支度もしてるんだろうけどさ。俺はそこの護衛兼使用人が何も準備をしてくれないもんでね」
ガイは離れたところで怒っているティアを宥めるように談笑している。自分の準備すらしようとはしていない。
一連のやり取りを聞いていた門番の兵士が、口を開けて驚愕しながら一行を凝視していた。

 

ルークはラムダスに言いつけて砂漠越えの準備と馬車を用意させた。クリムゾンに借りた騎士も私服に着替え準備を済ませて集まって来た。
ルークが同行者を連れてバチカルの外門に集合する頃には全ての準備が整っていた。隊商と傭兵に見せかけてある。
ぶつくさ言いながらも早速乗りこもうとしたティアとアニスをルークは手を上げて引きとめた。
「なんでお前らが乗るんだよ。護衛は外にいるもんだろ? 自分の役目を果たせよ。 ・・・アニス、もう六神将はいなくなったぜ。イオンを探しに行くなら勝手にしろ。ついてくんなら外で護衛をしろよ」
「ルーク、女の子にそれは酷いんじゃないのか? 乗せてやればいいじゃないか」
ガイが取り成すように声を掛けるが、ルークは冷たくガイを見た。
「ガイ、俺は親善大使としてここにいる。口のきき方に気をつけろ」
一護衛として外の守りを命じられたガイは不満そうにルークを見た。自分は馬車でルークの世話を焼くと思っていたらしい。
世間知らずのふりをすれば見下し、貴族として当然の態度をとれば憎悪する。そんな奴の事はもう構っていられない。
マルクト皇帝の名代であるジェイドだけをルークは慇懃に馬車へと誘った。

 

馬車が動き出してバチカルを出たころ、馬車に積んであった水樽の後ろからごそごそと這い出して来る人影があった。
「ルーク! 私も参りますわ!」
やっぱり付いて来たか、とうんざりしてルークはナタリアを見る。
「お前、国王陛下に来るなって言われただろ。許可は取ったのか?」
「お父様ならきっとわかって下さいますわ! こんな時に王女である私が行かなくてどうしますの!」
使命感に燃えたナタリアを、ルークは冷笑するように見た。
「親善大使としては許可しない。出奔する覚悟で着いてくるなら勝手にしろ」
王命に逆らう事を軽く考え、ルークの同意を得たと思いこんだナタリアは顔を輝かせた。
「分りましたわ! これから私の事は王女と思わないで下さいまし」
二人の会話を馬車の外から漏れ聞いていた護衛の騎士だけが顔色を青褪めさせていた。
それはそうだろう、ナタリアは王女であることを辞めるとはっきり言ったのだから。

 

ケセドニアまでの陸路の途中、オアシスに立ち寄ることにした。
案の定、砂漠越えの準備をしていなかったティアとアニスが脱水を起こし、水樽の水を必要以上に消費していたからだ。
特別扱いするなと言ったはずのナタリアは、外を歩けと言われるとルークに猛烈に抗議してちゃっかり馬車に同乗している。
それを見たアニスがずるいと騒ぎ、ティアがルークを非難した。
自分達の準備不足を棚に上げルークを責める女性陣や、それを止めもせず一緒になってルークをたしなめるガイを護衛の騎士たちは苦々しげに見つめていた。
王命で旅立った自分達の次期国王が、たかが一兵卒や使用人に蔑ろにされているのだ。
長い間敵国であったマルクトの軍人であるジェイドがルークを馬鹿にした言葉に、思わず剣の柄に手をかけた騎士もいる。


「良いのですか? ルーク様、あの様な事を言わせておいて」
野営の時、護衛騎士にそっと囁かれたルークは、笑って答えた。
「俺は王命に従い、親善大使としてアクゼリュスへと赴き全力を尽くすだけだ。あいつらを裁くのは俺の役目じゃない」
ルークの貴族らしい態度に感心した騎士は、せめてこの事実をキムラスカに知らせようと報告書を作成していた。
騎士は同行者が行ったルークに対する不敬な態度やナタリアのとった行動の全てを記した。それだけ彼らへの怒りが深かったのだ。

どっちにしろアッシュとの約束でオアシスに向かうつもりだったルークは、同行者たちが自らどんどん墓穴を深くして行くのを冷笑しながらただ眺めていた。

(俺はお前たちに何もしない。何をしてやる気もない。お前たちを破滅させるのはお前ら自身の傲慢さだ。・・・早く気付けよ、もっとも気付いた時にはもう全てが遅いだろうけどな)

 


オアシスで一泊して休息を取っていたルーク達の前に、イオンが姿を現した。
驚いて尋ねる皆にイオンは、六神将が用があって自分を連れ出し、用が済んだのでここに自分を連れてきたと答えた。
皆の追及をかわし、疲れているだろうと言ってルークは自分の部屋にイオンを案内する。
騎士が守るルークの部屋にアニスは近寄る事も出来ない。二人きりになるとイオンはためらいがちに話しだした。

「ルーク・・・貴方は知っているのですか? 僕と貴方が同じだって事を。・・・・・・アッシュやシンクと少し話しました」
疲れたように俯き話すイオンを、面白そうにルークは見た。
「知ってるぜ。・・・俺はね、イオン、預言も人間も大嫌いだ。あいつらはいつでも俺たちを犠牲にし、搾取するばかりだ。イオンだってそうやって扱われて来たんだろう? 傲慢な被験者どもに」
「・・・でも、僕は・・・・・・」
「まあ、考えればいいさ。・・・最も、あんまり時間は無いけどな」
逡巡するイオンをルークは見つめた。
その優しさのせいで裏切られ、使い捨てのように殺されたイオンをこれ以上被験者どもの好きにさせるつもりは無かった。


ケセドニアでイオンはルークに切り出した。
「僕もアクゼリュスへと連れて行ってくれませんか?」
「駄目だ、身体が弱いお前をあんなとこに連れて行く事は親善大使として許可できない。俺が行けば良いんだから、お前はおとなしくダアトへ帰れよ」

「あんた馬鹿ぁ? イオン様がいなくてどうするのよ!」
「そうね、今の言葉は傲慢だわ。貴方、いつか痛い目見るわよ」 
ぶっきらぼうなルークの言葉の中に自分への気遣いを感じ取っていたイオンは、アニスとティアの言葉に顔を歪めた。
自分の身体にとって、瘴気の中に行く事が自殺行為である事など自分にも解っている。それを止めもせず、ルークの言葉だけを捉えて非難するアニス達に不信感が募る。

今まで自分が守ろうとしていた、信じたいと願っていたものが砂の城のように脆く感じられる。
人を信じたい、信頼に値する存在であるともう一度自分に確かめさせて欲しい。

「・・・お願いです、ルーク。僕は見届けたいんです。・・・・・・この顛末を」
じっとルークの眼を見つめ何かを決意したようなイオンの真意を、ルークだけが見抜いていた。
「・・・・・・わかった」


デオ峠からは馬車が使えないため、歩きになった。
せめて自分の為に遅れないようにと頑張って歩くイオンを、アニスたちは気にもしない。護衛の隊列を組むわけでもなく談笑しながら歩いている。
イオンの為に頻繁に休憩をとるルークを、世間知らずの我儘なお坊ちゃんだと嘲笑している。
自分達がどれだけ傲慢な言葉を発しているか、気付きもしない。
イオンは耳を塞ぎたくなった。

途中、ティアを連れ戻す為にリグレットの襲撃があった。
ルークを庇って護衛騎士の一人が怪我さえしたのに、ティアは『個人的な事で貴方には関係ない』と言い放ち、謝罪の言葉もない。
人の傲慢さは、イオンの心を少しずつ蝕んでいった。

 

峠の奥に紫色の靄が立ち込め、一行は立ち竦んだ。・・・アクゼリュスに着いたのだ。
街のあちこちに人々が倒れ伏し、その殆どはすでに絶命していた。
「しっかりして下さいまし! キムラスカの王女ナタリアがあなた方を助けに来ましたわ!」
ナタリアが倒れた人に駆け寄って回復術をかけた。ティアが、アニスが、ガイがそれぞれ倒れた人のもとへ走って行き介抱している。
イオンやルークは放置だ。
彼女らは病人に手を出そうとしないルークを『役立たず』とまで罵倒した。

護衛騎士たちは唖然とした。
王に勅命を受けた親善大使より先に名乗りを上げる王女。守るべき主を蔑にし放置し罵倒する護衛。
一人二人に回復をかけて何になるというのだ。リーダーの指示も待たず好き勝手に行動するのでは、助かるものも助けられない。
それにこれではもはや手遅れだ。なぜマルクトはもっと早く手を打たなかったのか。街道使用許可は出ているのに。


ルークが騎士たちを振り返った。
「誰か責任者を呼んで来てくれ。それからおまえ、此処の状況を今すぐキムラスカに知らせに走れ。・・・お前の書いてたものも忘れずに王に届けろよ」
道中の報告書を書いていた騎士をルークはアクゼリュスから離脱させた。
生き残って王に報告するのは一人いれば充分だ。
きっとすぐにでも戦争が始まるような素敵な報告をしてくれるだろう。


アクゼリュスの責任者に『死にたくなかったらすぐにここから離れろ』と指示を出し、ルークは坑道の奥へと向かって行った。
遥か前方をイオンが守護役も連れずにたった一人でふらふらと歩いている。イオンの姿は坑道の奥へと消えていった。
「イオンを保護しろ。俺は平気だから全員で行け」
騎士達はルークの命に従いイオンの後を追って行った。 

・・・程なく坑道に絶叫が響き渡った。

 

ゆっくりと歩み寄っていったルークは、ヴァンに抱えられたイオンとその足元に騎士達の亡骸が転がっているのを見た。
「来たか、ルーク。・・・・・・さあ導師、この扉を開けて頂きましょう」
暗示でぼんやりと放心していたイオンは、その言葉にはっと正気に返った。
「ここは・・・ なぜこのような所を開ける必要があるのです」
戸惑うイオンにルークは笑いかけ、ヴァンに聞こえないように小さく囁いた。
「なぁ、イオン。心は決まったかい? タイムリミットだぜ。さあ、俺を取るかあいつらを取るか決めてくれよ」
目を見張ったイオンは、一瞬の逡巡の後に扉に手をかざし封印を解いた。

「さあヴァン師匠、早く行きましょう!」
ニコニコと笑うルークに手を引かれるようにヴァンはパッセージリングに向かった。
ふらつくイオンを少し離れた所に座らせて、二人はパッセージリングの前に立った。
「さあルーク、手を前に翳しなさい。私が居るから大丈夫だ」
素直に従うルークを後ろから抱き込むように抱えると、ヴァンは暗示の言葉をささやいた。


・・・・・・何も起きない。

慌てたヴァンがルークを覗き込むと、ルークは下を向いて肩を震わせていた。
「くっくっ…あは、あははははははは!!」
ヴァンは信じられないものを見るように、哄笑を続けるルークを凝視した。
「馬鹿だなぁ、ヴァン師匠。俺に暗示なんか効くと思ってんの? 俺にパッセージリングを破壊させたかったら、そう言えば良かったんだよ。『世界に復讐したいからここを破壊しろ』ってさ」
そう言うとルークはくるりとパッセージリングに向き直った。両手を上げて力を集めるとその両手の間に光が溢れる。

「さあ、終わりの始まりだ」

超振動はパッセージリングを貫いた。振動とともに細かいヒビがパッセージリングを覆ってゆく。
「ヴァン師匠、俺もローレライに復讐したいんだよ。あんたの役に立ってやるよ」
驚愕してそれを見ていたヴァンは、ルークの言葉に歪んだ笑みを漏らした。
「この私が騙されていたとはな・・・・・・良かろう、来い」
準備していた魔物にルークとイオンを乗せると、ヴァンはその場を飛び立った。

 

 

 

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作品は全部書き上げてからUPするので、連載が終わると次の更新まで間が空きます。

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